ウェブライターの本音(1)

海外ライターの頭痛の種「源泉徴収」

Publisher TY
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Jan 16, 2021

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ある日、だれもが知っている大手メディアの担当者の方からスカウトの依頼が入りました。

「初めてご連絡させていただきます。〇〇のNと申します。
弊社メディアにおきまして、今後アフィリエイトに注力する方針にあり、
記事を執筆いただけるライターさんを募集しております。

内容
・二十~四十代女性向け美容やライフスタイルに関する記事作成
・こちらから提示する構成にしたがっての執筆
・必要に応じて、自己撮影した写真を提供いただける方
・文字単価 二円~(スキルに応じて昇給有)

お仕事の流れ
・テストライティングとして一本記事を執筆いただき、問題がなければ本契約」

このような内容でした。文字単価二円ですから、悪くありません。最近、このような大手メディアがアフィリエイト記事に力を入れるケースが増えているようで、優秀なライターの囲い込みに忙しいのでしょう。メッセージに付随して、参考の記事URLが添付されていました。見ると、美容アイテムのレビュー記事でした。

ただ、私の場合、クライアントとして大手企業との取引は避けるようにしています。その理由は次の返信メッセージにあります。

「N様

はじめまして。
ご相談ありがとうございます。

ぜひとも、サンプル記事作成に参加させていただきたいと思いますが、
確認させていただきたい点があります。

私は海外在住でして、クライアント様の方での源泉徴収はなしでお願いしております。これに関して問題がなければ、テストライティングの内容をご指示ください。」

そうなのです。源泉徴収がネックになっているのです。

私がウェブライターを始めたばかりの頃はそうでもなかったのですが、ここ数年、規模の小さなクライアントであっても、法人である場合「源泉徴収します」というところがほとんどになってきています。源泉徴収は簡単にいうと、所得税を前もって納めることです。私は日本に住んでおらず、海外で納税しています。そのため、日本国に所得税として源泉徴収されるのは非常に理不尽なものを感じます。もちろん、手続きすれば源泉徴収した後でも納税義務がない部分は返してもらえるのでしょうが、日本の税務局のこと、そういった処理が海外からオンラインでできるのかどうかもあやしく(調べてもいません)、最初から源泉徴収が必須のクライアントのお仕事はお断りするようにしています。

だから、今回の案件も向こうから断ってくるだろうな、と思っていたのです。ところが、

「お世話になっております。〇〇のNです」

あら、返事が来た!

「海外にお住まいであっても源泉税の徴収が必要で、海外の場合は20.42%となっています。ただし、お住まいの国によって、租税条約が締結されている場合には、租税条約に関する届出書を提出していただくことで、租税条約に基づく源泉税の徴となり、ゼロ%の国もあれば、5%となる国もあります」

と、ていねいに教えてくれたのです。きちんと調べてくださったのですね。と、いったんは感心しましたが、

「なお、管轄の税務署の関係上、書類は押印された原本が必要となります」

―――きましたね。日本の「押印文化」。海外在住者の源泉徴収について調べていただいたのはありがたいのですが、ハンコ持ってないんですよね。海外では必要ないので…。

「N様

お世話になります。

源泉徴収について調べていただき、ありがとうございます。
私が住んでいるのはカナダで、こちらで所得税を納めています。

カナダ居住の場合、書類が提出できれば、日本での源泉徴収は免除になるということでしょうか。
ただ、押印が必要とありましたが、ハンコを持っていません。
こちらでハンコを作るのも、かなり難しいと思われます…」

と返信。すると、

「お世話になります。Nです。

お待たせしております。現在、経理に確認中です。もう少しお時間かかりそうです。
お時間をいただき恐縮ですが、よろしくお願いします」

とお返事がきました。さすが大企業だけあって、対応が非常にていねいです。しかし、私って、まだテストライティングもやっていないんですよね。どれだけライティングスキルがあるかもわからないライターを相手に、時間をかけさせるのも悪いかなと思って、こんなメッセージを送ってみました。

「N様

お世話になります。
ご連絡ありがとうございます。

テストライティングもまだ済まないうちから、お手数をおかけして申し訳ありません。

ふと思いついたのですが、税務署に提出する書類に関して、もし代理人の記入が可能であるなら、日本の実家の家族に記入してもらって押印してもらうという方法はどうでしょうか…」

と、このあと、うちの実家や家族の話、ハンコはシャチハタでもいいか、なんて話になります。そして、

「いずれにしても、ご手数をおかけします。
なにとぞよろしくお願いします。」

と締めくくってメッセージを送信しました。相手もようやく、テストライティングも終わっていないのに、時間を費やすほどのことなのかという点に気づいたらしく、この次のメッセージでは、過去記事を送れという要望が書かれていました。

それで、昔書いた記事を送ったのですが、

「ありがとうございます! 審査しますのでお待ちください。

ちなみに、海外だと実際に商品をお届けすることができないと思いますが、執筆はネットを見ながら書くという形になりますでしょうか?」

ああ、やっぱりな、という感じです。アフィリエイト記事といっても色々なスタイルがありますが、相手は多分レビュー記事を書いてもらいたいのですね。日本国内であれば、レビュー用の商品を送付して記事を書いてもらうという流れになるのでしょうけど、海外なので、海外配送には多額のコストがかかってしまいます。

「海外在住のため、レビュー用サンプル商品の受け取りはできないと思います。ネット上の情報を収集して記事を書くことは可能です」というような内容を返信しました。すると、

「先日お送りいただいた記事を確認しました。記事の内容的には問題がないのですが、直近商材コンテンツを中心に記事作成を依頼したいため、企画記事の本数が増えたらまたご連絡させていただきたいと思います」

というお返事でした。そうなるのではないか、と薄々気づき始めていたものの、フーっとため息をつきたい気分になりました。

これって、会社にお勤めされている方とフリーランス(私みたいな人)とのやりとりではよくあることなのですよね。海外在住といっているんだから、最初からレビュー記事は無理でしょ、とわかっているのに、源泉徴収がなんだとかいろいろ「寄り道」があった挙句にお断りメッセージです。

メッセージやり取りに費やした私の時間は無駄になったというわけです。

Nさんのように会社勤めしている人は、会社で仕事をしている限り月給が支払われるわけですから、どんなメッセージを何度やり取りしようとも、作業効率性は変わっても給料は減りません。でも、こっちはフリーランスなので、仕事をしてそれを納品しなくては食べて行けないのです。

これはウェブライターに限ったことではないと思います。フリーランスで活動している人はみんなそうで、無駄な打ち合わせとかやり取りはできるだけ省きたい、でも相手が会社人間だとそこをうまく理解してもらえないことも多いと思うのです。

それにしても、本当にイラっと来るのが源泉徴収ですね。ネットで副業や仕事を請け負う人が増えて、政府としても所得税の取りこぼしを防ぎたいという意図があるのかもしれません。

「規則だから仕方ない」といわれればそれまでですが、そのために無駄なやり取りが増えて機会損失になるのは、正直言って、迷惑だというしかありません。文句を言ってもどうしようもないんだけど…。

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電子書籍出版。Mediumで書籍の先行公開中。