アジャツール 第14回 腰メモで考える「メモという行為」の意味

はじめに

今回は前回の予告通り、腰メモについての紹介をします。腰メモといっても、初めて聞いた方々には「なにがなんだかさっぱり」ですよね。簡単に言ってしまうと、腰に常にメモ可能なものを着けておくというスタイルを指します。

もちろんメモ帳はYシャツの胸ポケットにしのばせておくのも使い勝手としては一向に問題ありませんし、カバンに常にメモを携帯しているという方もいるでしょう。今回は敢えて「腰である理由」とその方法について書いてみます。

腰リールメモ

腰リールメモとは造語です。簡単に言うと、腰に腰リール(ベルトにクリップなどで固定する、鍵などを着けて自由に伸縮させることができるリール)を備えつけ、その先に鍵ではなく、小型のボールペンと単語帳をつけておき、常に腰にぶらさげておき、常に単語帳にメモができる状態にしているというスタイルのことです。

筆者は2004年の中頃から腰リールメモを始めて、周囲の人にリールからワイヤーをひっぱりだして、縮ませたりネタとして見せつつ、歩きながらでも、トイレでもいつでもメモをとれるようにして実践していました。

昨年秋に自分のサイトに解説を書いたのですが 、Life Hack Press に取り上げられてから、ネットで見る限り利用者が増えたように思います。また実際に会う方々の中でも「使い始めました」という人をよく見かけます。最近では、単語帳の代りにリング式のメモを着けている人も多いようです。

腰リールメモの特徴としては、まず第一に「即座にメモ態勢に入れ」、「片付けに時間がかからない」という点につきます。おもむろに腰リールから単語帳を延し、備えつけのボールペンのキャップを外して書きたいページを開けばすぐにメモが取れます。携帯電話にメモをとるのに比べても、素早いと思います。更に書いた後は、ボールペンのキャップをして手を離すだけで元の位置にメモとペンが戻ります。このアクションは慣れると病みつきになること請け合いです。

シザーケース + メモ帳

ここ最近の筆者のメモは腰リールからシザーケース+メモ帳に移行しています。シザーケースはアジャツールの第0回で紹介したAGILITYのものを使っており、そこにMoleskine Reporter Plain Notebook Pocketというメモ帳を挿しています。ペンはボールペンではなく、PILOTのキャップレスデシモという万年筆をシザーケースに挿して使用しています。

こちらは腰リールメモに比べると装備が重いのが難点ですが、比較的大きなメモを携帯できるのがメリットです。筆者が使用しているAGILITYのカフェバックは、計ったかのようにMoleskineのポケットサイズがぴったりと収まるサイズで、計算をして買ったわけではなく偶然なのですが重宝しています。

腰リールのように自動ではメモが戻りませんが、ガンマンがホルスターから銃を抜いて射った後にサッと戻す、このようなアクションになります。こちらも慣れるとなかなか楽しいものです。シザーケース以外にも、チョークバッグやウェストポーチでも同様に腰メモが可能です。好みのものを使えばよいでしょう。

何故腰メモなのか?

腰リール、シザーケースともに腰に着けるアイテムです。何故Yシャツのポケットや鞄の中ではいけないのでしょうか?まずYシャツのポケットなどは、筆者のような私服で仕事をする人間にとっては十分条件にはならないため、メモを携帯する障害となります。着衣にメモの携帯性が左右されるのはあまり好ましくありません。

次に鞄の中にメモとペンを置いておく場合を考えてみると、自分の身とメモが離れてしまうのは大きなマイナス要因になります。このことを思い知るのは、イベントの後の飲み会の席などでしょう。鞄を置いてから呑みはじめると、人の話をとっさにメモしようとしても、メモが手元になくて困ってしまうのです。腰メモならば、これらの状況に対応できます。

また電車に乗っている時、歩いている時、トイレに居る時、様々な時間と場所で気づきを得る可能性があります。その気づきを逃さず書き留めておくために、腰メモは有用なツールです。携帯電話でメモを取るという方法もありますが、筆者は親指スキルが低いため打つのが遅いのと、絵が自由に描けないという点で候補から外しています。

世間師の知恵

最近、夏イベントで羽生田さんが話題にしていた宮本常一という民俗学者の著作を乱読しています。その中の「忘れられた日本人」という本に登場する左近熊太翁という方のエピソードが、「『忘れられた日本人』の舞台を旅する」という書籍に載っていました。左近熊太翁は幕末から昭和(戦中)までを生き抜いた長野県の方です。左近熊太翁の孫である又三郎氏はこう語っています。

(熊太翁は)いつも腰から方位磁石と大福帳と矢立をぶらさげてね。大福帳いうたら横に長いメモ用紙ですわ。矢立も知らん?筆と墨壺を入れる容器ですわ。

宮本常一は、日本中を旅して得た見聞を、自分の村に戻って活かす知恵者のことを「世間師(ショケンシ)」と呼んでいました。左近熊太翁はまさにその世間師で、様々な見聞を腰の大福帳に記録しておき、生活に活かしていたのでした。

腰リールやシザーケースといった方法に違いはあれども、腰にメモを携帯しておき、見聞きしたこと、気づいたことを常に書き留める。そしてその見聞、気づきを仕事や生活に生かすことは、今も昔も変らない行為なのではないでしょうか。

Published at 2006/08/09.

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