劇場版SAOに登場する技術の実現可能性

Sho Shimauchi
9 min readMar 12, 2017

--

劇場版ソードアート・オンラインに登場する技術・製品・サービスについての実現可能性を考えたくなったので書いてみた。

DISCLAIMER

  • この記事は真面目に考察したものではなく、単なる感想の一環として書いたもので、考察の妥当性については一切の保証はしません。
  • この記事には、劇場版SAOと小説「虹を待つ彼女」のネタバレが含まれています。ネタバレを避けたい方は読まないでください。

現実世界における共有AR空間(サーバサイド技術)

単にAR空間を共有するだけならWindows Holographicで既に実現可能

この技術についての非機能要求特性は一切調べてないので、現状の技術だけで大規模運用が可能かどうかは不明。

基礎技術は確立しているので、お金と時間さえかければある程度のレベルは実現可能と思われる。

劇中での使用例(1): ショッピングモールなどでのホログラム広告、電飾等々

現代の技術で問題なく実現可能と思う。

実際には、専用wifiに接続→ショッピングモールでの位置情報やらホロ情報をDL→映像投影、みたいな流れと思う。

ARデバイス同士の厳密な同期も必要ないので、そんなに難しいことではないはず。

劇中での使用例(2): ARでのマルチプレイゲーム

クライアントサイドアプリやオーグマーの話は後述する。

「オーディナルスケール」は、劇中で見る限りだとボス戦についてはオープンワールドではなく特定のエリアに限定したフィールドだけを展開しているので、サーバサイドの技術としては既存のネットゲームと大差ないもので実現できるのではないかと思う。

通常時はオープンワールドっぽいけどそんなに派手な戦闘はしていないっぽいし、おそらくIngress / ポケモンGoと同じようなサーバ技術でおおむね実現可能なのではないかと思われる。

課題になりそうなのは同時プレイしている人の間での同期ズレの調整くらいだろうか。

劇中での使用例(3): ARライブ

これのAR版。

サーバサイドとしては多分これが一番難しい気がする。数万ものARデバイスに、一切の音ズレなくライブ配信でARを動かし続けるというのは相当困難な技術な気がする。

「いや、もうYouTubeとかで何万接続してるじゃないか」という人もいるかもしれないが、アレは各デバイス間で微妙に映像がズレてるけどそれぞれのデバイスが独立して存在しているためユーザが気づいてないだけで実際はズレてるはず。物理的に同じ場所に存在するデバイスで完全に同期をとるというのはかなり難しいように感じる。

ライブ配信技術やネットワーク技術の深い部分は私は専門外なので、この辺詳しい人がいたら教えてください。

ARソフトウェア

ここではサーバサイドではなく、クライアント上で動作するソフトウェアについての実現可能性を考える。

ボードゲーム

パックマンはボードゲームではないのだが、ここではテーブル上に広げて多人数でプレイするゲームを指していると思ってほしい。

問題なし、というか多分ARデバイスが普及したら真っ先に流行するゲームの一つになるはず。

オフィスアプリ系(カレンダー、メール、チャット、通話、etc.)

問題なし。既に実現済み。

オーディナルスケール(RPGパート)

ハードウェアスペックさえ十分にあれば、やってることは既存の3Dのゲームだから実現できる……ような気がする。

ゲーム開発は全くの門外漢なので実際に実現可能かどうかはわからない。

もし本当にこのゲームを作るのだとしたら、CGの美麗さとかゲームバランスとかよりも、「いかに現実世界に迷惑をかけないか」というデザインにできるかどうかに全てがかかっていると思う。

劇中でも夜の神社で警官に話しかけられるシーンがあったが、あれは完全にIngressで観た光景で、あのシーンを考えた人はIngressのネタから着想を得たのだろうと私は思っている。

Ingressをプレイしていたときにエージェント達がさんざん現実世界に迷惑をかけてきた(私もかけていたと思う、すいません)ことを考えると、侵入禁止区域の徹底や、劇中でも行っていたような現実の企業とのコラボを推進することによる市民の抵抗感の低減みたいな施策が必要になるのではないかと思われる。

また、ボス戦などを見るに、Ingress / ポケモンGo より遥かに動きの激しいゲームなので、周囲の器物損壊や過失による他者への傷害(ぶつかったりとか)、ユーザ自身の怪我などの事件・事故を誘発するリスクが非常に高いと推測できる。

