Translation(4)

Michino Hirukawa
にじだより
Published in
5 min readSep 30, 2019

問題意識
私たちは、他者とのコミュニケーションを成り立たせるために、相手の役割や社会的地位あるいは反応などを想定して、自らを提示する。それは入念に準備される場合もあれば、即興的にほとんど無意識のうちに行われることもある。例えば、目上の人と話すときは敬語になったり、外国では英語を話したり、その時・その場にあわせた自分の面目を切り替えながらふるまう。自身の経験でもアメリカの高校へ留学した際に、新しい言語の習得や容姿の変更に努めなければ、現地の人たちとコミュニケーションしづらい場面が多々あった。つまり人は、周りにある<モノ・コト>との関係のなかで自分を位置付け、その場における「ふさわしい」状態を模索している。さまざまな関係性のなかで、どのようなプロセスを辿っているのかに関心がある。

研究方法
本プロジェクトでは、研究対象者を加藤文俊研究室(以下:加藤研)の履修者とする。とりわけ「加藤研にいる自分」が最も際立つ場である、年度末に開催される「フィールドワーク展XVI」(以下:FW展)に着目したい。FW展とは、毎年の年度末に開催される展覧会である。加藤研の履修者が取り組むさまざまなフィールドワークの成果を公開し、人やまちに還すことを目的としている。ここで加藤研としての「自分」を見せながら、この「舞台」を成り立たせる<モノ・コト>を上手に見せるための工夫が必要だ。それまでの<準備>、FW展が開催される3日間を<本番>と仮定し、<後>でふりかえるプロセスを観察する。一連のコミュニケーションの過程を追いながら、「加藤研にいる自分」のアイデンティティが、身体感覚としてどのように醸成されていくかを探求したい。

スケジュール

現在の進捗
加藤研では、独自に使っているSlackというソーシャルメディアを採用しながら、2月のFW展が終了するまでオンライ上でのやりとりが続く。具体的には現在、まずはFW展に関するオンライン上でのコミュニケーションを記録している。今年度のフィールドワーク展についての発信は、5月から開始されていた。9月末時点で、合計48件の投稿がされている。投稿内容は、FW展の会場選びについて半分を占めている。6月に会場が決まると、学期末の7月から加藤研内での役割分担が決まり、タイトルの決定についての議論がすすみはじめた。しかしこの4ヶ月の投稿を記述してみると、投稿者は先生と4年生の6名しかおらず、FW展を働きかけている存在が特定の履修者であることがわかる。このような現実も含め、オンライン上でやりとりは、決してアクティブに行われているとは言い難い。すべての投稿は敬語でやりとりされ、ソーシャルメディアではフォーマルな面目が期待されているようだ。

立ちはだかる問題
研究方法を、特定のソーシャルメディアの記述および分析のみだと不十分ではと感じている。加藤研が利用するSlack以外にも、研究会の履修者間ではLINEや他のソーシャルメディアが利用されていることも事実だ。これらのソーシャルメディアに、調査者である私がどこまでアクセスするかを考えなければならない。そもそも、「アイデンティティ」との関わりを追いたい場合、必ずしも自分自身がその変化を意識および理解しているとは限らない。日常の経験的にも、他者から見られた「自分」というように、まわりとの関係のなかで「自分」を理解していくことがある。そのためソーシャルメディアの記述だけでなく、対象となった加藤研の履修者と直接的なコミュニケーションを介することが、問題意識と適合した研究方法かもしれない。

FW展は、調査者である私自身も関わることになる「場」である。先ほど述べたように、卒業プロジェクトに取り組む4年生はFW展を動かしていく立場としての存在感が強い。今後取り組むことであろう仕事を書き出してみる。

・広報をする(WEB,DMなど)

・ 会場でのレイアウトを決める

・ 予算を確定させる

・ 当日のシフトを組む

・ 会場のマップをつくる

・ 搬入と搬出の段取りを組む

…etc.

上記は例の一部にすぎず、他にも細かな作業が重なるはずだ。加藤研という1つの集団で調査および研究をするにあたり、調査者である私自身がさまざまな力関係や役割のなかで、心も意識も変化していくことも考慮したい。さらにFW展とは加藤研の履修者による成果物を展示する場になるが、本研究の表現方法については工夫の余地がある。必ずしも形に残るものではなく、FW展では私自身にしかできないアクティブな表現方法が他にもあるのではとアイデアを膨らませている。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2019年10月1日時点)。 最終成果は、2020年2月に開かれる「フィールドワーク展XVI :むずむず」に展示されます。

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