「暑っつい。暑っい。」

Ryunosuke Honda
Jul 30, 2017 · 4 min read

電車で小型扇風機持っている人がいた。羽根が回ってたのかは確認しなかったんだけど、なんか暑そうだった。

私はというと今から「クソ」のつくほど夏らしい場所へ移動しようというのに、帽子を忘れちまった。¥300均一ショップで仕入れてきた紛い物のグラサンはあるというのに。

帽子を被るの忘れちゃったし、高架下の服屋で新しいのちょっと見てみるかと思って、初めての店に入った。狭くとも細長い高架下特有の店構え。奥から出てきたおじちゃんの、パッと見の印象「昔、おれもワルやってなァ」と長々と話しそうなめんどくさそうな感じだった。若造がこんなことを言うのも恐縮だが、こういう印象は8割外れることがないので、警戒アンテナを少し立てておく。


「ここは初めてか?」

はい、そう答えた私だったが、思えばなぜ客がそんなことをいちいち聞かれなきゃならんのだ、ここは会員制紳士クラブかよ、と涼しげな顔でこちらもハナからバトルモード。

「きょうは帽子を探してまして。ここから見えるあの奥のハンチング帽、いいですよねえ」

と言って私は店の奥の上に掛かったちょっとカラフルでトロピカルなテイストの帽子を指差した。

子曰く、やないけど、親父のたもうて曰く、

「ウチは基本顔なじみの人ばっかりやからね。で、きょうは誰かの紹介?」

とアイドリングトークばかり続けてる。というより、そもそも若造の発する言葉には一切の価値がないと確信しているのか知らないが、全く違う話をまだしている。

私は急いでる中、あの帽子を見てみたいんだ、気に入ってるから買っちゃうかもしれない、という情動を押しとどめて、親父の話に5分だけ、と決めて付き合うことにした。

そこのお店はヴィンテージ付きのシャツや帽子をメインに扱ってるとのこと。そこに来る人はみな、そこで服やアクセサリーを買うために一生懸命働いて来るらしい。

だったらなんだ。通りがかりの客はお断りってか。じゃあ高架下なんかの人通りの多いエリアに店出さずに1人で家に人呼んで店やっとれ。それか店にドアつけて内側から鍵つけて店やっとれ。

崇高なご教示を私に与えながら、ようやく目当ての帽子を取ってくれたのだが、その帽子は明らかに私にはtoo smallだった。お恥ずかしい話だが、私の頭は非常に大きい。XLサイズかフリーサイズをゆったりと被るのが毎日帽子を被る人間にとっては心地いい。

だから申し訳ないです、これ私の頭が多すぎるので、サイズもSですし、入らないのでお返ししますね、と被らずに返そうとした。

すると親父は、「被りもせんと無理言うなぁ、ほらこんな感じでイケるやろ?(どや)」と帽子を深く被って見せながら、黄色人種の頭蓋の大きさについてご丁寧にも講釈を垂れてくれた。こうやって深く被るんが、かっこええねん、とこっちを向いたが親父にもその帽子は明らかに小さく、ああこうはなりたくないと思う。こちらは大きすぎる頭に小さすぎる帽子を被って、商品を傷つけまいと真っ当なことしたつもりなんだがなぁ。

「ほら、こんなんどや」と親父が店の奥の方から何やら取ってこようとした時には、5分の制限時間を使い切る前に(恐らく2分50秒くらい)私はすでに店の外に出て、音速で夏の兆しのある方へと向かっている。

それにしてもどうして帽子を忘れたことをきっかけに、ちょっとしたささやかなご褒美を自分にしようとしただけでどうして人は傷つくんだろうか。そして親父も最近の若者は失礼な奴が多いとお怒りに違いない。ああお互いに悪い巡り合わせだったとしか言いようがない。

無防備な頭に300円のグラサンを掛け、すっかり被害者然な顔をしながら、書くネタを手に入れ車中で原稿を終えられそうなことにほくそ笑んでる男とは、筆者のことです。

そして暑っい。

2017/7/30

あたりまえ手帳

世の中の「あたりまえ」を再記述し、辞書として残すプロジェクト

Ryunosuke Honda

Written by

「道」のつく日本唯一の地域に移住。思いついた日に古本屋「たぶん屋」やってます。蓴菜、オクラ甲乙付けがたし。 対面でお話する時、ポテチ成分談義の話題がお好き。

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