極地の氷が溶ける時。
2019年に開催された国連気候行動サミット。スウェーデン出身の当時弱冠16歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんは、地球温暖化対策を軽視する各国のトップ達を激しく糾弾する、鮮烈な演説を行いました。
この演説の前から、グレタさんは彼女の活動にシンパシーを感じた若者達とともに、温暖化対策を取らない大人へ抗議するため、学校を休んでスウェーデン議会の前に座り込む「学校ストライキ」を始めました。
賛同者は世界中でどんどん増え、国連気候行動サミット直前に世界各地で開かれた「グローバル気候マーチ」には何百万人もの人たちが参加して、温暖化の取り組みの遅れに抗議しました。
「多くの人たちが苦しんでいます。多くの人たちが死んでいます。全ての生態系が破壊されています。私たちは大量絶滅の始まりにいます。それなのにあなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないんでしょうか!」
経済成長にばかり目が行き、未来を生きる我々が暮らす地球の環境問題が蔑ろにされている。あなたたちは恥ずかしくないのか、と彼女は言うのです。
過去、多国間で二酸化炭素排出削減を目指すパリ協定が採択されたものの、目標とする数値には到底及んでいない状況。そんな中、彼女が涙ながらに訴えた言葉は、多くの人々の注目と関心を集める事となったのは、私たちの記憶にも新しいですね。
温暖化による影響は様々で、永久に溶けることなど無いと信じられている北極や南極の氷も少しずつ溶け出し、海面上昇の原因となっているとも言われていて、間違いなく私達の暮らすこの星を蝕み始めています。
しかし一方で、私達人間が技術進歩によって排出しているものよりも、遥かに大量の二酸化炭素が、自然界によって生み出されている事はあまり知られていません。
現状、皮肉な事に、貧困問題や国家間問題を解決する糸口こそが、彼女が非難する経済発展にあるのです。
さらには、グレタさんをバックアップする大人達の存在。
スポンサーとも言える彼らが、環境ビジネスという名の次世代の利権を手に入れるために、自分を積極的に支援しているという矛盾を、彼女は知っているのでしょうか。
ある者は彼女を一笑に付し、ある者は彼女を英雄視します。
学校へ行かずに活動する彼女を、大人達に踊らされた可哀想な少女と呼ぶ人。
彼女こそが次の時代のリーダーであると、声高に賛同する人。
グレタさんを巡る思惑の表と裏を知ったうえで、あなたはどう考えるでしょうか。
私は、本当の事実を知り得ないまま、表面的な数値や状況を盾に各国トップを非難する彼女に、大手を振って賛成する気にはなれません。
しかし同時に、彼女の行動を軽んじて見下すような気持ちも全くありません。
少なくとも彼女の起こした動きは大きなうねりとなり、国際的にその影響力を持つまでに至りました。
未来を漠然と不安視する若者達を間違いなく力強く突き動かし、希望のシンボルにまでなった大きな大きなきっかけです。
それは、彼女を操る大人達の手からではなく、グレタさんが自分自身で考え、勇気を持って行動したことから生まれた、多くの若者達の意志、まさしく、世界を変え得る可能性と言えるまでのものになったのです。
真剣に未来を考え、勇敢に決意し、足掻こうとするその姿を、正しいか間違っているかの二元論だけで語るのはあまりに安直なのでは無いでしょうか。
グレタさんの行動に呼応した若者達の、次世代を生きる自分達のための前進。
そのこと自体に、私は大いなる希望を感じました。
それは、ただ現状を憂いて皮肉り、行動しないことよりも、よっぽど何かを変えるエネルギー……現代を生きる私達に必要な、挑戦する心と実行する精神なのではないか、と感じます。
極地の氷が溶ける時。
未来に希望を見出そうとする彼女の陰に見え隠れする矛盾と希望を感じながらも、私も次世代の為に、何か意義のあるものを残して行けるよう、まずは目先の1日1日を、大切に過ごしていければと考える、今日この頃なのでした。