「ライブ配信おっぱじめるくらいにとち狂った心」

Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話
6 min readApr 30, 2020

ここ数日間でFacebookのライブ配信を立て続けにやった。
自粛警察がお手製棍棒を手に跳梁する時代であるので、うかうかと外を出歩こうものなら袋だたきにされかねない。
必要な兵糧を買い込み、ハッシュタグつけて「おうち時間」に勤しむ毎日である。

いつもの精神状態なら、他人様の前に自らの動く映像を、こともあろうか、生配信するなどという愚行に走るわけなどなかった。
休日は昼前に起きて、そば食って、喫茶店で手紙書いて、映画館行って、帰りに飲み屋回って、家で淹れたカモミールティーで酔いを覚まし、眠りにつく。こんな当たり前のことを誰に話すでもなく自分のありきたりな日常として反復していた。今にしてみれば、そんな牧歌的な時代はどこかに霧消してしまったのだが。

休日のバランスが崩れ、仕事と生活の壁がドロドロに溶解した。
そして普段なら軽蔑し、一瞥すらやらない生配信などという愚行に走ったのである。
何故言葉を尽くして生配信を口汚く罵るかというと、まず第一にあれは洗面所で鏡を見ながら体躯をクネクネさせているのと同義であり、第二に鏡に向かって酒を飲み喋りかけるなどというのはナルシシズムの極致に他ならないからである。

ブログを書くのもナルシシズムの発露に他ならないであろうという声は、完全に正しい。ただしリアルタイムで自らの一挙一動が世界に漏れ出すという想像するだけでもおぞましい地獄からは少なくとも解放されている。ブログを書くという行為を通じ、自意識との戦いに辛うじて”溜め”をつくることができる。最もヘルシーなのは、生配信にもブログにも日記にも目も呉れず、日々を打ち捨て、忘却の進むに任せる態度なのは云うまでもない。どこで話すかも分からない面白話を収集し、どこぞのSNSに投稿するわけでもない日々の記憶を写真に残すくらいが現実的な妥協線だと云えよう。

さてここ数日間、私はFacebookのライブ配信を3回やった。

初回は酒に酔った勢いで始めた。缶ビールと自作のレモン酎ハイで気持ちよくなったところで、悪ふざけかつ、一瞬の迷いすらないノータイムで配信ボタンを押した。結局3時間話したが、後半1時間何を喋ったのか記憶が歯抜けになっており、肝心のどうやって配信を終えたかの記憶がなかったのである。

ただここからもさらなる地獄が待ち受けている。
二日酔いの頭を振って起き上がって、記憶の修復を試みる際、過不足なく、眠りの直前までの映像が全て記録されているのである。酔うと一時的に口が回り、その山を超すと黙りこくるまでの酔いどれの過程が全て確認できるのである。
携帯の検索履歴、写真フォルダ、LINEの会話など断片情報をつなぎ合わせて、昨晩の酒場で起きた記憶の修復を図るという、最もスリリングな行為も台無しである。動画を確認すれば全てが詳らかになるのだから。
酔っぱらい4人が泥酔後の朝、手持ちの品をもとに記憶を手繰る映画『ハングオーバー』も、動画があれば一発で全てが分かってしまい、意味をなさない。

ここまでうんざりしている生配信を3日後、私はまた始めてしまった。

初回の反省を踏まえ、酒を少なめにし、行き止まりをおかまいなく突き進み壁に頭を何度もぶつける行き当たりばったりのトークを改め、トークテーマを(なんと!)17個も仕込み、それに沿った配信を挙行したのである。
ただ結果として、生配信中の視聴者はゼロだった。ゼロだ。びっくりした。

再生回数1回のライブ配信

祝日の夜、平日前とはいえ、おうち時間を過ごしてるであろう友人たちが、誰ひとり見に来ず黙殺していたのである。私は正真正銘、非常に純度の高い”鏡を見ながらひとり酒盛りをやる”というおぞましい行為に図らずも成功してしまったのだ。
そうすると、配信終了後に判明したのだが、公開範囲が自分だけになっており、誰も視聴できないような設定になっていたようである。
「人が来ないですねえ、どうしちゃったんでしょうか皆さん」などと呼びかけ、愛嬌を振りまいた2時間は紛れもなく滑稽だ。

2回目の配信の失敗を挽回すべく(既に私はあれだけ蔑んでいた生配信に囚われているのだが)翌日、すなわちこれを書く前夜、3回目の配信に挑んだ。公開設定を見直し、ワインを1本空けたあたりで配信を始めた。コメントや視聴者数が出てくることに安心感を覚える自分を心底恐ろしく思った。
度重なる、そして長時間にわたる生配信のせいで、自宅Wi-Fiの通信速度が著しく低下し、音は途切れ途切れ、本田改めいっこく堂になり、しばらくすると配信用携帯が触るだけで火傷しそうなほど尋常ならざる熱を帯び始め、配信が自動的に終了すること2回に及んだのであった。

いかがでしたでしょうか。
以上が、私のおうち時間です。

ちなみに初回の生配信を思い立った遠因は、その日の朝から水に浸すなど煮干しでだしをとっていた夕食用の味噌汁が、最後に入れた具材、独特な風味を伴う野草”ハマボウフウ”によって丁寧な味が全て台無しになったことによるものであるのは云うまでもありません。

うまくいかないことの方が多いおうち時間。
何かと胸騒ぎのする、外に出れば物騒なこの頃です。
ニュースから距離を取り、コロナに打ち勝つなどという政治屋が足りない思慮でひねり出した、どだい無理なスローガンに惑わされることなく、粛々と日々無理せず機嫌よく、自分らしさを捨てないように気を配るしかありません。
そんなわけでライブ配信は家のネット回線が遅くなりますし、映画が観れないと本末転倒ですから、しばし静寂に満ちた自意識との戦場、オフラインの世界へと戻りたく思います。

旅先にて

どうか皆様、夏がすぐそこに迫っているという変えようのない、かけがえのない事実を足場に、すこやかにお過ごしになられますように。

2020/04/30

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Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話

「道」のつく日本唯一の地域に移住。蓴菜、オクラ甲乙付けがたし。 対面でお話する時、ポテチ成分談義の話題がお好き。