夏のおわりは云い知れず、苦しい。

“baseball never hurt anyone”

That’s what she said.

2年ぶりの秋だ。
秋が来たってことは、夏が終わったってこと。
「夏の終わり」ってのは、あれこれとくだらないことを僕たちに考えさせる。
だから秋は「宵っ張りの朝寝坊」って悪友と、仲良くなりがちだ。
そしてこいつにはホントに悪い仲間たちがいて、「二日酔い」「遅刻」「頭痛」「記憶の喪失」なんて感じでゾロゾロ続いてく。

多くの人にとって、秋は1年ぶりのことで年に一度だけやってくるものだ。
10月2日の気温がどれくらいの気温で、おおよそ何を着ていけばいいのか、何を着れば秋風邪に罹らずに済むのか。
これらのことについて正確に理解している人がいるのだとすれば、気象庁の職員もしくは、アパレルショップのスタッフくらいのものじゃないだろうかと思う。
それらの項目について、彼ら彼女らが誤答したとする。
だが、それが直ちに彼ら彼女らの職務怠慢/職業資質を疑うような類のものではない。

思うに、それくらい1年というものは色んなことがあり、人々は季節ごとの振舞い方をいとも簡単に忘れてしまうものではないだろうか。


さて、僕にとって秋は2年ぶりだ。
言葉に正確性を期すならば、日本での秋は2年ぶりだ。
僕は、昨年の晩夏、秋、初冬をカナダのトロントという街で過ごしていた。
不慣れな異国の言語ばかりで出来上がった街にやってきたばかりのころ、どこにどのような店があり、この通りにはどのような風景が広がっているのかを知ろうと、文字通り足が棒になるまで歩き続けた。
3日間、昼前から日が暮れるまで、知らない駅に降り立ち、出鱈目に歩き続けると、街の大体の空気は掴むことができた。
とはいえ、街ゆく人たちが、突き抜けるような空の下で、どのようなことを話しているのか、あの時は殆ど理解できなかった。

そのせいだろうか。自分がどこへ向かっているのか理解もできずに、大量の人が向かう先へ付いていくことが少なくなかった。
青がチームカラーの地元の野球チームの試合を見ようと、たくさんのトロントニアンたちが球場へぞろぞろと歩いていく。

ある夏の終わりの日、いつものように僕は人の群れの中にいた。
そして、気づくと煉瓦造りの立派な建物の前にいた。
そこにはBlue Jaysのユニフォームを着た老若男女たちが吸い込まれていく。

「野球博物館か、なにかなのだろうか?否、もしくは選手のトークショーでもやってるのだろうか?」

その日は、デイゲームが行なわれており、試合もちょうど終わった夕方だった。
ひとまず、気になるのでその赤茶色の建物に入ってみた。

とにかく人が多かった、本当に最初何が起きているのか分からなかった。

とてつもない喧騒とともに、僕の眼に飛び込んできたものは、男たちが愉快に笑い合いながらビールを呑む姿だった。

「あ、自分はバーに入ってしまったのか。なるほど。ここにいちゃまずいのかもしれない」

一瞬のうちにそう思ったのも無理はない。
その時僕はまだ19歳であったし、日本での飲酒は合法ではなかったからだ。
僕が滞在したカナダのオンタリオ州の州法によると「19歳」からの飲酒が認められている。

「そうか、おれはもうこの地で酒を合法的に口にすることができるのか。」

ようやく落ち着いて次の思考にぼくの頭は移った。
20歳を迎える9月末の誕生日を1週間後に控えていたその時、酒場にいること、たったそれだけで感じられた人生最後の「背徳感」のようなものを味わいながら、しばらく入口に立ち尽くしていた。もう19歳は戻ってこないのだ、あの時もそう考えていた。

さて19歳と20歳の分水嶺に纏わる思考の逡巡を終えてきた僕の頭にやってきたアイデアは、お酒をどう飲もうか、であった。
金額次第では、無駄遣いになってしまうし、今呑む必要があるのかについてしばし考えた。

そんな時だった。
僕の後ろで青いユニフォームを着た見事な髭を蓄えたおじいさんが、こう云ったのは。

“ What the hell are you doing here?”

まずい、異国の地でトラブルに巻き込まれた、もしかしたら未成年がここにいるってことで、店の外へつまみ出されるのだろうか。
トラブルをまだ経験してなかったあの時の僕は、それだけで怖気づいた。

様々な混乱した想像が駆け巡った時には、おじいさんは僕に一顧だにせず、カウンターへ向かいビールを手にしていた。しかもお金を払わずに。

一瞬のことだったが、僕は悟った。

「ここではタダでお酒が飲めるのだ、少なくとも一杯は。」


結局、3杯のビールを流し込み、日曜夕暮れの家路をゆっくりと満足げに帰って行った。
家に帰ってから、すぐに謎の3杯無料のビールイベントについて調べ始めた。

その結果を総合すると、このような事実だったようだ。
・訪れたのはビール工場
・Blue Jaysが日曜デイゲームに勝利した日、来場者にビールが振舞われる
・そのため多くのJaysファンがビールを飲んでいた

ようやく納得がいった。なるほど。
どちらにせよ本当にいい日だった。なにしろ、ただで3杯もビールを呑むことができ、ファンの人たちがどれだけ野球を愛しているか、つまり彼ら彼女らの生活の一端にふれることができたのだから。

彼ら彼女らの野球への愛情を物語る1つのtweetがある。

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このtweetを見つけたその夜、ぼくはこの街に恋をし、そして今もその思いに変わりはない。

2016/10/15

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