色とりどりに集う場所 (3)

jir
にじだより
Published in
6 min readJul 31, 2019

目次

・個人レイヤー

・集団レイヤー

・これから

前回、社会的なカテゴリーの扱いの変化をペイントソフトのレイヤー機能に置き換えて考えてみると視覚的に表現できるのではないか、という説を唱えることで、きっかけと土台となる考えについて述べた。この2ヶ月間引き続きカテゴリーとレイヤー説について考える中、「個人レイヤー」と「集団レイヤー」という2種類のレイヤーパターンを作ることでより具体度を高めてみた。その内容について述べていく。

個人レイヤー

まず「個人レイヤー」について述べる。初めに、私自身で「自分の中で目立つであろうカテゴリー」を10個選んだ後、それらをIllustratorで1つずつ色分け、レイヤー化した。それから実際に私の周りにある場面毎にレイヤーがどう変化しているか考え、レイヤー操作することで視覚的に表現した。

個人レイヤーのプロトタイプ

上図を元に、どうレイヤーを操作していったかを説明する。

右上図は就職面接での個人レイヤーを表したものである。就職面接の場面では「学歴」が重要視されると考え、「慶応生レイヤー」を最上層に重ね、不透明度を100%に操作した。その次に「専門分野」「文理」「インターン経験」の順に重要だと考え、順に重ね、下層になるにつれて不透明度の値も下げていった。就職活動の場面では一切関係のない「iPad好き」と「セクシャルマイノリティ」のレイヤーは非表示になっている。その結果このように表された。学歴や専門分野のレイヤーがほぼ視覚情報の大半を占め、「イラストを描く」や「大阪出身」などのレイヤーは見えていない。

次に加藤文俊研究会にいる場面での個人レイヤーを作成した(左下図)。見ての通り「就職面接」場面とは全く異なる見た目をしている。研究会は何より研究する場所のため、研究内容のレイヤーが最上層に重ねた。そして、就職面接では当たり前で重要視されなかった「4年生」の学年は、研究会では重要な位置にあるので2番目に重ねた。逆に、同じ研究会内では同じ大学であることはほぼ当たり前のため、就職面接では最上層だった「慶応生」のレイヤーは最下層になっている。

最後に電車や新大久保など、人種や背景問わず様々な人々が行き交う場面での個人レイヤーを表現してみた(右下図)。これらの場面では、特にこれといって人を見るときに重要視される要因はない上、他人同士の判断材料としては話しかけない限り見た目のみで、「あの人はこういう人だ」と判断することが難しい。そのため個人レイヤーで表現する際、半分ほどを非表示にし、見える情報も不透明度は全て50%に操作した。

以上の3例を踏まえると、個人レイヤーでは「年齢」や「学歴」など、レイヤー自体が変化することは少なく、それらのレイヤー同士の重ね順を組み替えたり不透明度を変えたり、レイヤーを操作することが多い印象となった。そして、属する集団の機能がはっきりしていない、集団内に自分と相対化できる人が多いほど結果として個人レイヤーはぼやけやすいと考えられる(しかし、極端に目立つカテゴリーレイヤーを持つ場合は逆に目立ちやすいと考えられるため、要考察)。

集団レイヤー

次に集団レイヤーについて述べる。集団レイヤーはカテゴリーを種類毎に集めたレイヤーがあり、その集団で重要視されるカテゴリー順に重ねられ、操作されるものとした。先ほどと同様に例に沿って説明していく。

集団レイヤーのプロトタイプ

まず、加藤文俊研究会でどのカテゴリーが重要視されているかを考え、それぞれに属するカテゴリーの比率を整えながら抜き出した。ここで重要なのは、レイヤーの中にあるカテゴリーの色の濃淡であり、「少数派のカテゴリーほど他人から認識されやすい」という説の元、属する割合がが低いカテゴリーは濃く設定し、下のレイヤーが見えにくくなるよう表現されている。それからは個人レイヤーと同様に、レイヤーの重要度順に上に重ねていき不透明度を操作した。

本研究会では、卒業プロジェクトやグループワーク、院生プロジェクトなどで研究が分かれていることや、課外活動時に継続生と新規生がペアになることが比較的多いことから、学年や立場によるカテゴリーが重要視されていると考え、「学年」レイヤーを最上層に重ねた。出来た集団レイヤーを見るとわかる通り継続生は割合が大きく、それ自体がカテゴリーとして認識されにくいことから、継続性カテゴリーが薄く透けてその下にある「出身地レイヤー」が見えるようになっている。

一方、電車や新大久保などは上記の研究会のように集団の機能が明確ではないため、どのカテゴリーを見ることが重要であるか定まっていない。その上「年齢」「出身地」「性別」「ファッション」など他人を判断するための材料が非常に多いため、いくつもの種類のレイヤーが重なっている。レイヤーの不透明度が全て低い上に多重に重なり、結果として「電車や新大久保では他人を判断しにくい」といったことが表されている。

集団レイヤーでは、集団に属する人々のカテゴリーの割合によってレイヤー自体が変化しやすい。例えば、継続生の多い研究会に急に大勢の新規生が入ってきたとき、どのカテゴリーが目立つか目立つか目立たないかが変わるといった具合だ。しかし逆に、集団の中では「どの種類のカテゴリーが重要視されるか」はその集団の機能によって固定されやすいため、レイヤーの重ね順が変わることは少なく、不透明度も頻繁に変わることはないと考えられる。

これから

今回の章では、自ら考案した「個人レイヤー」と「集団レイヤー」についてプロトタイプを提示しながら説明した。

この2種類のレイヤーについてより練っていく事で、人のカテゴリーの変化の仕組みを視覚的に表せるようになっていると感じた反面、人を見るときにカテゴリー以外を見ていることの方が多く、この「カテゴリー×レイヤー説」だけでは表現しきれない部分が多々あるとも感じた。人を見る際は、見る側の価値観や経験などが関係するだろうし、見られる側の性格や趣味嗜好なども関係するはずだ。それらを「カテゴリー」とは別の存在である「個性」と結びつけ、どう表現するかがこれからの課題となってくるのではないかと考えている。

また、これから「レイヤー」の見本として使っているIllustratorの機能をより学ぶ必要があるとも感じた。今回レイヤーを操作する中で使用した機能は「レイヤー重ね順」「不透明度」「非表示」のみだったが、他にも「複製」「ロック」「削除」など数多くの機能が存在する。それらを本研究に取り入れることができれば、より表現物としての幅が広がるだろう。

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