サービスデザインとは、人々の人生の瞬間を線でデザインすること。
久々にアカデミックな場に顔をだしました。Tenny Pinheiroさんの本「サービス・スタートアップ──イノベーションを加速するサービスデザインのアプローチ」の出版記念講演に。
サービスデザインのアプローチについて幾つか気づきを得たのですが、僕の中でまだ整理ができていないので、文章にまとめつつ、実践していこうと思います。
※まず、サービスデザインとは、下記の考え方(主催のSDNさんのHPより)
サービスデザインはサービスに関わる人々やインフラ、コミュニケーション、物質的な構成要素を組織化・プランニングし、サービスの質の向上と、サービス提供者とカスタマーの間のインタラクションの改善を図るアプローチです。サービスデザインの方法論は、カスタマーや関係者のニーズに適した、ユーザーが親しみやすく、利用に適した、訴求力のあるデザインを実現することを目的としています。
その中で、スタートアップでサービスを作るにあたって、役に立ちそうなポイントを3つほど紹介します。
1.プロダクトデザインから、サービスデザインへ
産業革命以降、仕事が切り刻まれ、分業が進んでいった。極度に効率化と資本の増大が進む中で、Make and Sell(作って、売る)をひたすら行ってきた企業も多い。新規顧客に対してマーケティング費用を使い、既存顧客のケアは後回しにする。
しかし、売っておしまいではなく、その後にカスタマーサポートに投資することで、価値を出すサービスが出始めた。AirBnBやUBERもサポートを厚くすることで、顧客一人あたりの価値を高めている。さらなるメリットとして、コミュニティをベースにすることで顧客とコミュニケーションをとりながらサービスを開発するという手法が生まれている。点でのプロダクトではなく、ユーザーの行動を線で捉えることで、サービスとして価値を提供することへの転換が起こっている。
サービスをデザインすることとは、人々の人生の瞬間を線でデザインすることだというお話も面白かった。
2.MVPからMVSへ
リーンスタートアップで言うMVP(Most Valuable Product)という考え方。これは実験としてはよいが、正解にたどり着くために遠回りをしている可能性がある。不完全なものを何度もユーザーにあてて、細かい実験を繰り返しているにすぎないとも言えるのだ。アーリーアダプターを得て、彼らに対してテストを繰り返しても、なかなか正解に当たらない。サービスの断片をユーザーに渡しても、気に入らない。何度試しても。
そこで、MVS(Most Valuable Service)という考え方をTennyさんは提唱する。まず、ユーザーのインサイトをしっかりつかむ。ユーザーを理解した上で、サービス開発を進めていく。
度合いの問題とも言えそうだが、自分やユーザーの心を動かすレベルでサービスをデザインしないと、「誰もつかわない」ものを量産してしまうことになる、ということへの警笛でもあるのではないか感じた。僕らが提供する価値は、点のプロダクトではなく、それを含んだサービスとして初めて完成するのだ。
3.はたらき方に関する雑感
工業化が進む中で仕事の分業が進み、単一の作業ばかりすることになって仕事がつまらなくなった、という趣旨のお話があった。まるで、人がベルトコンベアに乗せられているような社会だと。
電車につめ込まれ、会社に行くことも。
学校で、キレイにならんだ机にすわり、同じ問題を解かされることも。
病院で、ちょっとずつ違う人なのに同じ診察と薬の処方をされることも。
人間の能力を切り刻み、弱体化させることで管理しやすくしているようだと。
世界の人口70億人中、サービス業に従事する人は現在17億人。これが、これから増えていく。彼らは、自分の作業だけでなく、仕事全体を見るkとが必要だ。全体が見えないと、創造性が生まれない。
一方で産業革命以前の社会では、いまほどの分業はなされていない。色をぬるだけの仕事、ネジを締めるだけの仕事は、単体では成立しなかったからだ。一つ、人生の時間の大きな部分を占める仕事は、全体が見えたほうが面白い。
スタートアップに限らず、事業では効率を求める部分もあるし、資本を投下する必要がある局面もある。しかし、数字を伸ばすだけの作業にならず、ユーザーに最高のサービスを提供する、という本来の目的を楽しまなければもったいない。
日本語版の監訳は、大学時代のゼミの恩師、武山教授です。