なぜ今、門外漢の私が地域医療連携の問題を解決しなければならないのか?

Keisuke Oshima
株式会社Appdate
7 min readMar 26, 2018

株式会社Appdateの代表の大嶋(@keioshima)です。

弊社は、医療機関向けのSaaS「メドプラス」というソリューションを展開しています。このサービスは主に病院が患者をかかりつけ医に紹介する際に使われるためのものです。

私は商社、コンサル、ITベンチャーを経て地域医療連携の課題を解決するために起業に至りました。いわば医療業界の門外漢である私がなぜ地域医療連携という医療業界の課題の解決に取り組んでいるのか。今回はその理由を書いてみたいと思います。(この記事は、どちらかと言うと余り普段医療業界に馴染みがない方のために書かれたものです。)

大病院は患者を抱え込み過ぎてパンク状態
皆さんは大病院で長時間待たされた経験はないでしょうか。予約時間通りに行ってもやはり待たされることは多いです。そもそも大病院とは、主にかかりつけ医では対処が難しい重症患者や急性期の患者が行くべきところです。それにも関わらず、風邪などの軽症もしくは慢性期の患者が多いことが原因の一つとして挙げられます。

この背景には日本の医療制度の一つの特徴である「フリーアクセス」というものがあります。これは患者が自由に医療機関を選ぶことができる、というものです。日本人にとっては当たり前のことですが、例えば英国では、救急医療を除いて地元の家庭医からの紹介がなければ、大病院や専門の医療機関にはかかれません。「フリーアクセス」は高度な医療機関に迅速にアクセスできるというメリットがある一方、受け入れ側の病院では軽症患者が溢れかえり、結果として冒頭の待ち時間の増大などの弊害を招きやすいデメリットもあるのです。

(注釈)
急性期:至急の対応をしないと命の危険がある状態
慢性期:急性期を脱したが定期的な投薬などの必要な状態

病院勤務医も疲弊している
更に、そんな多くの患者を診察し続けないといけない病院勤務医は当然疲弊しています。医師は応召義務といって「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」のです。

慢性期の患者は診れば診る程、病院にとって赤字
実は、病院にとって慢性期の患者は診察すればする程赤字になるケースがあることをご存知でしょうか。特に都心部の大病院となれば、高度な医療機器の固定費が高いだけでなく土地代なども高い訳であり、それらの高いコストを賄う程の診療報酬が慢性期の患者からは取れないのです。

なお、診療報酬とは医師の診療行為の対価として病院が受け取る報酬のことであり、これは医師の能力には関係なく全国一律で決まっています。そして、基本的には急性期から慢性期に移行するにつれ、診療報酬は下がっていく仕組みになっており、病院の高いコストを診療報酬が下回ってしまうことがあるのです。病院が赤字続きですと、最悪は閉院となり患者は別の医療機関を探さなければなくなるのです。

地域医療連携=医療の全体最適化の話
これらの問題を解決する一つの方法が地域医療連携です。
既に何度か地域医療連携という言葉が出てきていますが、地域医療連携とは医療のあり方を病院単位で考えるのではなく地域全体で考えることであり、言い換えれば、個別最適化から全体最適化へと転換することを意味しています。

高度経済成長期のようなかつての日本においては、若者が多く、疾病と言えば救命などの急性期の患者が中心でした。そのため、一つの病院が患者の疾病の完治まで治療に携わる「病院完結型」の医療が基本でした。つまり、医療機関同士が十分な連携を取る必要がなかった個別最適の時代でした。

ところが、日本の人口構造が変化し高齢化社会に突入すると、生活習慣病に代表されるような慢性期疾患が中心になってきます。すると、病院で完治を目ざすのではなく、自分達の住み慣れた地域で病気と共存しながらQOL(生活の質)の維持・向上を目指す医療へと変わります。即ち、大病院で高度な治療を施した後には、リハビリ病院に転院する、もしくはかかりつけ医で経過観察をするなどの術後のフォローが重要になります。これこそが地域の医療機関同士が蜜に連携を図る「地域医療連携」であり、現在は医療に全体最適が求められる時代となりました。今後は医療と介護の連携の必要性も増していきます。

厚労省は積極的に地域医療連携の促進を図っている
近年、厚労省は地域医療連携を積極的に実施している医療機関により多くのお金を出す方針を打ち出しています。詳細は割愛しますが、前述のような大病院の慢性期の外来患者をかかりつけ医に適切に戻すことを推奨しています。
もはや、地域医療連携は社会課題の一つなのです。

まだまだ地域医療連携は課題だらけ
積極的に推奨されている地域医療連携ですが、実現には大きな問題があります。それはかかりつけ医に関する情報の不足です。大病院から適切なかかりつけ医に患者を紹介するために必要なかかりつけ医の情報が質・量ともに不十分なのです。

これは、都内のとある大病院で実際にあった話です。その病院はよりスムーズに患者をかかりつけ医に紹介するために、かかりつけ医がどういう診療が出来るのかを事前調査しようとしました。ところが、この計画は中止となりました。

いくつか理由がありましたが、一つに情報の量の問題がありました。情報を収集すべきかかりつけ医の数が膨大であり、そのための病院の人員が不足していることが判明したのです。そして、このような事態はこの病院だけではなく、他の病院でも同様なことが起こっていました。

民間企業は地域医療連携の課題を解決しうる存在
上述の話からすると、地域医療連携は一つの医療機関ではどう頑張っても解決しえない問題です。では国が解決してくれるかというと、国も様々な医療機関の情報を集約し、ネット上にオープンにするなど努力をしていますが、残念ながら、サービスの利便性が悪く余り活用されていないのが実情です。

では、誰がこの問題を解決しうるのでしょうか。その答えは民間企業にあると考えています。というのも、地域医療連携の課題の多くは、突き詰めると情報共有の問題であり、そこにはITをはじめとする最新のテクノロジーが不可欠なのです。そのことに気付いた私は、いても立ってもいられず起業を決心しました。

地域医療連携にはかかりつけ医がどういう治療や手術ができるか、などの情報が必要です。しかしながら、それらの情報は、実は様々な場所に点在しています。もし、それらの情報を一箇所に集めて横断的に簡易に検索するシステムがあれば便利ではないでしょうか。それを形にしたものが「メドプラス」です。

医療業界からは門外漢の人間が違う観点から見るからこそ、このような医療業界の改善点を見つけやすいと考えています。そして、地域医療連携が促進されれば、患者が最適な医療機関にかかる機会が増え、結果的に医療の質が向上し、人の命を救うことに繋がると確信しています。だからこそ、私はこの領域に人生を懸けてでもチャレンジすべきであると考えているのです。

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Keisuke Oshima
株式会社Appdate

医療×IT領域スタートアップ(株)Appdate社長。テクノロジーを活用して循環型の地域医療連携の実現を目指しております。