彩色ーお像を引き立てる技
天然鉱石の煌めきと、生命を奪わない膠
古くから受け継がれてきた仏像には、様々な知恵と技が活かされています。今回は「彩色(さいしき)」についてお話します。
仏像に彩色を施すために必要なのが、「岩絵の具」と「膠(にかわ)」。色自体に意味があるほか、お像の造形を引き立て、長持ちさせる効果があります。
天然鉱物から作られた絵の具
近年では人工で作られた安価で色数も多い「新岩絵の具」が登場し、岩絵の具がぐっと身近になりました。
一方、自然から色を分けてもらうような天然の岩絵の具は、人工のものにはない微細な風合いの発色があり、何億年もかけて精製されてきた色の魅力があります。美しさの中に深みがあり、いくらでも眺めていられるほど。
よしだ造佛所では、この天然岩絵の具を中心に色を施していきます。
信仰を支えるものだからこそ、命を傷つけないように
この岩絵の具の接着剤として用いられてきたのが膠(にかわ)です。
千年前の文化財が受け継がれていることから解るように、膠は接着剤として非常に安定しています。
膠は、動物の皮から抽出されたものが広く使われていますが、私たちはこの膠にもこだわり、生え変わりで抜け落ちた鹿角から抽出されたものを用いています。
この鹿角の膠は、中国の古文書に出てくる写経用の墨作りに使われたもの。なかなかに入手困難なものですが、現在、墨と膠研究の第一人者でもある宇高健太郎氏に依頼し、薬品等の処理は一切行わずに作成し、彩色に利用しています。
教えを現すものだからこそ
このような希少な材料を、熟練の職人が丹念に塗りこめていく作業は、本当に贅沢なことかもしれません。
しかし、「仏の教えを具現化している」といわれるお像にこそ、そのような材料・技術がふさわしいと私たちは考えます。
日本だからこそ伝わった技と知恵
昔は世界中でも用いられていた岩絵の具。実は最近まで使われていたのは日本だけでした。
これらの材料や技法の継承の裏に、仏教美術と信仰、伝統を重んじる日本人の精神性があります。
「世代をこえて受け継がれていく、千年先を見据えた手仕事を」
私たちもそう願い、日々制作に取り組んでいます。