09:私が弾く音楽は、これから先、全部灰色になると思うんです。

疑惑のまま真紀の裁判が終わると、サイトには、罵倒のコメントばかりが届きました。別府たちは、真紀が帰ってくるものだと、期待して待ってたのですが、現れませんでした。「はたして、カルテット「ドーナツホール」の運命は?」と真紀のレコーダーに別府が吹き込んでいました。

レストラン「ノクターン」も「割烹ダイニングのくた庵」と名称がかわっていました。家森はあいかわらず、そこのウェイターとして仕事をしていました。別府とすずめがそこで食事をしていると、一人の記者が話しかけてきました。最新の真紀の記事が載った週刊誌を見せて取材をされました。「みなさん、利用されてただけじゃないですか?」と言われてしまいます。

家に帰ってきても、別府はその週刊誌をずっと見ていました。そして、

「解散しましょうか。僕たち、解散しましょ」

と、つぶやきました。

「そんなに、コロッケデートしたいんなら、皆でコロッケかってしましょうよ」

「真紀さんは、もう帰ってきません。仕事もないし、続けていても意味がないです」

「帰ってきますよ」

「真紀さんは、もうキリギリスじゃなくなったんです。もう違う道を歩いてるんだと思います」

「この写真だけで?」

「二人も働いているし。もう、カルテットなくても大丈夫じゃないですか。僕だけがずっと同じ場所です。僕も早く、自分の中のキリギリス、ころします」

そう言われると、すずめは真紀のヴァイオリンを2階から持ってきました。

「道が違うんなら、このヴァイオリンはどうするんですか?わたし真紀さんに約束したんです。一緒に待ってるねって約束したんです。解散したいんなら、解散すればいいです。でも、このヴァイオリン、真紀さんに返してからにしましょ」

「そうだね。真紀さん、探そうか」

3人で、週刊誌の写真から真紀が歩いていた場所を見つけました。そして、3人で真紀が住んでる団地にやってきました。すずめの提案で3人で演奏をすることになりました。その音を聞いた真紀は家を飛び出します。3人は、公園で子供たちに囲まれて楽しそうに演奏していました。真紀の姿を見つけると、3人は演奏をやめました。

すずめは真紀の手を握りました。髪の毛に手を当てると、真紀の現状に気が付いて

「別府さん、車お願いします。家森さん、ちょっと手伝ってください。真紀さん、連れて帰る」

4人は、軽井沢に帰りました。

4人でチーズフォンデュを食べながら、週刊誌のコロッケデートのことを聞きました。相手は弁護士で、デートでもなんでもないことを聞くと、別府が安心しました。

「司くん。安心しちゃダメだよ。コロッケと弁護士だよ。これ足しちゃったら、地球上に勝てるものないよ」

「そういうんじゃ、全然ないので」

「ですって」

食事のあと、演奏をすることになります。真紀は、3人が今やってることを聞くと、自分のせいだと思って暗い顔になります。その顔を見て家森が言いました。

「真紀さんのせいじゃありませんよ。一年前もこんな風に話してたじゃないですか。好きなことを趣味にするのか、夢にするのか。趣味にできたら幸せだけど、夢にしたら泥沼だよ。ちょうどいま、その時が来たんだと思います。夢が終わるタイミング、音楽を趣味にするタイミングが向こうから来たんです」

「ぼくは、この一年、無駄じゃなかったと思います。夢は、必ずかなう訳じゃないし、あきらめなければ叶う訳でもないし、だけど、夢見て損することは一つもなかったと思います」

「休みの日に、みんなで集まって道で演奏するのみいいんじゃないですか?私たちが楽しければ」

「コーン茶、いれますね。コンサートやりませんか?」

と真紀が言いだします。持ち出してきたのは、大きなコンサートホールでした。無理だと言う3人に、

「みんな、判ってませんね。わたし、ニセ早乙女真紀ですよ。疑惑の美人ヴァイオリニストですよ。有名人なんですよ。ずっと言ってたじゃないですか。大きなホールで演奏したいって。今なら、カルテット「ドーナッツホール」の夢がかなえられます」

家森と別府は、自分をさらし者にするだけだ、音楽を聞きに来るんじゃないと言いますが、「私、何でもありません」と言います。その言葉にすずめが、「その中の誰かに届けばいいんじゃないですか?ひとりでも、ふたりでも」と言うと、家森も別府も賛成しました。

家森が「のくた庵」で仕事をしていると、オーナーから手紙を渡されます。お客様から預かったと言われいました。その中には、「1年前に演奏を聞いたけど、ひどかった。自分も奏者だったけど、才能がないことに気が付いて5年前にやめました。だけど、おなじように才能がないあなたたちなのに、なぜ、やめないのか、なぜ続けているのか?おしえてください」とかかれていました。

コンサートの日になりました。有朱(吉岡里帆)は「人生、ちょろかった!」とイケメン外人と腕を組んでやってきました。ホールは、真紀が言ったとおりに満員になりました。

演奏が始まりました。今までの生活を思い出しながら4人は演奏しました。途中、ジュースのカンが投げられますが、集中していて気が付きませんでした。2局目は「ドラゴンクエスト」でした。途中で席を立つ人が増えて行きましたが、半分以上の人が聞いてくれて手拍子をいっしょにしてくれて、成功でした。

数日後。夕食は、唐揚げでした。

「ねえねえ、君たち、見て。これなんだろ。そ、パセリ。あるよね、パセリ」

別府とすずめはわけがわからないと顔を見合います。真紀は、消え入りそうな声で家森の言いたいことを代弁しました。

「家森さんが言ってるのは、好き嫌いのことじゃないです。家森さんが言ってるのは、パセリ、見ましたかってこと」

「そ、ないと、さっ風景でしょ。心で言うの。サンキュー、パセリ。食べても、食べなくてもいいの。ここにパセリがいることを忘れちゃ合わないで」

「あっ、パセリ、ありますね、サンキュー、パセリ」

と別府とすずめがいうと、すずめがレモンを全体にかけて食べ始めました。

新しい仕事も決まり、4人で出かけると、ガス欠になり、別府はナビを見ていましたが迷子になってしまいました。すずめはそれをみて、「みぞみぞしてきた」と笑い始めました。