大阪でキーシンを聴き、京都大市ですっぽん鍋を食す

自慢ではありませんが、音楽の素養はまったく無く、弾ける楽器と言えばフォークギターのコードをポロンポロンくらい。特にクラシック音楽は睡眠薬としか思っていませんでした。

その私をピアノ鑑賞の世界に引き込んだのが、2009年のバン・クライバーンコンクールでの辻井伸行さんの活躍。目の不自由な弱冠19歳の彼が、世界のエリートピアニスト相手に、神がかった演奏でコンクールを勝ち抜き優勝する姿に、すっかり虜になってしまいます。コンクールのDVDは、大げさでなく50回以上は観ており、自宅でいい感じに酔うと、気がつけば聞いているって感じ。子供達には、「また、お父さんが辻井くん観ているけん、酔っ払っとる」と言われる始末です。

辻井さんのyou tubeを観ている時に知ったのが、ロシア人のエフゲニー・キーシン( Evgeny Kissin)フジコヘミングさんで有名になったラ・カンパネッラを、若い時に弾いている動画を見つけます。辻井くん大好きの私ですが、どう贔屓目にみても、この人の方が総合力が上だなと感じ、調べてみます。すると10歳でデビューして、いきなりスターになった為に、コンクールに出たことがないとの別格の神童で、50歳近くになった今、円熟期を迎え巨匠の道まっしぐらなのです。

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その彼が大阪にコンサートに来ることを偶然発見し、奥さんがネットでチケットを予約。今回は、それをメインに関西に一泊で遊びに来ました。

キーシンのタッチは細やかなイメージですが、実際はかなり大柄で、パワーもあります。繊細な調べは小鳥の囁きのように、盛り上がる部分は格闘家のような迫力で、圧倒されます。

最後の一瞬まで全力のアンコール三曲を聞き終わると、はね飛ぶように立ち上がり、手が痛くなるほどのスタンディングオベーション状態で別れを惜しみます。

さて、

興奮冷めやらぬまま、JRで京都駅のホテルへ移動して、夕食へ。

大市は、18代続く創業340年の京都を代表するすっぽん料理屋。

かのグルメマンガ美味しんぼで紹介されていたのを覚えており、一度は来てみたかったので、かなり前もって予約し、ワクワクの突撃。

店内はまさに江戸時代のまま。低い天井の畳の部屋から板の廊下を通り、茶室のような個室に案内されます。

中居さんに飲み物だけ伝えると、特にメニューの説明はなくお通しが運ばれてきます。◯鍋(まるなべ)コースのみで、サイドメニューもないので、しっとりとショーが始まります。

すっぽんの肉のしぐれ煮を頂きながら、奥さんとビールをお酌しあうと、江戸時代にタイムスリップしたような、鬼平犯科帳の気分になります。

「お忍びとかで、しっぽりと来る感じやね。」と、思ったことをそのまま口にしてしまい、奥さんが「は?」ってなりますが、すっぽんのゼラチンで、口が滑ったようです。

1600度に熱せられた土鍋が、マグマのようにグツグツと沸騰した状態で運ばれてきます。中居さんは慣れたもので、目の前でスープと身を取り分けてくれますが、見ているのも怖いくらいの沸騰状態です。

肉厚でプリプリとした独特の触感と、スッキリした薄味の中の深い旨み。

いろいろな部分を、口の中で小骨から外すようにしてしゃぶりつきます。

温かい状態で食べてほしいとのことで、鍋は二回に分けて運ばれてきて、同じように目の前で取り分けてくれます。中身はすっぽんだけで、野菜や豆腐などは入らないのが粋ですね。

熱燗と交互に頂きながら、ゆったりとした時間が過ぎていきます。

最後は、玉子の入った雑炊とお餅。

エキスをすっかり吸い込んだ米粒が、少し焦げた感じで幸せの香りを放っています。土鍋の底は割れやすいので、強くこすらないように注意されますが、許されるならガリガリとすべてのお焦げを一粒残さず食べたいくらいです。

最後は、柿。

確認していませんが、たぶん渋を抜いたものだと思われます。歯ごたえを残しながら、とろりと柔らかく、ほのかな自然な甘みで舌も落ち着きます。

ゆっくりした後玄関に出ると、女将がお見送り。

玄関の畳が、碁盤の目のようになって珍しかったので、尋ねると、

「特別にあつらえております。おおきに」と、最後まで完璧な老舗感。

めったにできない経験ができ、その余韻に浸っている二人は、タクシーで祇園の街へと向かうのです。