ブラジルのカーニバルで原爆ドームがモチーフにされた理由は?

Limi iliuda
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7 min readFeb 25, 2020

数日前に行われたサンパウロのカーニバルで、 原爆ドームがテーマになっているとTwitter上で若干炎上していたため、ブラジル人に代わり今回の 原爆ドームがなぜカーニバルで取り上げられたのか、その理由についてこの記事では解説 をしたいと思います。

カーニバルで「原爆」をモチーフにするのって酷くない?

ブラジル、サンパウロのカーニバルという、どの角度から考えても「お祭り」で、「原爆」をモチーフにされると日本人としては怒りを通り越してショックを受けると思います。

それは日本人であれば当たり前ですし、実際、日本にいる日本人の感情はそうなると思うんですよね。

私は広島・長崎の出身ではないけど、日本人にとって本当に辛く・重いテーマですから。

「お祭り」に「戦争」の惨事をわざわざテーマとして選び、大騒ぎするなんて不謹慎にもほどがあるだろ、と。

ただ、ここからはブラジル人を代弁させて頂こうと思うのですが…

ブラジルのカーニバルは、そもそも「騒ぐためのもの」ではなく、一緒に踊るチームで一つのテーマを決め「芸術作品」として表現する場所 です。

日本ではあまり知られていないかもしれませんが、あのカーニバルにはたくさんのチームが参加していて、 毎年各地で「優勝」が決まるんですよね。

パレードの作品テーマには「社会的メッセージ」が組み込まれることが多く、今までも人権問題・フェミニズム・森林破壊や奴隷の歴史など、たくさんの重いテーマが扱われていました。

今回日本人の間で話題になっている「原爆のモチーフ」も、当然、日本人をバカにするためのものではなく、きちんとしたテーマを設けられています。

原爆モチーフを掲げたカーニバルチームの「テーマ」とは?

今回原爆モチーフを選んだ、サンパウロのチームである「ゴールデンイーグル」のテーマは…

知識(文明)の良い点と悪い点

これがこのパレードの作品の大きなテーマです。

石器時代から車輪の発明に始まり、飛行機、ロボットなど、パレードの前半では、人間の「知識」の進化を表現しています。

しかし、やがてその進化は「核兵器」「原子爆弾」まで到達。

そして後半の 最大の見せ場で、「知識」の最大の「負債」の象徴として、被害を受けた「原爆ドーム」に繋がっていく のです。

ちなみに、原爆ドームの前で踊っている一人の老人?コスチュームの男性は、知の象徴である「アインシュタイン」です。

彼と原爆ドームをコントラストにすることで、観客が「知識」の良い点と悪い点をハッキリと認識できるよう工夫されています。

以下はブラジルで一番大きな報道ステーションである「GLOBO」で掲載された記事ですが、こちらにもその詳細が書かれています。

Águia de Ouro mostra lado bom e ruim da sabedoria, da invenção da roda à bomba atômica

ポルトガル語なのでちょっと分かりにくいと思いますが、Google翻訳すれば大体の流れは分かるかなと!

あと、動画ではパレードの様子が見られますが、「原爆の悲惨な状況をダンスで楽しんでいる様子」ではなく、苦しみや悲しみとして表現されています。

インパクトは強いので閲覧注意で!

カーニバルで原爆モチーフを選んだチームって?

ちなみに今回、原爆のモチーフをカーニバルの中に選定したのは、サンパウロの「ゴールデンイーグル」というチームです。

友人にも結構聞かれたりするのですが、ブラジルのカーニバルはリオデジャネイロだけではなく国中で行われます。

今回の原爆ドームのチームは、前述の通り、リオではなくサンパウロのチーム。

タイムリーな追記になりますが、先ほど、こちらのチームの優勝が決まりました。

現地の日本人は原爆モチーフについては何も思わないと思う。

Twitterでは日本に対する侮辱!みたいな感じでバズってしまっていましたが、真相としてはその意図に大きな誤解があります。

確かに絵が絵なので、衝撃的であることは間違いないんですけどね…爆

ブラジルの国民性をある程度知っている現地在住の日本人であれば、この衝撃的なモチーフを掲げられた瞬間、「あ、今年はアンチ戦争のテーマかな…?」と瞬間的に想像付くのかな~と。

でも、普通に考えてブラジルのことを知らない日本人の方が圧倒的に多いわけですから、まぁ炎上してしまうのは仕方ないですよね。

あまりにもデリケートなテーマですし、わざわざ外国が表現すること!?ってなる日本人の方は当然いらっしゃるだろう思います。

ただ今回のブラジル側の主張をまとめると、「文明の進化の良い点と悪い点」というテーマに沿い、 行き過ぎた知識や文明の進歩はやがて兵器に変わって被害をもたらす、決して「良い面」だけではないんですよ、という、文明の進化の「負」の象徴として、原爆のモチーフが使われた ということ。

この炎上では、そもそも「カーニバルで表現される作品」は、お祭り・バカ騒ぎして楽しむものではない、という日本人の知らない事実も表に上がって来たのではないかなと思います。

日本人・ブラジル人の中でも賛否がはっきりと分かれる

ということで、ブラジル人に代わって今回のネガティブな面でのカーニバル騒動の代弁をしてみたのですが…

今回のテーマに関して日本国内では、この作品の制作者の意図を分かっていたとしても「不快だ」と言う人と、わざわざ日本の重いテーマを選び発信してくれてありがとう、という意見にハッキリと分かれています。

また、ブラジル国内でも「このテーマは我々が扱ってよいテーマではない」「日本人にあまりにも配慮がない」と言う人と、「風化させてはいけない事実であり、日本の問題だけではなく"世界の原爆"として扱うべきで、若い世代にも発信していくべきだ」というブラジル人に分かれています。

私個人的な意見では、 日本人として今回の「原爆ドーム」というモチーフを選んでもらえたことは、喜ばしい事だったと思います。

実際、話すこと・話題にすることをタブー化させ続けていると、事実も風化されてしまうという面も少なからずあるのかなと。

あくまでもこれは私個人の意見ですが、広島、長崎で二度も原爆の被害を受け、苦しみながらも逞しく生き抜き、そして世界に向けて原爆の悲惨さを発信し続けた「山口彊」さんのような方の行動・姿勢に敬意を示したい。(現在Netflix「Twice(二重被爆)」で視聴できます)

今回のブラジルのカーニバルで「原爆ドーム」がモチーフにされたことも、ここに重なるのかなと。

言い換えるとつまり、日本以外にも「原爆」は絶対に繰り返されてはいけないと発信してくれる国が世界にあるということの証明ですから。

ただ、それが頭でわかっていても、実際に広島・長崎で現在進行形で苦しんでいる方々もいるわけで。

感情が追い付かない方が大勢いるのもまた当然。

本当に難しい問題だなとしみじみと考えさせられましたが、このように人々に影響を与え、議論を生み、考えさせ、忘れさせないようにする、という意味で「有意義」と判断されたからこそ、このゴールデンイーグルが優勝、という結果に終わったのではないでしょうか。

そんなことをブラジルにいながら感じました。

Originally published at https://life.japoleira.com on February 25, 2020.

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Limi iliuda
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