「世界は、そう思い通り」

Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話
4 min readMar 8, 2020

コロナウイルスで営業時間が短くなり17時閉店のカフェを後にし、AirPodsからaikoの人気曲をApple Musicで流す。aikoの楽曲を各種ストリーミングで聴き放題の世界は、別な並行世界に迷い込んだようで奇妙な気分がする。観たい映画が新作でアップロードされてるのを知った時に、この世界は自分の思い通りなのかもしれないと直感するのと同じ類の話だ。

街には、夕方の陽光に照らされて、茜色に染まるビルがそこかしこに立ち並んでいる。夕焼けと朝焼けの街の違いを知りたいのだけれど、いつも分からない。周りにあるお店にあかりが灯っているか、人がたくさん歩いているかじゃなく、ここが空と太陽と大地以外何もない原初の地球だったとして、そして目の前に広がるのが夕焼けなのか、朝焼けなのかを考える。2つの違いを知りたくて、今日も朝まで飲み明かそうと心に決める。

AirPodsからはずっとaikoが流れてる。あまりにも甘美な傑作続きで、いっこうに店に入れない。この音楽に包まれ続けたい。店に入っても誰にも話しかけられず、AirPodsをしたまま独りの世界に置いててほしい。街まで出ているのに、帰りたくなる。「あなたのいない世界にはあたしもいない」なんて、とんでもないことを云ってる。あなたがいないのは死んでるのと全く同じ。あなたなしに生きていけない。

音楽にうっとりしっぱなしのうちに1時間街を歩き続けた。開店前のスナック、酒屋のあんちゃんが台車を忙しなく走らせる、観光客、追いかけっこをするちっちゃい兄弟、土曜夜とは信じがたいほどに静まり返った通り。

aikoの曲を聴きづけてると、眼前の景色に魔法がかかってくる。眼が画面の隅々まで隙間なくピントの合った高性能カメラのレンズになったようだ。音響はBOSEのシステム。通りを歩く俳優たち。この美しいハリボテの街を、地上を、自由に動き回る人間型カメラが長回し撮影する。

ようやく魔法の切れた曲にたどり着き、いつもの店に入る。開店最初の客として6時間席を移動しながら持ち場を守った。土曜夜の標準をはるかに下回る客入りながら出演陣は豪華だ。うっとりするほど幸せなアウラに包まれたカップルが数組。変な英語が書かれたパーカーを着た男との合コンに疲れて一次会から逃げてきた女の子は飲みすぎてひとりでまっすぐ家に帰って大好きなYouTubeで時間を潰して眠りを待つという賢明な判断ができないでいた。着席から店を離れるまでの間の6時間、休むことなくaikoが流れていた。

店のマスターと飲みに出かけ、その最中もずっとaiko。

aikoの”ボーイフレンド”は”テトラポッド”に曲名を改めた方がいいのではなかろうか。そんなことを1日中考えていた。結局朝まで飲むのはやめて帰宅。

起床後、引きこもる。本を読むこともなかった。カモミールティーをたくさん飲んで、パスタ茹でて、宅配ピザ呼んで、映画5本観て、YouTubeを開いた。

びっくりした。

aikoがストリーミングライブをやっていた。世界は思い通りなのかもしれない。そしてぼくの映画の長回しは終わっていなかったようだ。

2020/03/08

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Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話

「道」のつく日本唯一の地域に移住。蓴菜、オクラ甲乙付けがたし。 対面でお話する時、ポテチ成分談義の話題がお好き。