アジャツール 第9回 大事なもの…それは「壁」
published at 2006/03/08.
はじめに
今回は、ツールといってしまうと語弊があるかもしれませんが、とても重要な壁(かべ)についてとりあげます。
壁って?
壁がなぜ重要なのか?この連載を読んでいる奇特な方にあえて説明するまでもないかもしれませんが、一応簡単に説明しておきます。適切な場所に配置されている壁に、様々な情報を貼り出すことによって、壁はチームの全員が必ず見るディスプレイになります。その効果は絶大です。電源を入れずとも常に「そこ」に表示されています。その大きさも20インチなどケチケチしていません。常に「そこ」にあることで、文字通り「目に飛び込んでくる」のです。
概念メタファー(注:人がものを概念として捉えうえで利用しているメタファ(隠喩)のこと。レトリックと人生で詳しく解説されている)では、「視界」は容器のメタファーです。「視界」という器に、「見えるもの」を入れることではじめて目に見えるようになります。「視界」という箱に「見えるもの」を入れるまでに、何ステップもの手順を踏まなければならないものは、見えないも同然です。壁は少ないステップで「視界」に入れることができる非常に自然なツールなのです。
エクストリームプログラミングでは、新しいプラクティスとして「情報満載のワークスペース(Informative Workspace)」が追加されています。作業場所が情報を発信している…そんな環境を作るために壁を利用することは必要不可欠なのです。
じっくり壁を見る
ここで壁の材質について考えてみます。一般のオフィスで使われている壁には大きく分けて3種類あるようです。
(1)スチール製
まず一つ目はスチールの壁です。ある意味スチールの壁はもっとも使い勝手がよいと言えます。マグネットを使ってカードを貼ったり、バーンダウンチャートを掲示したり、はたまたマグネットシートのホワイトボードを貼りつけてホワイトボードとして使用したり、マグネット式のフックをとりつけてカレンダーを掛けたりする等、様々な使い方が可能です。
(2)コンクリート製
二つ目にコンクリートの壁です。この壁はオフィスの周囲を囲んでいる部分によく使われており、一番使い勝手が悪いといえます。スチールではないのでマグネットが利用できません。またコンクリート面なのでピンを固定して取り付けるようなフックも利用できません。この場合はプチルゴムの粘着剤や、付箋、貼って剥せる糊を利用して、壁にモノを貼ることで壁を利用することができます。
(3)石膏ボード製
三つ目は石膏ボードの壁です。この壁は叩くと中が空洞になっているような音が聞こえるのですぐにわかります。このような壁の場合は、石膏用のピンでフックを取り付けることができます。もちろんコンクリートと同様にマグネットが使用できないので、粘着素材で壁にモノを貼ることになります。
また材質ほど大きな影響はありませんが、壁面の素材も重要な要素です。スベスベだと粘着素材の貼りつきも良好ですが、あまりにスベスベだと剥れやすくなってしまいます。デコボコになってしまうと、途端に貼りつきが悪くなります。付箋も物によってはすぐに剥れてしまうこともありますし、粘着剤を使っていると、逆に凹凸に粘着剤が埋まってしまって、とりずらいことがあります。
壁はなければ作るもの
しかし壁はなんといってもオフィスの立地に100%影響されます。建物の壁は基本的にはフロアの周囲だけかもしれませんが、オフィスのパーティションの配置にも影響されます。細かくパーティショニングされたオフィスならともかく、フラットなデスクレイアウトのオフィスなどは、壁はフロアの周囲にしか存在しないことがあるでしょう。更には窓の配置によっては使える壁がほとんどない、という状況も考えられます。このような場合は壁の使用を諦める他ないのでしょうか?
筆者は「壁はなければ、自分で作るもの」という考えを提唱します。とはいえ、実際に壁を作る、パーティションを作るには政治的な手腕が必要なので、今回はちょっとのプロジェクト予算を割いて実現できる壁の代替案をご紹介します。
ます最初にご紹介するのはイーゼルです。イーゼルは、元々絵を描く時に使用する台です。それ以外にも、お店の前に黒板で「本日のメニュー」なんて書いてあることがありますが、その黒板を乗せている台もイーゼルです。イーゼルにも様々な大きさがありますが、B2以上のスチレンボードを乗せられるくらいの大きさがよいでしょう。
オブラブ代表の平鍋さんの席の横には、イーゼルパッド(巨大ポストイット)を乗せるイーゼルがあるのは知る人ぞ知る真実です。そこそこの大きさのイーゼルだと、値段が数千円~1万円ほどしますが、壁がないのを嘆くくらいならば、いっそ購入してしまうのをお勧めします。
「イーゼルはちょっと…」という方には、スチレンボードの裏に貼って立てる用のボール紙のスタンドもあります。(注:例えばハレパネスタンドのようなものが販売されている。)こちらの利点は安価であるということですが、実はあまり安定しないという欠点もあります。
以前紹介したLight Write Board(LWB)はそのままホワイトボード兼壁としても扱うことができます。LWBは自立はしませんが、背面に立てかけられるものがあればどこでも壁のように使うことができます。先に紹介したイーゼルだとLWBはちょっと大きすぎるので、注意は必要です。移動可能なホワイトボードがあるならば、壁として兼用してもいいでしょう。ホワイトボードとしての特徴を殺さずにうまく貼り物と兼用することができれば最高です。
その他にも、建築現場で使うような「看板」を用いたり、洗濯物を干す時につかうロープを渡してクリップに掲示物を留めるなどの方法もありますが、一般的ではありません。(注:こちらのスライドのP71を参照のこと)
筆者の環境は?
オブジェクト倶楽部の事務局がある(株)永和システムマネジメント東京支社のオフィスでは、プロジェクト間でホワイトボードと壁を取り合っているといっても過言ではありません。
筆者は先月末に東京支社のオフィスに作業場所を引っ越してきたのですが、既にスチールの壁や、括り付けのホワイトボードは先約が埋まっており、しかたなく石膏で表面に凹凸がある壁を使用しています。引っ越す前のオフィスは壁のスペースこそ少なかったのですが、スチール面だったため、マグネットシートのホワイトボードや、マグネットのフックなどの道具が使えたのである程度マシでした。現在の壁は石膏なので、ピンを指したり、壁にスチール箔を練り込んだ壁に貼る式のホワイトボードを使えるかどうかをオフィス責任者に交渉中です。
このように、壁のある/なし、壁の素材の違いで、作業空間の使い勝手はかなり変ってしまいます。もしこれから引越しされる予定がある会社の方は、上司に壁の重要さを「耳にタコができる」くらい語ってくださいね。
まとめ
壁はアジャイル開発にとって、とても重要な役割を果します。特にディスプレイとしての効果は絶大です。ただ壁は立地や素材によって使い勝手が異なります。また、どうしてもオフィスで壁を利用できない場合には、壁の役割をするツールで代替することもできます。
最後に一句。
「ないのなら 作ってしまえ 壁もどき」