「フェルメールライン」について

間接光の露出

写真家・渡部さとる氏主宰のワークショップ2Bでは、露出決定における3つの方法論が登場する。

1つは「感度分の16」で、晴天時の日向を絞り = 16・シャッター速度 = ISO の逆数で撮るというもの。(ただしフィルムカメラに 1/400 はまず無いので、やや遅い 1/250 で良い。また、古いカメラの高速シャッターは信頼性が低いので、あえて 1/500 を使う考え方もある。)

1つは「第一日陰」で、日向側の日陰(直射日光を遮る形で生まれる日陰)を絞り = 5.6・シャッター速度 = ISO の逆数で撮るというもの。

そして今回紹介する最後の方法が「フェルメールライン」である。

フェルメールライン:間接光が作る光の境目とグラデーション

「フェルメールライン」は、オランダの画家であるヨハネス・フェルメールに由来し、直射日光の当たらない間接光によって作られる日陰を指す。フェルメールの絵は窓のある室内を描いたものが多く、それを写真で再現するには以下の条件で良いことから名付けられたようだ。

  1. 10時〜15時の北側の窓辺天井と三方が閉ざされて一方向から光が入ってくるような場所(例えば駐車場の入り口より少し奥)
  2. 絞り = 5.6
  3. シャッター速度 = 1/60 (ISO400 の場合)

例えば『真珠の耳飾りの少女』も光の条件は同じで、「フェルメールライン」はポートレートにも向いている。(後述する)豊かなグラデーションは、顔に強い明暗差を作らず、白飛びや黒つぶれの無い写真に仕上げてくれる。

日当たりの悪さと豊富なグラデーションを活かす

なぜ北側の窓辺かというと、良い意味で “日当たりが悪い” からだ。東西側は時間帯によって日当たりの差が大きく、南側は直射日光が入りこみやすい。北以外の方角は天候の良し悪しで露出が変わりやすい。その点、北側は光が安定しており、時間帯・天候の影響を受けにくい。

また、「フェルメールライン」の特徴の一つが光の境目とグラデーションだ。豊かな光の階調はまさにモノクロ向きと言える。次の写真は、右から左にかけて光のグラデーションが生まれており、途中にある光の境目からグッと光量が落ち込む様子を確認できる。

ISO400, F5.6, S1/60. 右から左にかけての光のグラデーションと、パイプのあたりで「光の境目」になっている(と思う)

一方、次の写真は直射が入っているため、「第一日陰」らしい明暗差のハッキリした日陰が生まれている。「感度分の16」や「第一日陰」は強い陰影が生まれやすく、光のグラデーションはほとんど無い。

ISO400, F5.6, S1/60. 午前中の東側で撮影したので、グラデーションもあるが明暗差の強い日陰になっている

鉛色の雨天もフェルメールライン?

ワークショップ2Bの野外撮影では一度も雨に遭遇しなかったので、空が鉛色になるほどの雨天や曇天での露出はあまり教わらなかった。

しかし先日、傘が要る雨降りの日に、空を眺めながら「ひょっとしてこの明るさはフェルメールラインなんじゃないか」と思うことがあった。そう思ってデジカメで撮ってみたのが次の一枚だ。

ISO400, シャッター速度 1/60, 絞り 5.6

この時はフィルムカメラを持っていなかったのでデジカメでの撮影だったが、それなりにモノクロの階調が出てくれた。

ちなみに「第一日陰」の露出で撮るとまっくらだった。

ISO400, シャッター速度 1/250, 絞り 5.6

鉛色の空も「フェルメールライン」で撮れることが分かったので、今後はもっと色々なシチュエーションでの撮影を楽しみたいなと思った。

「フェルメールライン」はいつ生まれた?

ところで、「フェルメールライン」の概念自体は古くから使われていたようだが、言葉として登場したのはどうやら最近のようだ。というのも、『CAMERA magazine 2014年2月号』の本人のコラム中ではまだ「窓辺」というシチュエーションでしか紹介されていなかった。

加えて、『CAMERA magazine 2014年2月号』から約2年半後の渡部さんのブログに印象的な記事が投稿される。

どうやらこの辺り?で生まれた言葉のように思えた。


もう1つの露出:マジックアワー

最初に3つの方法論といったが、厳密にはもう1つ存在する。(野外撮影による実践で習うのが3つだった。)

4つ目の露出は「マジックアワー」と呼ばれるもので、聞いた人もいるかもしれない。この言葉は写真用語として Wikipedia にも記載がある(英語版は「ゴールデンアワー」だが、どちらも同じ概念を指す)。

この時間帯の露出は絞り = 2.8・シャッター速度 = 1/30 で良い。また、この時間帯に関係なく、夕方の食卓の明るさにもこの露出は有効らしい。

手ぶれが心配になるだろうが、デジタルなら1〜2段の手ぶれ補正機構が備わっていれば十分に思える(焦点距離が 40〜60mm あたりの場合)。