「スウィートビターエントロピー増大音頭」

Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話
4 min readNov 28, 2020

甘いものなんて食えやしないと思って25年経った。甘いものの対極と云われればしょっぱいものを思い浮かべる諸兄も多かろうが、実際のところしょっぱさじゃ物足りない。僕に真なる救いと癒しをもたらすのは、食感であり、酒を含む「汁物」が好きなだけなんだという事実に行き着いた。ちなみに最新の好きな食のランキングは、3位「卵スープ」、2位「オクラ」、1位「じゅんさい」だ。汁物、そして食感が命で、味なんて二の次の食が並んでいる。

何を食うか、何を飲むか、そんなことばかり考えてるうちに2020年も暮れゆく。ああ、賢人たちの云う通りだ。人生は長いから騒ぎで、祭りだ。うっとりしたり、悲しんだり、ぬか喜びしたり、恥ずかしい思いも、あれもこれも全部終わってみれば夢幻の如きなり。自我の飼い慣らし方を覚えた頃には、髪は薄くなり、運が良くて真っ白で。

そしたらミュージカルの中で生きる登場人物たちみたいに歌って踊って、いい調子で生きた方がいいのか!クレイジーキャッツの植木等や、釣りバカ日誌の浜崎伝助みたいに細かいことに頓着せず、大らかに、無責任に。ああ歌い出したい気分だ。人生で大事なことは、タイミングにC調に無責任!

いや待てよ、何を今更。25年変わらなかったことがそんな簡単に変わるものか。留学先のカナダで、背伸びしてクラブに通いまくってスピーカーの真ん前でビートに身を揺らしてもゲイ御用達のクラブだったし。背伸びしていい酒の飲み方を勉強してきたのに、日本酒の味と香りは日に日に分かんなくなっていくし、ならばビールくらいはと思ってトンカツ屋で昼から粋がって瓶ビールを注文して注いだら起きしなで頭がぼんやりして溢れさすし、そこをちょうどお盆で定食を運んできた店員に見られるし。

背伸びしても背伸びしても、調子良くやろうとしても大体おんなじ結果だ。世界はおんなじことの繰り返しで、エントロピーは増大するばかりで、おんなじことを繰り返しながらも世界は分かりにくさが増すばかりだ。メリーゴーラウンドでもいいし、やぐらのまわりを輪になって踊る盆祭りでもいいが、またおんなじとこに戻ってくるだけだ。

そして厄介なことに、人は突然失踪したと思ったら訳もなく帰ってきてるし、野良猫みたいなもんだ。気まぐれで、無秩序で、こちらの思う通りにならない。大げさに心配してみせても空振りで、かと思えば油断していたら人は本当に戻ってこない。

酒を飲めば、独りで飲み過ぎ、翌日に死にそうな形相でベッドをのたうちまわり、意識がはっきりしてきたらアル中患者の白黒映画を観て「酒は罪深い」としみじしみわが身を省み、映画よろしく家中の酒をトイレに全部流しちまう勇気はないものの、数日酒を飲む気がせず。酒に飽きたら新たな趣味に走るかと、ジムに行くも、器具に囲まれてあのやらされてる雰囲気が腹立たしく、結局狭っ苦しい通路を走ってるばかりだ。それならばとオーガニックショップに行ってカモミールティーを買って、化学物質の名前ばかり頭に残って恐ろしくなり、オーガニックビールの値段の高さに辟易し、それなら金麦でいいだろうと、音楽に勇気をもらって飲み始める。ナチュールワインでも買って帰るかと帰りの荷物が重くなるだけだ。

精神分析にすがったり、自己啓発セミナーに通ったり、Amazonの消費奴隷になったり、時代遅れの宗教に奔ったり、ああどれも同じことだ。宇宙は膨張していつか破裂するだけなのだ。

そんなことを考えてたら自分の好き嫌いだとか、仕事だとか休みだとかどうでもよくなってくる。そんな時、たいてい目の前に甘いものがあり、ひとかけら口にしたら全ての悩みが消えていくのだ。糖分は多くの問題を解決するのである。

2020/11/28

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Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話

「道」のつく日本唯一の地域に移住。蓴菜、オクラ甲乙付けがたし。 対面でお話する時、ポテチ成分談義の話題がお好き。