彩色ーお像を引き立てる技

天然鉱石の煌めきと、生命を奪わない膠

吉田沙織 Saori Yoshida
よしだ造佛所
3 min readJun 7, 2016

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不動明王坐像の臂釧(ひせん) 北海道・景勝寺 2016年納入

古くから受け継がれてきた仏像には、様々な知恵と技が活かされています。今回は「彩色(さいしき)」についてお話します。

仏像に彩色を施すために必要なのが、「岩絵の具」と「膠(にかわ)」。色自体に意味があるほか、お像の造形を引き立て、長持ちさせる効果があります。

天然鉱物から作られた絵の具

鉱石と岩絵の具

近年では人工で作られた安価で色数も多い「新岩絵の具」が登場し、岩絵の具がぐっと身近になりました。

一方、自然から色を分けてもらうような天然の岩絵の具は、人工のものにはない微細な風合いの発色があり、何億年もかけて精製されてきた色の魅力があります。美しさの中に深みがあり、いくらでも眺めていられるほど。

よしだ造佛所では、この天然岩絵の具を中心に色を施していきます。

信仰を支えるものだからこそ、命を傷つけないように

この岩絵の具の接着剤として用いられてきたのが膠(にかわ)です。

生え変わりで抜けた鹿の角
鹿角の膠

千年前の文化財が受け継がれていることから解るように、膠は接着剤として非常に安定しています。

膠は、動物の皮から抽出されたものが広く使われていますが、私たちはこの膠にもこだわり、生え変わりで抜け落ちた鹿角から抽出されたものを用いています。

この鹿角の膠は、中国の古文書に出てくる写経用の墨作りに使われたもの。なかなかに入手困難なものですが、現在、墨と膠研究の第一人者でもある宇高健太郎氏に依頼し、薬品等の処理は一切行わずに作成し、彩色に利用しています。

教えを現すものだからこそ

このような希少な材料を、熟練の職人が丹念に塗りこめていく作業は、本当に贅沢なことかもしれません。

しかし、「仏の教えを具現化している」といわれるお像にこそ、そのような材料・技術がふさわしいと私たちは考えます。

日本だからこそ伝わった技と知恵

昔は世界中でも用いられていた岩絵の具。実は最近まで使われていたのは日本だけでした。

これらの材料や技法の継承の裏に、仏教美術と信仰、伝統を重んじる日本人の精神性があります。

「世代をこえて受け継がれていく、千年先を見据えた手仕事を」

私たちもそう願い、日々制作に取り組んでいます。

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吉田沙織 Saori Yoshida
よしだ造佛所

高知出身→東京→高知へUターン。看取りの現場から作家秘書(仏教関連本を出版)を経て、現在造佛所運営