Translation (6)

Michino Hirukawa
にじだより
Published in
5 min readJan 31, 2020

研究で探求したいものと研究方法が一致せず、実践へと移れない時間がずっと続いていた。

「らしさ」とは?
とあるタイミングで、きっかけがあった。それは、「ここでずっと語られている<らしさ>とは、<規範>にちかいものではないか」と指摘をいただいたことだ。具体的に言うと、「ここにいるときは何となくこうしておいたほうがいい」といった、ゆるやかなルールや社会的役割への関心を指していた。

もともと卒プロの出発点は、自身の海外経験だった。日本を離れ、突然はじまった米国での生活。今まで自分が経験したことがない、違う常識や評価の基準に出会った。自分を合わせることに戸惑っていた一方で、個人の主張を重んじる米国的な価値観に心地の良さを感じる場面も多々あった。そのような振れ幅のなかで、自分が確信を持って言えることを見つけなければならなかった。

人びとの集まりでは状況に「ふさわしい」状態が求められること、<空気>という同調的な力があること、文化によって人の行動も決められること。今まで私が何となく相性が良いと感じていたこれらの概念と、<規範>をキーワードにつなげることができた。

加藤研メンバーとの実践へ
卒プロをはじめてから8ヶ月目。ついに、加藤研履修者を対象とした実践がはじまった。「加藤研のなかで期待されているふるまいを、履修者自身はどのように認識しているのか?」を問いに、私自身と1対1でインタビューをすすめていく。「学生」という社会的役割を視座として、<加藤研らしさへの期待>を紐解くことを目標に設定した。

加藤研には、秋学期履修者が全員で19名いる。まずは、同期である4年生とのインタビューからはじめた。なかでも、加藤研を今学期で卒業する、木村真清と日下真緒のふたりとのインタビューを実施した。1〜1時間半程度、ゆっくり話ができる場所をふたりで選ぶ。加藤研のさまざまなプログラムおよびプラットホームごとの項目に分けて、ゆるやかに状況をイメージしながら話をすすめた。

インタビューを終えて
ふたりとのインタビューは、いったん文字に書き起こした。紙面になることで、インタビューの状況をじっくりとふりかえることができる。

大きくふたつ、気づいたことがある。まず「加藤研らしさ」を見るためには、相対化することで際立ちやすい。例えば、大学にある他の研究会、大学外の職場、中学や高校時代の部活といった、加藤研以外で自身が所属する他のコミュニティと比べることで、話しやすくなる場面があった。

次に、インタビューに関わる全員(インタビュアーとインタビュイー)が、加藤研という同じ集団に所属していることにポイントがある。「加藤研らしさ」について語り合うことを出発にしているが、ふたりでそれを膨らませていくようだった。インタビュアーである私自身が思う「加藤研らしさ」は、インタビュイーの木村や日下には共感されないこともある。逆も然り、木村や日下にとっての「加藤研らしさ」は、私にとっての驚きになることもあった。まさに私たちの関係性のなかで話題が選ばれ、互いのリアクションが取られる。つまり、私自身が3年間所属してきた加藤研に対してどのように向き合ってきたかを問うことになっていた。また私が加藤研に長く居続けたことで、忘れてしまった感覚を取り戻していくプロセスでもあった。このような、鏡的自己理解の側面も含まれている。

相手の“コア”に近づく?
さらに、もうひとつの気づきがある。とある集団に所属しているからといって、必ずしも人はそこでの「ふさわしさ」を全て受け入れているわけではない。難しさとなったり、好きにつながったり、思わぬ気づきとなったり、人はさまざまな反応をしていくことになる。けれども、そのように反応していくなかで、その人のポリシーのような、確信をもって言えるものが何かあるのかもしれない感触を得た。こうして、とある集団への向き合い方を通して、その人の“コア”となる行動原理を私の見方で描き出してみたいと期待を抱くようになった。

もういちど、ふりかえる
インタビューを書き起こした原稿とともに、もういちど、協力してくれた木村と日下に2回目のインタビューをお願いした。1回目のインタビューをふりかえる名の下、その人の“コア”となる行動原理を探る目的で、ふたりに語り直してもらった。2回目の前には、ある程度1回目の原稿をふりかえっておくことで、私のなかで気になるポイントを立てておく。相手に原稿を見てもらいながら、私が話のきっかけを与える。スキップされる部分もあれば、ふたりで話が盛り上がる場面もあった。

これから
私は卒業プロジェクトの提出を延長しているため、今後も加藤研に所属する履修者にインタビューを続けていく。インタビューを通してわかったことは、ふたりの加藤研への向き合い方だった。同時に、私自身が鏡的に自己理解していくことだった。このふたつのポイントを踏まえ、私がふたりについて語る形で、文章を書いている。ふたりの加藤研での向き合い方を、私の視点で描くことで、「加藤研らしさ」とその人を動かす行動原理に近づきたい。

--

--