Day 10

Michino Hirukawa
パリのすみっこから
5 min readMar 2, 2019

パリは曇り空。幸運にもずっと晴れの日が続いていたため、一気に気温も下がり雨がちらつく日々に。まちの賑わいは少し落ちるものの、雨のパリも寂しさと風情があって良い。この日は取材がはいっていた。突然11月に、メールで問い合わせてからお返事をもらえて、パリに来てしまった。もちろんジャポニスムのイベント続きで、定期的ではないものの何度かメールでのやりとりがあり、今回の取材の実現にいたった。

15時の約束だったため、それまでは近所のまち歩きを決行する。朝ごはんには昨晩購入しておいた、アーモンドのパン。日本でもよく食べているのだが、本場のパリでようやく発見できた。きっとどこにでもあったものが、目に入るようになっただけなのだが。いつも適当な時間に起きるものの、お昼ご飯も適当に目に入ったところでサンドイッチを買うのが定番になってきた。紙にまいてくれたパンをサクッと購入し、片手に持ちながら歩くのがスタイル。シンプルだけども飾らないのが好みだ。日本を発つ前、毎日パンを食べるか否かという議論を大学の先生とした。私は食べませんと答えたけど、こちらではおかげさまで毎日パンを食べる羽目になってしまった。

アーモンドパン

時間になると、地下鉄に乗って現場へ移動する。最初の週に泊まっていたホテルを通りすぎるため、少し懐かしい気分になってしまう。ここに来たころは、まちへ出るのにも常にドキドキしていた。メトロなんて尚更だ。メトロといっても高架線の上を走ることもあるので、見える景色の変化を楽しむことができる。パリのまちでは、このメトロの高架線のほうが普通の建物よりも高い。メトロに乗っていると、パリのまちが小さく見えてしまう時間がある。

パリ日本文化会館の最寄りであるBir Hakeimへは何度も通うことになった。フィールドワークをするにも、観光に行くのにも通過点になっていた。ここを通りすぎるとセーヌ河をこえて、いわゆる右岸にはいっていく。またこの駅はエッフェル塔の最寄り駅でもある。そのため駅を降りると、道路にスカーフを強いてエッフェル塔に関するオブジェやキーホルダーを並べて販売している人を多く見かける。人びとはここで一度集まり、そして右岸へ、エッフェル塔へと散らばっていく。

15時までは、パリ日本文化会館で開催されている藤田嗣治展を見にいった。事前にオンラインでチケットを購入し、荷物はお腹にかかえておく。パリで芸術を楽しむテクニックは身についてしまった。けれどもここでは写真撮影が禁じられている。昨年、日本でも藤田嗣治展が開催されていたが見逃してしまった。だから、パリで一挙に見ることができるのは貴重だった。なかに入ると、想像していたよりも空間が設計されていた。ホールのなかでの展示ではあるが、まるで美術館にいるように絵と章立てがゾーンに分かれての展示だと認識できる。パリでは、絵の見せ方が非常にうまいというか、陳列ではなくきちんと理屈をとおして展示されているのが伝わる。純粋に藤田嗣治展を楽しむだけではなく、スケッチも試みようとベンチに座って周りを眺めてみる。その場で絵を描くというのは、じぶんの技術不足や状況を認識する力も求められ難しさがともなう。またどんどん人が増えてきて、この展覧会の人気を目の当たりにしたのだった。

藤田嗣治展の資料

約束の時間になると、これまでメールのやりとりをしていた担当の方とはじめて出会うことができた。ようやくという気持ちもありつつ、初対面だとは思えない感じもあった。あたたかく迎えてくださったことで、徐々に安心感もうまれる。不思議にも、約3ヶ月間だけでもメールでメッセージをやりとりしているとどうも相手を知った気になってしまう。それからご案内されるがままに、会議室のほうへ向かう。結論から言うと、2人の方とお話することができた。文化芸術をとおして、国境をこえた現場で働いている方のお話をお聞きすることができた。じぶんが夢見ていた場所の1つであったため、質問やお話をしながら、最後にはじぶんへ問いとして返ってくる。どちらの方も長年パリ日本文化会館で働かれていて、さまざまな人たちが集まる現場がここにある。それぞれの人が夢見るものがあり、日仏の間で奮闘されている。そこへ光を当てる、映し出したい思いがある一方で、答えを出し切れない未熟な私がいる。

来週にもう1件の取材を引き受けてもらえた。最後にはなるが、また違った立場にいる方の声を聞きたい好奇心は募るばかりだ。この2週間のパリ滞在、最後まで気を抜けないものとなってしまった。もちろん海外にいるので気は引き締めているのだが、フィールドワークの一環としても。はじめての個人活動だったため、手探りでもあり、手を動かしながらすすめていた。じつは出発前に、研究会の先生とお話しした。ひとつ割り切ってみようと気持ちを決めたのだが、パリで数十日を過ごして、いまはその道でいくしかないと思っている。加えてやはり、まあやはりなのだが、いずれ勉学という形で、外に出たい気持ちもうまれる。いろいろな人たちの顔が脳裏に浮かび、申し訳なさも感じる。適したやりかたは、きっとあるはずだ。

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