「敗北の約束された食べ放題」

気の置けない高校の友人と食べ放題の焼き肉を食べに行ってきた。

どちらももう21歳。
君らは今が食べ盛りだからね、という年長者からの誤謬だらけのプレッシャーに戸惑いを隠せない、明らかに食べ盛りの峠を越えてきたばかりの私たち2人。
身形も食も細い私たちだが、去年に引き続き今年の夏も食べ放題に挑戦することになった。


昨年は三宮の旨い1人焼肉屋に行き、その後食べ放題の焼肉屋に行くという、「はしご焼肉」を敢行した。
結果は散々なもので、殆ど腹に肉が入らず、入店前、満ち満ちていた根拠のない「大食漢としての責任と自覚」とやらを激しく後悔した次第である。

ちなみに私は1人で食べ放題を食べたこともある。その日はいま思い出すだけでも、相当精神的に参っていた日で、やむにやまれず1人で肉を焼き、腹が爆発しそうになりながら店を後にした。
我が人生の焼肉の食べ放題の数ページに「よき思い出」は一切ない。

さて今年は昼から餃子と共に青島ビールをひっかけ、多少の運動の後、ガストのハッピーアワー(15:00~)に時間ピッタシで入店し、スーパードライを豆腐サラダとポテトとともに夜になるまで飲み続け、その流れで我々は食べ放題へと向かったのである。

去年に引き続き、食べ放題に飽き足らず飲み放題も付けたことによって、残念ながら今年も激しい戦いの模様は記録されていない。
飲み放題のスーパードライを浴びるように飲んだ。思い出話ももちろんたくさんした。去年と同じような話を同じ場所で同じくらいに爆発しそうな腹でする。なんというか、もうこれは一種の儀式なのかもしれないとすら思えた。

そんな儀式の終わりを告げるべくラストオーダーを聞きに来た店員が「その網で肉を焼くのは厳しいと思いますので網交換で追加料金をお支払いいただくか、このままラストオーダーにして頂くか…?」と云った。
我々の腹は既に八分目をとうに通り越し一三分目くらいであったが、追加の肉を注文できないことに悔しそうな表情を浮かべ、私はまだ口を付けたばかりのジョッキを前にして、新しいそして最後の生ビールを持ってきて(この店の飲み放題はセルフサービスなのだ)虚勢を張った。

あとは少量の残された肉と、キムチを頼りに2杯のビールを飲むだけだ。
それにしても、今回の食べ放題は腹一三分目だけど、なんだかいつもより余裕があるな、これが2年連続出場校としての貫禄なのだろうか、とニヤニヤしていると、10分前にやってきた店員がまたしてもやってきた。

ムッとして顔を上げると、「退席のお時間ですが、今残っているお肉とビールを召し上がっていただけない場合、追加料金を頂戴しますが...」と云うのである。

ふざけるにも程がある、ラストオーダーから10分後に食べ物を平らげろ、などなんと無体なことをのたまうのだ。ラストオーダーから30分後に会計と相場は決まっておろうが、何をぬかす、おのれェ、世が世なら斬り捨てられても文句は云えまいぞ、覚悟せェ!!

そう内心で息巻いた私は、「えっとラストオーダーって10分前に来られたばかりですよね?」と我ながら情けなくなるほどの弱腰で追加料金を取らないで頂きたいと懇願の表情を浮かべた。
すると、店員は最大級の侮蔑の表情を浮かべて「5分延長しましたら、食べて頂けますでしょうか?」と提案してきた。この店ではもう満遍なく繰り返されてきたやり取りなのだろう。

「はい、わかりました…」

そこからの5分の最後の死闘は云うまでもない。ビール2杯を一気飲みし、網に載った肉を拾い集め、友人の皿の上に押し付けて食べさせ、そして店を出たのである。


21歳にもなって、来年から働くような人間が中高生が行くような安い焼肉の食べ放題を嬉々としながら食べに行き、安酒の回った頭で高校時代の思い出を猥雑狂乱の店内で怒鳴り合うようにして交換し、最後は今にも爆発しそうな腹を抱えて2人して「ああ気持ち悪い、もう行きたくねぇ」と腹を天に目線を海へと向けながら黄昏る、そんな過ごし方が適切なのかは分からない。

普段、我々はもう少し上等な酒や食べ物に接しているはずなのに、毎年の夏恒例の再会が非常にチープであり続けることは、もしかするともうそんなに先は長くないのかもしれない。

我々は食べ盛りの峠を既に超えているが、まだ食べ続けることはでき、食べても体重が極端に跳ね上がらない年代の只中にいる。
でももう少しすると、少ないがびっくりするほど高価でそれでいて美味いメシで再会を祝すようになるのかもしれない。スパークリングワインで乾杯し、ボルドーの赤を空ける、そんなことを何食わぬ顔でする日もそう遠くないのかもしれない。

だからこそ、今、焼肉を腹が爆発するほど、無数の食べ物と飲み物の前に、負けが予め約束された暴飲暴食を許される今を大切にしたい、そう思っている。

2017/8/29

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