犬システムの構築へ向けて

およそ全ての人類に共通する普遍的な課題のひとつに、ベッドルームにおけるシンセサイザーの問題がある。ぼくの場合は、ここ数年Elektron monomachineを枕元に設置し、就寝前に戯れることを日課としている。

これは純然たる遊戯であり、このような遊びにPCやMacのような不粋な代物を持ち込むのは倫理的に許されることではない。Ableton Push辺りは惜しかったが、せいぜい仕事道具止まりで、玩具のレベルには達していなかった。

すべてのパラメータを数値化し管理していくDAWと、ソフトウェアシンセサイザーの存在はもはや主流だが、その帰趨がモジュラーシンセブームという極端な反動の契機になっていることは間違いないだろう。それが偶然性あるいは人間性の喚問に他ならないことは、ハイプにも近しい一連の動向において最も成功を収めたマニュファクチュアのブランドネームが物語っている。

現代モジュラーのグラウンド・ゼロとでも呼ぶべき『Make Noise』の名を知ったのはつい数年前のことだ。創業者のトニー・ローランドは、1970年代のBuchlaやSergeからの影響を隠さない。Make Noiseは忘れ去られた西海岸シンセサイズの思想を現代的に再解釈した独自のモジュール群で知られている。

正直なところ西海岸のシンセサイザーについては、ぼくもよく知りません。が、minimoog以降の「普通」のシンセとは異なる構造、特に偶然性とその制御を組み込む独特の思想には惹かれるものがある。ランダムな電圧信号を出力するジェネレーターモジュールWogglebugを真っ先に導入したのも、来たるべき理想のベッドルーム音響装置「犬システム」には西海岸シンセサイズの要素を内包させる必要を感じたからだ。

よく知られているとおり、モジュラーシンセは宿主の理性を乗っ取り、破滅をもたらすまで自己増殖を繰り返す。重厚長大な装置は「犬システム」の目指すところではない。任天堂の山内氏ではないが、此処は軽薄短小を是としたい。