菜穂子さんインタビュー

190921/ Sat / 16:15–16:50 / 曇り/ ファミリーカメラ

16時ちょうど、用事から帰って、柿生に戻ると、ファミリーカメラには誰もいなかった。いつもの「しばらくお待ちください」お札だけだった。5分ほど柿生をぶらついて、またお店に戻っても、まだ誰もいなかった。しばらくイスに掛けていると、1,2分くらいで菜穂子さんが来られた。
「あ、こんにちは〜」「あら。写真?」
先日、依頼された撮影があったので、それの回収かと思われた。
「あ、いや。」僕はどこかのタイミングを見計らって、菜穂子さんのインタビューをしたかったので、おばちゃんの予定を伺った。
「今日って、おばちゃんは何時くらいに戻られますか?」「今日はね〜、4時半過ぎ、5時くらいには戻るんじゃないかな」お、チャンスだ。最近、意外と菜穂子だけいる時に出くわさなかったので、ラッキーだ。もちろん手術の影響もある。体調も徐々に戻って、少しずつ店番もできるようになったと聞いていたので、最近になって、またタイミングを伺っていたわけだ。
「ちょっと、菜穂子さんにお話伺いたいので、今カメラ、家から持ってきますね」「え、何何、取材?」「まあそうですね笑」菜穂子さんは笑いながら苦手なリアクションを示していた。カメラを取りに家に戻った。

