池の金魚がはねた日
___思い出したんだけどさ。
と、リサが病院のベッドの上で言った。
あまりにも小さな声だったので、きちんと聞きとれずに
「なんか言った?」
と、聞き返してしまった。
力なく重力に身体を任せっぱなしにしている青白い顔の友達は、けっこう重たい病気を患い入院生活も1か月を超えていた。
「昔さ、クリ坊と遊園地に行ったの覚えてる?」
と、唐突な質問に記憶を掘り返す。
「クリ坊。。。ああ、行ったねぇ。場末感半端ない古いトコ。」
「クリ坊って、名前知ってる?」
「知らない。」
「知らないんだ。」
「知らないよ。」
窓から黄色くなってきた陽の光が部屋に差し込み始めた。
クリ坊は、私たちがよく行ってたバーでバイトしてた男の子だ。
なぜ、「クリ坊」だったのかは、全く思い出せない。
色の白いきれいな顔立ちのちょっと変わった男の子だった。
脂ぎったバーじゃないから、店の面々もお客の面々もさらっとしていた。
床を叩き壊して、その穴から階下と錆びた鉄の螺旋階段でつないだ2フロア仕立てになっている暗い店内は、テーブルの間隔も程よく干渉しない程度に離れてて、テーブル毎にランブルフィッシュがガラスの器に入れて置いてあった。
本すら読めそうな居心地の良い場所だった。
「その遊園地でさぁ、あんた何時間もクリ坊と金魚の釣り堀に座り込んでさぁ」
「ああ、金魚の壺釣りね。あのシステムは、画期的だったねぇ。釣竿から吊るした壺の内側に練った餌をくっつけてそれを食べにくる金魚が壺の中に入るまで待つとかさぁ誰が考えたんだろう。でもまぁ確かにあれだったら金魚に傷もストレスもかからないもんねぇ。ざざーって壺釣り上げてさ。」
と応えると、リサは呆れた顔をして
「ものすごく、あんたたち浮きまくってたけどね。」
と言って、