Translation(5)

Michino Hirukawa
にじだより
Published in
5 min readNov 29, 2019

本プロジェクトでは、研究対象を加藤文俊研究室(以下:加藤研)の履修者からの協力を得ながらすすめている。現在は研究方法を試行錯誤している段階だ。

研究方法
ー Slackが適切か?
加藤研が独自に使うSlackと呼ばれるソーシャルメディアへの投稿を観察および記述することでの研究を検討していた。しかしこのソーシャルメディアは、ほとんどの投稿が敬語であり、決してアクティブに動いているわけではなかった。ソーシャルメディアでは自分の印象を著しく操作可能であり、さらに研究となれば「つくられた」データを獲得することになるかもしれない。より自然に近い状態で関係性を語るにはどのようにすればよいか。Slackを中心とした研究方法は適当でないと判断した。

フィールドワーク展がゴールか?
また加藤研では、毎年の年度末に「フィールドワーク展」という成果報告会を開催している。研究を大学外に開く取り組みであり、「加藤研にいる自分」が最も際立つ場となる。そこで、このイベントを起点として、どのように「らしさ」が醸成されていくかを研究しようと考えた。しかし加藤研らしさを語るためには、フィールドワーク展だけでは不十分である。調査者である私自身が2年半を過ごした加藤研での活動をふりかえるだけでも、たくさんのキーワードや要素を書き出せたからだ。もちろんフィールドワーク展は、研究をすすめる上でひとつの区切りになる。

1対1で時間を過ごす
以上のような変遷があったが、現時点で最も有効である研究方法を以下のように考えている。それは、加藤研に所属する履修者全員と私が1対1でインタビューすることだ。第一に、対象者を加藤研の履修者と設定したことは、調査者(私自身)もいちメンバーとして含むことを意味している。つまり、加藤研にいる「あなた」という2人称の立場を通して研究することになる。もともとの関心は、関係性のなかでの「自分らしさ」である。1対1で時間を過ごすとなると、より個人と個人の関係が際立つだろう。だから自分自身を鏡的に自己理解していく側面を加えることが、より研究として意味があると強調したい。

事前調査
加藤研の履修者と1対1で時間を過ごすという方針は決めたものの、具体的な実践方法を決め切ることができなかった。そのため実践していくにあたり、まずは外の友人に同様のインタビューを練習という形でお願いした。同大学に通う友人Kとは、他学部から文学部での学芸員課程を履修するなかで知り合った。以前からKへは、本プロジェクトについて話していた。今回は「文学部らしさ」について、ふたりで語りあいたいと提案した。

対面しながらの事前調査

とある駅のカフェで対面する形に座り、1時間ほど話がしたいと事前に伝えていた。iPhoneですべての会話を録音し、取材後に写真を撮らせてもらうことで記録した。この事前調査を終えて、いくつかわかったことがある。まず、全体として窮屈な雰囲気があった。事前に用意していた一眼カメラを取り出せる隙はなく、話をしていて息が詰まりそうな感覚があった。また1時間経ったとき、Kが「終わってみての感想なんだけど」と切り出してきたことも、「乗り切った感」をふたりが共有していた現れである。もしかすると、「らしさ」を語りあいましょうと提案していたことが、ふたり「らしさ」を作りましょうとその場を強いていたのかもしれない。次に、ふたりが話していた内容についてだ。学部の比較、先生や学生たちなどの話題は多岐にわたるが、総じて文学部への不満だった。2年半の付き合いがあるKとは、たびたび、文学部への愚痴を共有できる仲だ。だから今回のインタビューで、はじめて聞いた細部にいたる内容もあるが、どちらかといえば真新しい情報は少なかった。むしろ、「確認」をとっていた感覚にちかい。すなわち、同じ集団に所属するふたりが、その集団を題材に語りあうと、集団内でのふたりの関係性を「確認」することができる。

これから
本プロジェクトでは、個人が自分「らしい」状態をどのように維持しているのかを問いにしている。しかし1対1で時間を過ごす方法であれば、それ自体を活かすべきではと指摘をいただいた。なぜなら、1対1でがっつり話を交わすことはかなり貴重な体験になるかもしないからだ。大学生という限られた時間のなかで、似たような興味を持った人びとが研究室に集まる。さまざまな活動を共にしているが、ひとりがすべての人を介することはあまり無い。このとき加藤研での関係性をどのように扱うのか、現在は以下ふたつの側面から語られている。

しかし、そもそも、加藤研と他部分でのつながりを切り離して関係性を捉えることはできない。どのような観点からすすめるかは、研究の焦点を定めることで決められていくはずだ。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2019年12月1日時点)。 最終成果は、2020年2月に開かれる「フィールドワーク展XVI :むずむず」に展示されます。

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