「平日に会社を休んだ日」

Ryunosuke Honda
あたりまえ手帳
Aug 16, 2022

約4年半暮らした家を引き払うことになった。職場の異動に伴い引っ越す形だ。

と、云っても、隣の隣の町に移り住むだけのこと。現在の自宅から車で30分の距離だ。

これからは8月末の引っ越しに向け何かとせわしない日々が続くはず。
そんな中、今日は会社を休むことにした。

引っ越し用の段ボールが積まれ、さらにせまくなった部屋。
カーテンを閉め切っても、窓際にいると雨音がきこえてくる。
机の上にある花も、ここのところの忙しさで枯れたまま。こうべの垂れた花をPCの明かりが下から照らす。

昨日の夕方から降り続く雨。街に飲みに出た昨日の晩、歩いて10分足らずの家にタクシーで帰った。昨日までの街は3年ぶりの夏祭りでにぎやかだった。日頃見かけないやんちゃなティーネイジャーたちがそぞろ歩いた「あの路面」。雨はあの路面を人知れず叩き、片付けを待つ露店のテントを濡らしているのだろう。

祭りが終わり盆も明けたところで、夏はこのまま静かにフェードアウト。秋の歌い出しがうっすら聴こえ始めている。北海道の夏は短い。

気持ちが落ち着かないせいなのか分からないが、太鼓などのパフォーマンス集団「乱拍子」の公演中、およそ3年ぶりに泣いた。しかも2時間近い公演の間に3回泣いた。その音色は、僕にとってジャンルレスかつボーダーレスに聴こえ、感動の理由すら説明できないまま、混乱の中で落涙を止められなかった。

ここ最近、本数を減らしてた煙草をまた吸い始めるようになった。ちょうどいいタイミングだ。じめじめした夏が終わり、ひやりとする季節。寒い雨の日に煙草を吸うのが好きだ。なじみの酒場に煙草を預けておいて店で飲み食いするときだけ大切に吸っていた時期も数カ月あったが、もう店側に要らぬ配慮を強いる必要もなくなった。

雨がまた一段と強くなってきた。起床から3本目の煙草。家の前の通りは小さな海になっている。ここのところの天気は気まぐれで、1日の中で雨が降ってきたり、晴れてきたりする。今日は昼過ぎまで雨が降る予報。この雨では外に出るのもおっくうだ。夕方から床屋に行くがそれまでに止んでるといいが。

盆明けだと、あのカレー屋も代休を取っているはずだ。出前館のページを開くと、相も変わらず店内飲食のできないテークアウト専門の「ゴースト店」が次々に表示される。キッチンにしか実態のない店、同じキッチンで複数店のメニューを作る店、客席のない店。僕はそういうのが好きじゃない。あとはカニカマ、背の曲がった小さな海老(ただし桜エビは除く)が好きじゃない。なんというか、紛い物という感じがして。

引っ越しを待つ暗い部屋の片隅。もう自分のじゃなくなった部屋をいつか遠くから眺めるのだろうか。4年半、いい思い出は少なかったが、期せずして最後の半年に刻んだ大切な時間。空っぽになった部屋を出るとき、ありきたりで野暮くさく小恥ずかしいが、少しばかりの感傷に浸ることをどうか許してほしい。

2018/3/21

外が明るくなってきた。玄関の上の小窓から光が差し込んできた。

2022/08/16

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Ryunosuke Honda
あたりまえ手帳

「道」のつく日本唯一の地域に移住。蓴菜、オクラ甲乙付けがたし。 対面でお話する時、ポテチ成分談義の話題がお好き。