アジャツール 第10回 仕事中のお菓子が大事な理由と注意点

published at 2006/04/05

はじめに

この連載も今日で10回目です。今回はアジャイルでとても重要な役割を占めている「お菓子」について触れたいと思います。えっ?「どこがツール?」

ソフトウェア開発とお菓子

「お菓子が開発に重要」と公式に言い初めたのは、筆者が知る限では、やはりKent Beckの XP Embrace Change(XP本1st)(注:XPエクストリーム・プログラミング入門―ソフトウェア開発の究極の手法)ではないでしょうか。

まがりなりにも「開発プロセス」の本として「スナックフードを用意すること」と書かれていること自体前代未聞かもしれません。人によっては「アメリカ的なジョークだ」と捉えた人がいるかもしれませんね。しかし、この「お菓子」についての記述はとても深い意味が込められているのです。

エネルギーを補給せよ

XPではペアプログラミングが推奨されています。ペアプログラミングは2人で1人になって開発を進めていくというスタイルですが、ペアプログラミングは非常にエネルギーを消耗します。何しろ、普段脳内の微弱電流で済ませるところを、会話によるコミュニケーションで行うのですから。(注:「頭の中で考える」のと「相手とコミュニケーションをとることの違い)

ペアで作業することの集中もエネルギー消耗を促進させます。こういったワークスタイルになると、必然的にエネルギー、特に糖分を送らなければ、早々とスタミナ切れを起してしまいます。「お菓子を用意する」という記述は、ペアプログラミングを推奨する上で必須だったのです!

エネルギー戦略

このことは、別の書籍でも解説されています。「4つのエネルギー管理術」 では、時間管理よりもエネルギー管理を重視せよ、ということが主張されています。この本の中では、パフォーマンスを持続させるためには、2–3時間間隔でエネルギー消費に必要な分だけを摂取するのが望ましい、とされています。満腹でも、空腹でもない、ちょうどいい「満足」の状態を維持することで最大のパフォーマンスを発揮できるのです。

更に「4つのエネルギー管理術」では、水分補給についての重要性も指摘しています。スポーツ時の水分補給の際には、「喉が渇いてからでは遅い、喉が渇かないように水分を摂取せよ」とよく言われていますが、この本でも同様に水分補給のタイミングを指摘しています。また、コーヒーをよく飲む人が多い(筆者もそうです)と思いますが、カフェインの利尿効果で、水分の体外排出を促進してしまい、むしろ体によくないとの指摘もありました。

テーブルゲーム好きなオブラブスタッフもこんなことを言っていました。

ゲームを楽しく続けようと思ったらお菓子と飲み物は必須だ。
特に長時間続ける時には十分用意しておかなくてはならない。
逆に短かく切り上げたい時にはお菓子がなくなったことを口実にすると
よいかもしれない。

遊びですらお菓子が必要なら、ましてや仕事には必要不可欠ですね。

お菓子の種類について

2002年頃、筆者がライトニングトークスのネタでお菓子について触れたことがありました。その時は、お菓子に更に栄養価を考えて、体によいお菓子を選ぼうという内容でした。その時は次のようなお菓子(というかおつまみ)を紹介しました。

  • 貝(タウリンを含む)
  • イカ(タンパク質)
  • 昆布(ミネラル・繊維・鉄分)
  • 小魚(カルシウム)
  • 梅干(クエン酸)
  • ブルーベリー(眼に良いアントシアニン)

ちょうどこの発表をした時期から、コンビニに酒のつまみっぽいお菓子(というか珍味)が置かれるようになり、比較的入手しやすくなっています。

一方、エネルギー戦略としてのお菓子の候補は「エネルギー補給できるもの」なので、炭水化物が中心になります。「4つのエネルギー戦略」では、GI値(グリセミック・インデックス)が低い食品を選ぶことが重要とされています。GI値は糖分が分解され吸収されるスピードのことで、これが高いと急速に吸収されるが、持続しないということになります。食べた後で糖分がゆっくりと(2–3時間)吸収される食品として、ナッツやひまわりの種、フルーツなどが挙げられています。逆にGI値が高いものとしては、糖分を直接含んでいる食品です。

GI値の一覧を見てみると、チョコレートやケーキ、ドーナツなどは軒並80以上になっています。意外にも煎餅やポップコーンもGI値が高いです。逆にGI値が低いのは、大豆やナッツが30以下です。フルーツも全般的に30台ですね。エネルギー戦略的には、ナッツ類(ピーナッツ)、節分豆、フルーツ類がよいみたいですね。

ちなみに低インシュリンダイエットは、低GI値の食品を取るというものらしいです。GI値の低いお菓子を食べていたら、開発効率も上ってダイエットもできるかもしれませんね :-) ちなみにオブラブスタッフの席にあるお菓子を見たところ、GI値の高いものばかり置いてありました。早速啓蒙しなくては!!

まとめ

今回は「お菓子」について触れてみました。単に「お菓子」といっても、実は仕事の効率にとても大きな影響を与える「エネルギー戦略」の一環だったのです。このことに触れたKent Beckの偉大さに改めて気付くとともに、もし「お菓子なんて不謹慎だ」などと敬遠していた方がいたら、「エネルギー戦略」についてあらためて考えてみるのはいかがでしょうか。

(注:筆者の2006年発表のプラクティス大集合のP79に「お菓子貯金」というプラクティスがある。現在のScrum Patternにはおやつ神社(Snack Shrine)というパターンが含まれている。もはや標準といってもよいだろう(?))

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