潮騒を聞きながら(3)

Michino Hirukawa
にじだより
Published in
5 min readJul 30, 2019

4年間をふりかえる
卒プロに取り組むなかで、問題意識が適切な言葉で説明されていないことに気づいた。やりたいことや知りたいことに向き合い、自由に時間と労力を費やせる期間だからこそ、じぶんなりに納得する形ですすめたい。そこで、今までの大学生活4年間をふりかえることにした。

1年生のとき、みなとメディアミュージアムという茨城県那珂湊での地域アートプロジェクトに学生スタッフで参加した。全国から選考した作家の作品を那珂湊のいたるところで設置し、まちを“美術館”に見立てる試みだ。このとき、作家の希望を聞きながら那珂湊の人たちと交渉をする、いわゆる「キュレーション」的な担当になった。同じ学生スタッフや作家、まちの人たちと共に生活する。さまざまな問題意識を持つ人たちの間で、じぶんができることは何かを問いながら、泥臭い毎日を過ごしていた。

大学で加藤文俊研究室へ所属しはじめたのは、2年生のときだ。社会学・コミュニケーションを関心領域とする。この研究室を志望したきっかけに、フィールドワーク展と呼ばれるイベントへ訪れたことがある。研究室が取り組んできた1年間の成果物を発表する展覧会だ。当時研究室にいたメンバーが各々のプロジェクトを生き生きと語る姿に感動し、不思議な「居心地のよさ」を体験した。とりわけ4年生は、大学の集大成として卒業プロジェクトを発表する個人のブースを与えられる。じぶんもいつかこのポジションに立ってみたい、そんな気持ちが沸いた。

整理する
上記は数あるうちの2つにすぎないが、大学の4年間は研究やプロジェクトやサークルなど比較的さまざまな活動に取り組んだ。だからこそ、それぞれ関連づけ、根底にあるじぶんを突き動かす何かを見極めることが難しかった。したがって、図解を用いて整理を試みた。

整理したポイントは2つある。1つ目は「コンセプト」と2つ目は「エピソード」だ。まずここでの「コンセプト」とは、じぶんが大学生のときに出会い、面白がったものである。ふりかえると、4つのコンセプトを挙げられた。それぞれのコンセプトへ何故惹かれているのかを書き出し、まとめてみる。例えば、「コミュニケーション」ではその時・その場でじぶんの見せ方を調整していることや、「異文化理解」は異なる文化を持つ人びとと関わる楽しみの点で関心があった。「芸術・アート」はやや領域が広いが、一見何の変哲も無いものが見立てによって視点を変えることは面白い。最後の「編集工学」は日本文化らしさを問いにし、情報編集の仕組みを提案する。

4つのコンセプト

続いて、大学時代に経験して充実感を得られたもしくは卒業プロジェクトで語りたい「エピソード」を整理する。米国留学や東京オリンピック・パラリンピックを引き合いにすると、多様なレベルでの異文化コンタクトが発生している点で「コミュニケーション」と「異文化理解」へ繋げられる。みなとメディアミュージアム、加藤文俊研究室、ジャポニスムについては、「芸術・アート」を介した「コミュニケーション」のデザインに関わると理解できる。サークルで従事していた茶道も以下のようなポジショニングが可能だ。

以上の価値づけが、私の状況である。ここで最も注目したいのが「コミュニケーション」と「芸術・アート」、つまり「メディア」という領域だ。メディアとは、情報の伝達に際して間に媒介するものである。テキストやグラフィック画像、空間演出、映像やデジタルコンテンツ、光や音や触覚や匂いなど多岐にわたる。これらの多様なメディアのなかで、「空間演出」の部分つまり「場づくり」への関心がゆずれなかった。

場づくり
私にとっての「場づくり」への興味は、一体どこからきたのだろう。米国滞在時、現地の人たちと距離を縮めるために、新しい言語を習得したり、髪を長くしたり、他のアジア人を避けたりしていた。みなとメディアミュージアムでは主役であるアート作品を主張することに対し、学生スタッフとしての存在を消すことに葛藤した。こうして相手の反応を繊細に確認しながら、日々を生きてきた。じぶん自身だけでなく、東京オリンピック・パラリンピックやジャポニスムも、じぶんたちのありたい姿を映す装置である。

それはコミュニケーションに対する関心であり、“いつか・どこかで・誰かと”を意識することになる。目撃したいコミュニケーションを成り立たせるために、じぶんは相手の役割や社会的地位、あるいは反応などを想定しなければならない。どのように人やモノとの関係なかでじぶんを位置付け、面目を切り替え、ふるまいを調整しながらじぶんを提示するのか。もしかすると、とある「場」におけるじぶんのふさわしい状態の模索、「アイデンティティ」の獲得という問題に向き合っていたのかもしれない。

ふりかえりながら、言葉を研ぎ澄ます。じぶんなりに納得しないと、スタートにさえも立つことができない。むしろ原点に立ち戻ることが鍵となり、背中を押してくれる。私の声は、ずっと此処にあった。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2019年8月1日時点)。 最終成果は、2020年2月に開かれる「フィールドワーク展XVI」に展示されます。

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