カメラを取って、ファミリーカメラに戻った。菜穂子さんはおばちゃんがいつも座っているイスに、僕は大﨑くんがつくって寄贈されたイスに座って、インタビューを始めた。僕がそのイスに座ると、「え、そんなに座ってインタビューすんの」「え、何を答えればいいの?」と緊張していた。菜穂子さん、可愛らしい。「インタビューと言いつつ、おばちゃんについてお話しをするお時間です」と僕が笑って、答えると、「なんかアナウンサーみたい笑」と笑っていた。
まず、出会いから聞いた。「結婚して、鈴木に入って、そうだね、36年くらい」「でも、ファミリーカメラをお手伝いするようになったのは、ここ10年くらい?」と僕。「いや、もっと」「あ、そうなんですか!」男性スタッフの方が亡くなられてから店番をするようになったとてっきり思っていたから、驚いた。「男性の方がやってて、おばあちゃんもやってて、お義姉さんもやってたから、お店自体はそうじゃないけど、ほら、七五三とか、そういう時のお手伝いはやってた」なるほど。確かに家族経営だから、お手伝いはするよな。「じゃあ、今の体制になったのが、20年前くらいってことですか?」「20年まではいかないかな」「15,6年か」「10年ちょっとくらいですね」「へー。僕らはこの体制しか知らないじゃないですか」「そうね。木村くんも2年だっけ、来たの」そこから懐かし話が始まる。脱線してしまったので、僕が戻す。
「おばちゃんが普段仕事されてるじゃないですか。おばちゃんが代わってって言ったら代わるんですか。何か決まりはあるんですか?」「決まりっていうか、買い物行ったり、お店の用で展示会行ったり、まああと主婦だから、娘のこととか、旦那さんの親戚関係のこととか、やっぱりそういう時に、出かける時に、誰か居なくちゃいけないから、だから毎日は来てるね。おばあちゃんがいるから、買い物とかそういうのもあるから、だから手伝う時だけに『はい、いっきまーす』って感じじゃなくて、だいたい代われる時に代わるみたいな。この日は出かけるから、逆に私が用事ある時もあるから、『この日とこの日は入れないです』って言うと、おねえさんが予定入れないで、お店にいる」「シフトみたいですね笑」「あ、そうそうそう、そんな感じ」「でもすごいですよね。休んだりしないじゃないですか」「あ〜、すごいよね。だから前はホントに休みなかったの、今日曜日の午後とか休んでるけど、おばあちゃんがやってる時とか、ずーっと休みなくて、うーん、ここ数年だよね、日曜日の午後休むっていう風にしたのは」「そうなんだ!」「だからすごいなって思ったよ、私」ホントすごいよなー。以前から休みなく開けているのすごいと思っていたけど、ここ数年とは驚いたな。「というか、おばあちゃんすごくないですか」 あまりにもおばあちゃんがすごいと思って、若干遮る形で聞いてしまった。「だっておばあちゃん30数年やってたんですよね、休みなく」「おばあちゃんね。今でもレジ打てると思うよ笑」「あ、ホントですか笑」「だからね、おばあちゃんね、腰の手術したのね。その時まではおばあちゃんが、夕方とか締めてたの全部。終わって、計算して」「毎日開けてるし」「そうそうそう。10年なるかな、ならないかなくらい(前)まではやってたんだよお店。で、おばあちゃんが手術したから、おねえさんが務めているの。それで男の人も辞められたから、おばあちゃん1人だけじゃね、大変じゃない」「それで受け継いだ?」「そう、そんな感じだね」「歴史あるなぁ」「そうだね、歴史あるよね、そう思うとね。おばちゃん(菜穂子さん)が来てから36年?だから、その間、ずっとね、あれだったから、すごいよね。周りの写真屋さんも全部こうなくなったから、ただ1つここだけ」 誇らしそうだった。「なんで残ったんでしょうね。いまだにお客さん来るじゃないですか」予てからの疑問を菜穂子さんに聞いてみた。「だからそうそうそう、おばちゃんがいつも言っているのは、『お客さんにいい気分で帰ってもらいたい』。だから繰り返し来てくれる方が多いよね」初めて聞いた。菜穂子さんだから知っているポイントだし、インタビューできて良かった。そうじゃなきゃ聞けなかったポイントだと思う。「フィルムだし頻繁には来ないでしょうから」「そうそう、でもずーっとそれこそ、何十年と来てくださっている方とかいるし、お年召した方とかだとちょっと姿見なくなった方とかもいるけど、でも繰り返し来てくださるから、そんだけ信頼してくださっているんだね。『やめないでくださいね』って言う方がすごいたくさんいられるの笑」「なかなか大変ですけどね、続けるの」「そうねー、大変だけどねー」ちょっと間が空く。「写ルンですも売れてるしねー笑」と僕。「そう、これ1100円になってもこれ買ってかれるよ。『他より安いですよね〜』って言って」「他(のお店)より安いですもんね」「でも、『あ、値上がりしたんですね』とか言って。だって、ほら、値上がり幅がすごいじゃない」「うん」「だからおばちゃんも最初の一回だけは、だからちょっと値引きして、差し上げたりはしてる。『次回からはごめんね』って」ここまで聞いて僕はずっと思っていることを聞いてみる。「なんでそこまで、お客様中心なんでしょうね」「なかなかね、自分のお店をそう言うのもあれだけど、なかなかないと思う笑」 「ですよね笑。これだけお客様中心で動いている会社、っていうかお店って僕はないように思います」「そうね、あ、だから、もうけ主義ではない。もうけ主義ではないのと、『時間にどうしても欲しいんです』って言う方もいるじゃない。だからなるべくあれに応えられるようにはしてるよね」「結構融通聞きますよね笑笑」「でも、なんか、お客様で、ありがとうございましたって次の日電話いただいたり、何、ちゃんと対応してくれたり、そういう方が多いかな」「いいお客さん多いんですね」「気持ちのある方が多いかな」こういう風に本心で思え、言えることがすごいと僕は思う。なかなか実行でき、言えることじゃないと思う。ずっとお客様中心で動き、それでいてお客様に感謝しているのだ。
話はそのお客さんに。「けっこうお歳暮とか持ってきてくれたりしますもんね」「あー、それは個人のね。おねえさんのところは留守がちじゃない。それこそ、宅急便屋さんとも親しいのよ笑。自宅に誰もいないっていうのがわかれば、こっちに持ってきてくれるの」「あー、なるほど!」僕は勘違いしていたみたいだ。「つうかあなのよ」とここまで話しているとお新香おばちゃんが入ってこられた。ちなみにこの日は、僕のいる短時間でさえ、お新香おばちゃん以外にもう一人外から挨拶された方がいた。
話はそのおばちゃんについてになった。「あの方も、病気があったり、ご主人が亡くなられたりしたんだけど、その話をおばちゃんにするんだよね、やっぱり。だからやっぱり話したい、おばちゃんと話したいという方が多いんだと思う。でも初めての方でも、相談じゃない、なんか話をしていく」「あれ、なんなんでしょうね笑」「普通話さないでしょ?親しくなれば別だよ?初対面の人には話さないじゃない?だから、『なんでああやって話してくんだろうね』とかって(おばちゃんと)話してるんだけど笑。なんか不思議だけど、そうなのね」「それも含めて無くなって欲しくないんでしょうね」「あぁ、そうねぇ」「写真屋っていうのにプラス、お話したい」「だから、『気持ちよく帰っていただきたい』という、そういうのがあるから、だからこのお店に来て、癒されてっていうのもあるんだと思うんだけどね」「あー、なるほどなー」腑に落ちた部分があった。「でも『申し訳ない』っておばっちゃんってよく言いますよね。これ(写ルンですを指差して)とかも」「そうそうそう」「おばちゃんは悪くないじゃないですか。フジ都合じゃないですか」「本当ならば、お客様の『上がっちゃった』という気持ちの負担というか、それが、そういうのが、『気持ちよく帰っていただく』というの中の一部なのかもしれないね」そういうことだったのか。僕はてっきり今まで申し訳なさから全て来ているのかと思っていた。僕の中の仮説が崩れた瞬間だった。少し間が開いて、菜穂子さんが話を続ける「お客様が本当に良い方が多いから、そういう方に対して、『気持ちよく接したい』という風に思ってるんだと思うんだけど」「呼ぶんですかね」「同じ感じの人って集まるじゃない」「友を呼んでる笑」類は友を呼ぶ。「気配りがすごいから、相手の人に『あ、気を使ってもらっている』って思わせないように、だからそういうのをやるんだと思うんだけど、それはすごいなと思うよね。だから多分自分では疲れちゃったりすることもあると思うよ」確かに心労とまでは言わないが、気疲れしている時は本当に多い。だからこそ僕が悩みや愚痴、イジリを受けることができたと思う。「なんかこう、楽しく、場を盛り上げられるのよ。だからその場が楽しくなると頼りにされちゃうじゃない。宴会とかやっても盛り上げてくれるし笑。やっぱりそういうのあるんだよね。おばちゃんは『ついついそういう風にやっちゃうのよね』って言うけど、盛り上がっちゃうのよね」「素の側面もありそうですけどね」「素でそういう風になる時もあるんだけど、その前に楽しませてあげようとか思っちゃうんだろうね」「みんな(周りの人)楽しそうですもんね」「そうそう、だから、おばちゃん含めて宴会とかがあると、おばちゃんが予定が悪くなっちゃって、『行けなくなっちゃった』って言うと、みんな『別の日にしよう』って笑。なったりとか笑」おばちゃんは愛されてるなぁ。その陰では気配りが効いているに違いない。

