「初めてのまちの空気と濃厚接触と」

Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話
2 min readFeb 25, 2020

初めてやってきたまちのことを覚えてるだろうか。旅先でもいい、引っ越し先でもいい。理由はなんでもいい、手の届くところにある初めてのまちを思い出してみてほしい。

道にはどんな木が並んでいたのかな。その木はどんな香りを放っていたんだろう。その時、どんな曲を聴いていたかな。憧れのまち、あるいは来てみたらがっかりしたのかな。望まずに来たまちかもしれない。そこに来た理由を誰かのせいにしてたのかもしれない。あるいは誇り高々にスキップしたくなるくらい逸る気持ちを抑えて歩いた道。空に向かって吐き出す自由な気分。煙草もハーブティーも、煙は女の子のカーリーヘアのように巻きながらすっと立ち昇りいつか消えていく。そこにあった煙が消える。思えばたまらなく不思議なことだ。

まちは、望む望まざるに関わらず、いつしか当たり前に毎日吸い込む空気になる。そのまちの空気を吸って生きて、恋して、煙草の燃えるチリチリという音を楽しんで。

初めて来た日のことをやがて忘れる。初めて手にしたカメラで花や空を撮りまくったあの日みたいに、まちの「!」や「?」にシャッターを切った日のことを思い出せなくなる。何の理由で来たのかの本当の理由も忘れていく。人に説明するためにこしらえた、分かりやすい理由を本当のことだと思い込むようになる。

憎むにせよ愛すにせよ、まちは空気だ。まちの嫌いなところをたくさんあげられるのも、まちを気にかける意味で、それも愛のひとつだ。愛のありようはひとつでなくていい。田舎からの上京物語だけを聞くのを期待してるわけじゃない。都会から田舎に来たっていい。田舎暮らしに憧れてなくったっていい。逃げてきたってだけの理由でもいい。理由なんてなくったっていい。直感で来たってことにしていい。

今日も僕は、肩を撫でる雪と、つんとした空気がおいしさを引き出す煙草を吸って、遠い方角を見て恋をしながら、酒場で”濃厚接触”だかとともに、お酒と酒席の会話を楽しむ。

2020/02/25

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Ryunosuke Honda
おさけmediated夜話

「道」のつく日本唯一の地域に移住。蓴菜、オクラ甲乙付けがたし。 対面でお話する時、ポテチ成分談義の話題がお好き。