ロックダウンを解除し経済を再開するべき — ペンシルベニア州の医者の見解

Kan Nishida
未来の仕事
Published in
8 min readMay 13, 2020

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アメリカのペンシルベニア州のピッツバーグという市があってそこにある8万7千人のスタッフを構え、40の病院を持つ大手のUniversity of Pittsburgh Medical Centerという医療センターがあります。そこのチーフ・メディカル・サイエンス・オフィサーであるスティーブ・シャピロという医師の方が、現在のロックダウンを注意しながらではあるが早急に解除し、経済を開放するべきだという話をしていました。

現在のように情報が錯綜し、恐怖を煽り続けるメディアにはなかなか取り上げられることがないのですが、重要な見解だと思いますので、こちらに一部を翻訳して紹介します。

以下、要約。

私達は緊急でない手術を70%減らし、遠隔治療の数を38倍にし、4月だけで25万人に対応しました。

実際絶えず多くの患者が病院に来ましたが、急増するということはありませんでした。ピークである4月中旬には、COVID-19の患者は私達の持つ5500の入院患者用のベッドの2%、750ある人工呼吸器のうち48個しか使うことはありませんでした。それ以来入院患者の数は減少しつづけ今では私達の地域からは数人ほどで、ほぼ全ての人たちは老人養護施設からです。ちなみに、私達が運営している36の老人向けの施設では一人も感染者が出ていません。

私達の現状はペンシルベニア州の状況と同じです。ペンシルベニア州ではCOVID-19による死亡者数の中央値は84歳です。何人かは若い人も亡くなっていますが、彼らはみんなすでに何らかの持病を持っていた人たちです。

子供で感染した人たちはほぼいなく、死亡者数はゼロです。全国的には状況は違うようですが、私達の地域ではマイノリティの人もそうでない人も、感染者、死亡者数という点では違いはありません。まとめると、これは高齢者、病気の人、貧しい人たちにとっての病気と言えるようです。

事態は急激に進展していますが、私達の知識にはまだ多くの隙間があります。例えば、なぜ何の症状も出さない多くの感染者たちがいる一方で、同じような条件の人たちでも重症になってしまう場合があるのかがわかっていません。

密集した室内という状況は老人養護施設の場合は惨事となりえます。しかし原子力空母セオドア・ルーズベルトの場合は1,102人の船乗りが感染したにも関わらず、たったの7人が入院し、さらに1人が死んだだけです。

感染症の予測モデルはどれもひどい結果を出し、重要な変数を見逃している場合がよくありました。季節性というものがほとんど考慮されることがありませんでしたが、私達はコロナ・ウイルスが季節性を持つものだということを知っています。希望は計画ではないということはわかっていますが、USではこのCOVID-19のウイルスは現在あまり健康でないと言えるでしょう。

人口密度が高く、旅行者が多く、人の往来が活発だということで多くの感染者数を出したニューヨークや他の一部の都市は、検査、接触トレース、治療などの体制を作りながら、徐々に封鎖を解除していくべきでしょう。

しかし、それ以外の場所では、特に老人養護施設にいるようなか弱い高齢者の人たちを守ることを優先した上で、人々は安全面に用心しながらも封鎖を解除していくべきです。こうすることで感染者数の数を低いままに保つことができ、またもし感染者が増加するようなことがあったとしても効果的な対処能力の準備をするための時間を稼ぐことができます。

私達がするべきでないことがあります。それは現在行っている社会的隔離をこれ以上延長することです。人間は社会的な生き物です。私達はすでに、孤独によるメンタルヘルス(精神的健康)に対してのネガティブな影響を目にしています。そして、これから起こるであろう経済の崩壊はもっと大きな影響を人間に与えることになるでしょう。

一つ確かなことがあります。それはパンデミックは私達の将来の一部だということです。そして私達はそうした将来に向けてしっかりと準備をしておく必要があるのです。私達は病原菌による死か、それとも経済による死かといったどちらかを選ばなくては行けないような状況に、追い込まれることを避けなくてはいけません。

今回の件においては、短期間で私達が解決することができない問題とはウイルスの完全な除去です。逆に私達が解決することができる問題とは高齢者、特に老人養護施設にいる人たちを守ることです。

もしこれができるのであれば私達はまた社会を開くことができ、そして治療法とワクチンの開発のための時間を獲得することができます。感染者数はまた上昇するかもしれませんが、セオドア・ルーズベルト船の例のように、死亡率が上昇しないということもありえるのです。

以上、要約終わり。

今回のコロナウイルスのパンデミックに関してはとにかく情報が錯綜しています。残念ながら欧米でも日本でもメディアによる恐怖を煽るための情報の拡散の猛威のほうがひどいと言った状況です。

さらに状況を悪くしているのは、感染症、疫学の専門家達が次から次へとひどい予測モデルを発表し、その限界を無視するメディアが自分たちのストーリーにとって都合のいいように解釈して恐怖を拡散する、といった事態です。

そしてそれによる世論による圧力を受けた政治家が、その場限りの政策を打ってしまう。そしてこういった政策を、サイエンスに基づいた政策だと公言してはばからない政治家がいるのが問題です。カリフォルニア州の知事はその最たる例です。

今回分かったのは、研究室にいる感染症の専門家が作り出す予測モデルは、特に感染拡大の初期には全く役に立たないということです。なぜなら予測モデルを作るための十分なデータがないことが多いからです。

逆に毎日現場という「データ」を見ている現場の医師たちによる、冷静な現状分析の方がはるかに、政策者にとって有用であるばかりか、一般市民への注意深くかつ冷静な行動を促すという意味でも重要な情報元であったように思います。

ここで忘れがちなのですが、現場で働いている医者の多くは、サイエンスのバックグラウンドがある人たちで、統計的思考ができる人たちでもあります。

彼らが大学にいる専門家、研究者と違うのは、理論だけでなく現状を観察した上で素早く対策を変えていかなくてはいけない現場にいる人間だということです。つまり現実主義者でもあるということです。

これは、私達データサイエンス、データ分析の世界にいる人間は深く肝に命じておくべきことなのではないかと思います。

最後に、誤解のないように言っておくと、感染症の専門家がみんなひどいと言っているわけではありません。感染症の専門家たちも、予測結果や対策に関しては様々な意見があり、今回のイギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンの予測モデルに対して批判、注意を促してきた専門家の人たちもたくさんいるのも事実です。

今回は、一部のあまりにもお粗末な専門家たちによって、業界全体に対する一般市民からの信頼を壊してしまったことが、あまりにも残念で仕方ありません。というのも、私達はコロナウイルスやその他のウイルスによるパンデミックはこれからも私達の社会の一部であろうからで、そういう世界を生き抜いていくには、感染症の専門家の力が必要なはずだからです。

長くなりましたが、恐怖感によって判断能力を鈍らせてしまうのではなく、専門家を神のように頼りにするのでもなく、最終的には私達の生きている現実の世界のありのままを理解することを目的に、様々な視点から考えていくことが重要な時ではないかなと思います。

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