「アンチ阪神ファン、雨の中で改宗する」

Ryunosuke Honda
Jul 27, 2017 · 5 min read

友人がライトスタンドのチケットを運良くゲットしたと知らせてくれて、阪神vsDeNA戦(高校野球開幕前の甲子園最終戦)に行くことになった。

ただし、問題が2つ。

⑴何度だって云ってやるが、私は断酒をしている(初めて私の記事を読んでくださった方は、秋田へ酒蔵を訪れるためだけに観光ヌキの旅行を往復鈍行列車で実行したことがある、といえば1ヶ月を過ぎようかという禁酒が私にとってどれほど辛いものかご想像いただけるかと思う)

東洋経済オンラインも特集を組んだ、甲子園の「デキる売り子ちゃん」たちが冷たいビールを暑い夏に巧妙な手口をもって我々に売りつけ、得点が入る度に周囲の観客と乾杯する、そんあお世辞にも上品とは云えないライトスタンド上段である。そんな空間で「兄ちゃん阪神勝ってて気分ええさかい奢ったるわ」に対して「いえ只今禁酒中でして…」などと言い訳しようものなら、ジェット風船にくくりつけられて、53kgの私の身体は甲子園浜あたりまで飛ばされていくだろう。(実際に観戦中に隣の方からお酒を薦められた)ヤジられながら風船と共に飛ばされたげく甲子園浜から家に帰るのも一苦労だ。
要するにだ、酒を飲まずにやり過ごせるのかがライトスタンドにおける大きな課題である。

⑵そして、言い忘れていたが、私は「アンチ阪神ファン」である。少し言葉が厄介だったかもしれない。私は阪神タイガースが嫌いだ。読売ジャイアンツを応援する気は無いが、昔から阪神が負けることを野球ファンとして一心に願い続けてきた。そんな私がいよいよ、阪神ファンの巣窟、ライトスタンド、まさに”最右翼”の一席に腰掛けようというのだから、生きて帰れるかも非常に怪しい。


私の2つの予感は見事に的中した。

ライトスタンド上段は、黄色い「過激派」で埋め尽くされていた。そしてその過激派たちはみな総じてビールを左手に、右手で「お手製メガホン」をこしらえてそこから汚いヤジを飛ばす。戦ってもいない相手に対して「読売くたばれ」というブラカードを掲げている人すら見受けられる。ああもうダメだ。生きて帰れない…

私たちの席の真後ろから爆発音のようなけたましい2台のトランペットが応援歌の旋律を奏でている。私は憎らしくとも、その聞き慣れた「敵のサウンド」にリズムを取り、腕組みしながら試合の経過を見守る。


4回の裏(野球を嗜まない方にとって、この言葉は異国の言葉のように聞こえるだろうが、野球は対戦する2チームが9回まで攻守を交代しながら、その得点を競うゲームだ、4回はゲームの中盤である)阪神の攻撃は、それまでヒット1本に抑えられていたDeNA先発石田投手からとうとう連打でチャンスを作った。ホームランが出れば一挙、逆転の場面である。

私以外の黄色い過激派どもは、黄色い歓声をあげ、ビールが飛ぶように売れていく。そして石田投手の投じた(ライトスタンドから見たところ)凡庸な球は、あっという間にレフトスタンドへ運ばれ、タイガースは逆転した...

私は仕方なく、そして力なく、六甲おろしにリズムを合わせ、屈辱的な数分間を狂乱乱舞のタイガースファンとともに過ごした。私の唯一の癒しは、「え、今のってなんなん?なんでバッターが一塁の方にあるいてるのん?」と聞いてくれる野球観戦初心者の女の子だけである。

そうこうしてるうちに試合は完全にタイガースペースになり、もうこのまま試合が終わるだろうと思われたころ、雨がゆっくりと降り始めた。通り雨だろうと誰もが思った。予報では降水確率30%ほどであった。
野球観戦初心者の女の子は徐々に強まる雨を顔で受け止めながら、「ああ雨が気持ちいいいいいい」と天を仰ぎ、大学4年目らしからぬワケのわからんことをのたまっておるし、雨は強くなるし、タイガースは勝ちそうだしで、私はもう泣きたい気持ちだった。

雨は一段と激しさを増す。
とうとう試合は一時中断が宣告され、最右翼の過激派たちですら、席を離れて続々と屋内への避難を始めた。
一緒に観戦していた友人2人たちも屋内に避難し、私はというと、屋内のもみくちゃになった人の群れに伍するくらいならばと、外に出て激しい雨を一身に浴びることにした。もうなんでもいいや、そんな気分だった。

先ほどまでの満員の客席が嘘のように閑散としている。
私は豪雨の中、空を見上げた。友人がそうしたように。

そして見上げると中空には、ラッパがあり応援歌があった。
スタンドに残った最も過激な者どもが、グランドを懸命に雨から守ろうとする整備員たちに応援歌を歌っていたのである。
ああ、なんと美しい光景。
空と私の顔を繋ぐ雨粒はスタンドの光を受けてキラキラ光る線を描く。

心優しき過激派の「右翼」たちは、雨が止むことを信じて疑わない。
だからラッパを鳴らし続け、手拍子を送るのである。


雨が止もうかという頃、私たちは冷え切った身体をどうにかするために、近くのトリキへと向かった。
スマホが試合再開後の阪神の圧倒的な試合運びを淡々と報じていた。

トリキに入ろうとすると、会計をする男性が私たちをチラッと見るなり、「すみません、阪神戦どうなってますか」と尋ねてきた。

「ええ、もうきょうは阪神の勝ちで連敗はストップですよ」

そう答えた私たちに男性はちょっと嬉しそうに「そうですか、ありがとうございます」と店の奥へと帰って行った。
その時ふと気付いた。

私たちは黄色い過激派の装束に身を包みトリキの前にいたのだ、ということを。
その時の私が、長年に渡る「阪神嫌い教」から「阪神そんな嫌いじゃない教」への改宗を自覚したのは言うまでもない。

2017/7/28

おさけmediated夜話

記憶に依存しちょっぴり”おさけ”に浸かった人たちのお話

Ryunosuke Honda

Written by

「道」のつく日本唯一の地域に移住。思いついた日に古本屋「たぶん屋」やってます。蓴菜、オクラ甲乙付けがたし。 対面でお話する時、ポテチ成分談義の話題がお好き。

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