2017–08–28

オーストリアの画家アルフレート・クービンによる長編小説『裏面』は、バイオショックファンに勧めたい一作。海底都市ラプチャーの思想背景はアイン・ランド諸作、特に『肩をすくめるアトラス』にあるが、ラプチャーの崩壊過程はクービンの描いた夢の国ペルレの悪夢を透写する。

2017年はバイオショック第一作が北米で発売してからちょうど10年目だそうです。この記念の年に発売されたFullbright (Irrationalの流れも汲むインディースタジオ)の新作『Tacoma』は、前作『Gone Home』以上にバイオショック的というか、更に祖先にあたる『System Shock』を思わせるようなスペースSFとなっている。
内容としても、『System Shock』の発明で以降の作品でもなじみ深い <オーディオログ> の最新型といえそうな仕組みが登場する。ゲームの目的は無人の宇宙船内に残されている6人のクルーのデータを収集し、ある事故の真相を明らかにすることにある。データには従来の音声記録だけでなく、位置情報や動作情報が含まれていて、プレーヤーはARウェアを身につけることで当時の状況を目の前で何度でも再現することができる。

『System Shock 2』の宇宙船フォン・ブラウン号、バイオショックの海底都市ラプチャー、『Everybody’s Gone to the Rapture』の農村ヨートン。類似する一連の追体験装置に残されていたのは、いずれもすでに失われた世界や人物たちの痕跡だった。
無人の宇宙ステーションTacomaにおいて、6人のクルーが巻き込まれた陰謀の正体が徐々に明らかになる過程は、(いつも通りの)最悪の結末を予感させるし、コントロールAIのODINの存在も、『System Shock』で人類に反乱を起こす人工知能SHODANを想起させ不安を煽る。

前作の『Gone Home』と同様に本作の最大の魅力はプレーヤーをミスリードし続けるストーリーテリングにある。Tacomaの唐突な結末は、これまでオーディオログシステムに親しんできたかどうかで意味合いが大きく変わるのかもしれません。最後の最後まで温存される例のパスワードに、爽快感すら覚えるエンディング。オーディオログというビデオゲーム史に残るひとつの発明を史上最高度に先鋭化させた本作は、このシステムに対するリスペクトに溢れている。

