「ウォーキングウィズオールモストデッドイヤフォーン」

”ヴィンテージ・イヤフォーン”を、ご存知だろうか?

恐らく多くの読者は初めて目にした言葉ではないだろうか。
それもそのはず、私がいま思い付きで作った言葉だ。
思い付きで作った言葉をgoogle検索に掛けたが、ざっと見たところ「ヴィンテージ・イヤフォーン」に関するめぼしいページは見当たらなかった。

検索して見つからなかったからといって、
「インターネット上に存在しない事物は、世界に存在せず、インターネットと世界は今や同義である」
などと云うつもりはない。
もしかすると、パラグアイのミュージックマガジンでは「ヴィンテージ・イヤフォーン」という言葉がちょっとした流行になっているかもしれない。
それは誰にも分からない。

ただ、1つ云えることがある。
ヴィンテージ・ブックス/ワイン/クローズがあるなら、「ヴィンテージ・イヤフォーン」という言葉もいずれ生まれるであろう、ということだ。


なぜ、イヤフォーンにこだわっているか。
この半年でイヤフォーンを3つ破損したからである。
3つとも破損の原因と症状は全く同じだ。

右耳のみ聴こえなくなったイヤフォーン。
世界の右を向いて寝る、かつ、就寝中にイヤフォーンを着用して音楽を聴かないと眠れない、そのような方たちにはよく分かって頂けるかと思う。

枕と耳の隙間に挟まった、”R”と記載された哀れなイヤフォーン。
ここ半年やめられない習慣(半年前から始まったのは就寝中の音楽視聴)こそが、4代目のイヤフォーンを迎え入れてしまった。
ついこないだの、どこぞの国の次々に交代する内閣みたいだ。

4代目イヤフォーンは最も廉価なものをヨドバシ.comから選んできた。
確か200円ほどだった。

宅配で届いたイヤフォーンは予想通り、見たことのないメーカーの作ってる製品のようで説明書が非常に簡素だった。
本体はターコイズブルー、ケーブルは1.2mとのことだった。

実際に音楽を聴こうとウォークマンを探す。
が、ない。
きっと鞄の中だろうと思い、すぐさま探すも見つからない。
この時期に上着を羽織らないが、念のためポケット等を確認するがない。

まさか、と思い、洗いたてのジーンズのポケットを手で探る。

あった。

人生初の「センタッキー・ウォークマン」である。
それでも動くだろう、と思って、ボタンをあちこち触ったりしていた私は、防水不可のミュージックプレーヤーのスペックを過信していた。

聴こえなくなったミュージックプレーヤー。
幸いバックアップはパソコン上でされていたため、これからはi tunes経由でスマホから音楽を聴くことになった。
4年病めるときも健やかなるときも連れ添ったウォークマンの追悼は、稿を改めてさせて頂きたく思う。


新しく買ったイヤフォーンの話だ。
スマホで別段聴きたくもなかった曲を再生してみたところ、音が非常に悪い。
日々買い替えるたびにアップグレードしていくイヤフォーンを使用していたせいなのだろうか。
根拠のないイメージでしかないが、2002年ごろのイヤフォーンを使用しているようだ。
耳とイヤフォーンとの間に薄い膜があり、その奥から響いてくるような音だ。

なんてことだ。
安かろう悪かろうの世界だ。

と一度は大げさに絶望してみせたが、ふと思えば、これはヴィンテージなのではないか。
ニッチでハードコアな「イヤフォニスト」たちにとってはこの製品はコレクターズアイテムなのかもしれないのだ。
ヨドバシがその目利きを誤り、とんでもないマニア垂涎の品を200円程度で売買してしまったのやもしれない。

想像力としては悪くないが、いずれにしても音の悪さは残る。
音の悪さは現在のリスニング環境(ノイズキャンセリング、ワイヤレス化等)からすれば、致命的だ。
どのミュージシャンたちも、自分たちの作る音楽がどうイヤフォーンから聴かれるか、どれくらいの高音質で視聴されるか、それらを踏まえてマスタリングに多大な労力を傾ける。

だが考えてみてほしい。
ヴィンテージカーは、正直なところ哀愁を誘うスタイリッシュさはあるものの、性能はいまいちでメンテナンスが大変だと聞く。
ヴィンテージ・ブックス、すなわち古書のことだが、これもまた日焼けがひどくあまり綺麗じゃなさそうだし、内容は後回しになりがちだ。
サンリオSF文庫に興味のあった頃、定価300円程度の文庫本が版によっては3000円近くで取引されている、と聞いた時も、正直言って、その内容よりもその本の持つ「特殊な情報」に興味を惹かれたものだった。
何より映画がそうだ。
誰が好き好んで、20世紀初頭ドイツの表現主義時代のカクカクした映像を観たがるか。それはよっぽどの物好きだ。

同じようにイヤフォーンはどうだろうか。
〇〇年製の▲社のイヤフォーンはもう希少で手に入らない。今でこそ音は悪いが、当時は一時代を築いた...


これでいい。
そう思ったのだ。
歴史の浅いイヤフォーンにはまだ到来していないヴィンテージブームに備えて、冷戦時核戦争が来ると本気で信じて家の地下に自家用シェルターを作っていた人よろしく、このくぐもった音質のイヤフォーンで毎朝、歩き出すことにした。

2017/10/16

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