アジャツール 第8回 ニコニコカレンダーでメンバーの気分を見える化

はじめに

今回は、ちょっとネタに困ってしまった(笑)ので、メジャーなツールを取り上げます。公式サイト 、ポータルサイト(注:現在は存在しない) でも最近話題のニコニコカレンダーです。

(注:ニコニコカレンダーはこの記事の執筆後の10年間で、世界的に認知されAgile Allianceのプラクティス紹介や、有償サービスなども開発されている)

ニコニコカレンダーって?

ニコニコカレンダーは(以下ニコカレ)、公式サイトの説明は次のようになっています。

ニコニコカレンダーとは、チームのムード、メンバーの気持ちやヤル気を見える化するツールです。

簡単に説明してしまえば、各メンバーが毎日退社直前に、その日の自分の気持ちをシールとして貼るというものです。貼るシールは一般的にはその日の気分をGood、Normal、Badの3種類に色分けをして貼りだします。チームによっては基本の3状態に加えてSad(悲しい)などと種類を増やしている場合もあります。公式サイトでは、黄はスマイリーのイメージでGood、赤がNormal、青がBadとなっています。(注:筆者がニコニコカレンダーを海外に紹介した時に、色についての感覚が違うというフィードバックをもらったことを思い出します。海外からのフィードバックでは、赤はバッドイメージでした。)

シールにはその日の気分で顔を書いて貼るのがポイントです。顔を描いいてみると、ただの色別シールが貼ってあるよりも、ずっと貼った人の気持ちが込められている気がします。

ニコカレを初めてやってみたメンバーは「シールを貼るなんて、子供の頃以来だ」という感想を漏らしていました。筆者には2才の娘がいるのですが(注:娘はもう中学2年になりました。時の流れは早いです。。。)、子供は本当にシールを貼るのが大好きです。文具売場にいっても、手帳やノートに貼るカラフルなシールが数多く陳列されています。シールは言葉を書くよりも、イラストを描くよりも、手軽に自分の内面を視覚化できるツールなのです。(注:LINEから始まったスタンプブームはまさにシールと一緒です)

どんな効果があるのか

ニコカレのある人の、ある一日のシールは、その人のその日の気分に過ぎません。しかし1人1人の気分が、複数人分集まった時に、初めて同じ場所、同じプロジェクトで作業しているチームのムードを表現することになります。

1人1人の気分は、人それぞれの感性に委ねられています。そのため画一的に並列で評価することにそれほど意味があるとは思えません。しかし、メンバー全体で見たときには、その場のムードを見える化することになります。

一般的な感受性の持ち主ならば、ある場にいる時に、「ピリピリしているな」とか「いい感じだな」という場の雰囲気を皮膚感覚で受信できるでしょう。しかしあくまでもその雰囲気は、その場にいる人しかわかりません。ニコカレは、このような雰囲気を「気分を表わすシールを貼る」ことで見える化し、普段はその場にいない人々にも場の雰囲気を伝えることができるのです。プロジェクトマネージャのような現場の人間に対してもさることながら、経営者層や顧客もチームのムードを知ることができるのです。

もちろんニコカレを見ているだけでは効果は半減してしまいます。見える化を実施した後は必ずフィードバックが必要です。ニコカレを「見る側」は、ニコカレが発信している異常を察知してのフォローが必要になります。ニコカレの成功する如何は、実はこのフィードバックにかかっていると言えるでしょう。

気づき

ニコカレを実際に試していて気づいたのは、人によってずいぶんと感じかたが違うな、という点でした。「今日は皆ハードだったのでBadになるだろうな」と考えていたら、実は1人だけGoodをつけていた、というような感じです。これは1人1人の物事の捉え方の違いでしょう。

例えば「困難に出会って一日費してようやく乗り越えた」という場面を想定します。ある人は「困難を乗り越えたことによる達成感」を感じてGoodをつける場合もあれば、ある人は「困難に一日ふりまわされた疲労」に着目してBadをつける場合もあります。しかしよくよく考えてみると、感じ方が異なるのは当り前のことなのです。多様なメンバーがいるということを認識させてくれるのもニコカレのメリットなのかもしれません。

逆に言うと、最初はバラバラの感じ方をしていたものが、いつしか同じような感じ方になってくることがあるかもしれません。この場合はチームとしての一体感が高まった証と言ってよいのではないでしょうか。

また別の気づきとしては、リーダの立場にいると「XXさんは、昨日はBadだったな。今日はどうだろうか?せめてNormalにならないかな」という個人の気分への変な期待をしてしまう、ということです。心の中で思う分にはさほど問題ないですが、これを当人に口に出してしまったり、更には変に強制してしまうようなことになると、ニコカレの価値が失われてしまいます。ニコカレの背景にあるのは自分の気持ちを正直に表明できる「アサーティブ」な態度です。ニコカレは自分の気持を素直に表現できるツールであるべきなのです。

まとめ

ニコカレは、いわゆる進捗や課題といった「コト」の情報ではなく、「ヒト」の情報を見える化しています。マネジメント視点で見ると、とても簡単にチームのムードを見える化するツールです。視点を変えてみると、自分の気持や状況を周りや上司に簡単に知らせるツールといってもよいのではないでしょうか。

「見る」側と「貼る」側がうまく組み合わさった時に、ニコカレはより効果を発揮するはずです。

(注:ニコカレのマネジメントについては、筆者のこちらの連載にもう少し詳しく書かれている。)

--

--