「質問は以上ですか」と菜穂子さんに確認された。それで焦って僕はいつもの質問をする。菜穂子さんにとっておばちゃんとは。「(おばちゃんもファミリーカメラも)ひっくるめてだね全部。だから」ちょっと考える。「おばあちゃんがいるでしょ?おばあちゃんに『この場所がある限りは、ここをちゃんと守っていくよ』って言ったの。まあお店はちょっとね、おばちゃんだって70歳以上だし」「再開発あるしね」「そうそう、だからそれはどういう風になるかはわからないけど、『ここがある以上はみんなが集まってこれるような場所として守っていくよ』っておばあちゃんに言ったの。だから帰ってくる場所?」「それはファミリーカメラ、お店のファミリーカメラも、お客さんも含めても、そんな感じですか?イメージとしては」「お客さんも含めても?うん、そうだね。ここにあれば、みんな集まってきてくれるっていうか。できる限り。それぞれに、おばちゃんだってやりたいこともあるだろうし、好きなこともやってほしいし、いろんなことしたいと思うのね、実現はなかなかできないけど。やっぱりここはおばあちゃんが作ったものだから、それを守っていきたいとおばちゃんは思っているから。だからそこは手助けできることがあれば、手助けしていけたら良いかなって思うかな。何十年ってやってきたあれだから、まあいつかは閉めなきゃいけないけど、良かったと思って、閉めれたら良いなぁって」「いつになるでしょうね」「だから『早く結婚して』って(おばちゃんが)言ってたよ」「それ関係なくない笑」相変わらずだ。そのあとしばらく菜穂子さんといつものように他愛もない話をしてから帰った。体調が本調子でない中、苦手なインタビューに付き合ってくれたことに感謝である。菜穂子さんにインタビューしないと聞けないことが多かった。とても貴重な機会だった。

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