夏の想い出

♪夏の思い出 手をつないで 歩いた海岸線♪
♪車へ乗り込んで 向かったあの夏の日♪
♪なんて思い出して 感じるこの季節が♪
♪来るたび思い出してる 思い出せる♪

ケツメイシの♪夏の思い出♪のように、ボクには香しい夏の思い出がない。

というのも、海無し県で生まれ育ち、中学はなにを思ったか進学校の川の向こうの隣町まで通っていたため、好きな娘はさらに向こうの向こうの隣町。学校以外に気軽に会える距離にはいない。

高校はこれまたなにを思ったが男子校で汗と埃とイカ臭に塗れた三年間だったため、大事な大事な性に目覚めた思春期であったにも関わらず、ただの耳年増の青二才で卒業してしまったからである。

そんなボクにとって、夏の思い出といえばなぜか『サイクロプス』なのである。

サイクロプス

シンドバッド7回目の冒険』にでてきたあの一つ目一角の怪物である。

でも正しくは神様でもあったらしい。

しかし、夏の日にシンドバッドと一緒に冒険を重ね、ともにサイクロプスを倒したわけでも何でも無い。

ボクが生まれ育った街は田舎であるため、夏休みになると近所に日頃は目にしない季節限定のお友達が現れる。

夏休みに田舎のお婆ちゃんお爺ちゃんのところに帰省に来るわけだ。そして近所の非日常にハァ〜ハァ〜するボクのようなクソガキは、喜んで一緒に遊ぶのである。

小学校の低学年の頃から4年生か5年生くらいまで、その子は毎年ボクの暮らす田舎にやってきた。夏休み限定のお友達である。

今の時間の流れと、当時の時間の流れはかなり感覚的な速度が異なるんで、当時は長いことその子と遊んでいたような気がするが、おそらく毎年一週間ていどのものだったのだろう。

ボクの家の前は公園になっており、そこで昭和の子供がするような遊びは一通りこなすのである。中でもこの時期一番ハマったのがかくれんぼ。

かくれんぼの舞台は公園の端にあった元家庭裁判所の廃墟である。人が出入りしていない建物の不気味さというモノは知ってか知らずかクソガキのボクらも認識できており、そんな怖い物見たさも手伝って、この廃墟でスリルを味わいながらのかくれんぼにハマったのだ。

そして、その近所に帰省に来ていた子と遊んでいる時期にかならず観た夢にサイクロプスが出てくるのである。シナリオはほぼ毎回一緒で、あそんでいる最中にその子が何モノかに攫われ、近所のクソガキ軍団で探し回るのだが、最終的に辿り着くのがかくれんぼの舞台であった家庭裁判所の廃墟なのである。

その子はいつも家庭裁判所の廃墟の倉庫の屋根に据え付けられた十字架に縛られている。救出しようと屋根に登ろうとすると、そこにサイクロプスが現れるのである。

なぜか、木の枝を刀替わりにしたボクらクソガキ軍団がサイクロプスに勝利してその子を救出して目が覚めるという夢なのだが、そんな夢をその子が帰省してくるたびに毎年観たのである。

不思議なことにもっとボクが成長するまで映画『シンドバッド7回目の冒険』を観たこともなく、サイクロプスなどという怪物も当時のボクは知らなかった。

でも、後に映画でみたサイクロプスの佇まいは、夢の中で毎年のように何度もクソガキ軍団が倒したサイクロプスそのものだったのである。

今思うと、毎日のように楽しく遊んでいてもまた東京に帰らなきゃならないその子と別れたくないという思いがそんな夢を観させていたのかもしれない。

そんなちょっとおセンチでトンデモ系な思い出がボクの夏の思い出なのである。

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