このあたりをうまく回避することができるようなゲーム設計にできるかどうかが、実現可否の鍵になる気がする。

オーディナルスケール(PvPパート)

劇中でエイジが使ってた(ような気がする)物理攻撃予測システム、物理攻撃を受ける映像データはいくらでも取れるし、そのデータを元に学習させれば、ある程度の攻撃の先行予測はできるんじゃないかと勝手に思ってる。実証実験はわりかし簡単にできそうなので自分で作ってみたい。

あと本記事の本筋とは全く関係がないが、ARでのPvPを観て真っ先に思い出したのがスマホ仮面。名作なのでみんな観よう。YouTubeで全話視聴できる

オーグマー(ARデバイス)

本作品最大のSFはこのデバイス。

全体的には「ぶっちゃけ無理」という説明になってしまうが、個別の機能にわけると実現可能な部分とそうでない部分があると思うので、機能別に見ていくことにする。

設定資料集とかは読んでおらず、あくまで本編観賞のみを情報源として書いているので設定資料集に書いてあったらすいません。

ディスプレイのないAR

「網膜走査型は現実にあるよ!」とはいうものの、ディスプレイレスなデバイスって実現したのか記憶にない。VR/ARデバイスでさえ長期利用による眼への影響がわからないのに、網膜走査型をそんなに簡単に大規模に普及させていいんだろうかという気がする。

向こう10年ならサングラス型・スカウター型が主流になるのではないかと思う。

オーディナルスケール(ハードウェアサイド)

あの派手なCG動かすのにどれだけスペックいるんだろうか。あんな小型のデバイス(多分小型のスマホと同等クラスのサイズ・重量)で現代のゲーミングPCと同じくらいのスペックを出してる気がするが、いつ頃実現できるんだろう。10年は可能性あっても5年は厳しそうな気がする。

バッテリー・ワイヤレス給電

やたらとCPU/GPU使いそうな処理する割にはバッテリーすごい長持ちな気がするけど、あれ全部ワイヤレス給電で賄っているのだろうか。だとすれば、仮に実現したとしてもトータルで凄まじいエネルギー消費になると思うんだが、運用コストは大丈夫なんだろうか。

アスナが使っていたインプットデバイス

空中であんなに打鍵音だして軽快に入力できてうらやましい。

HoloLensで入力してると、ゲイズでキーに合わせなきゃいけないので頭を動かさないとまともに入力できず、本当にだるい。

あんな自然にキーを叩けるほどの画像認識能力を持たせることができるのだろうか。というか早くHoloLensでこのくらい簡単に入力させてほしい。

脳波スキャン

ここは完全にSFの世界なので省略……と思うんだけど、実際どうなんだろうこの分野。門外漢なのでわからない。

オーグマーによるフルダイブVR

どう考えても無茶な気がする。

価格

本編の主要登場人物は無償配布されているようなので特に問題はないけど、街中のシーンで若い子とかも現代のスマホのように当たり前につけていた気がするが、これ一体いくらぐらいで出しているんだろう。ここまでの高度な技術だと、10年後でも数百ドルのオーダーで売るのは厳しいんじゃないかという気がするが……。

人間らしい人工知能

もうアニメ化はほぼ決定しているも同然な、SAOのアリシゼーション編がまさにこの人工知能がテーマで、この劇場版SAOはアリシゼーション編のテーマにつなげるための導入として考えられたものだと思われるが、私はちょうど先月読んだ小説「虹を待つ彼女」と同じようなテーマだったため、そちらとの比較の方に興味がわいた。

劇場版SAOと虹を待つ彼女、どちらも共通しているのは「死者を人工知能として復活させる」「死者の記録を元に人工知能を形成する」の二点だけど、アプローチの仕方がかなり異なる。劇場版SAOでは死者と面識のある人の記憶の生データを収集して機械学習技術(劇中ではディープラーニングと言ってはいたが、別にどういうアルゴリズムを選ぶかは大した問題じゃない)を使って人工知能を形成しようとする、

一方、虹を待つ彼女では、映像や写真、死者についての文書などのデータをベースにしてプロトタイプの人工知能を作成し、この人工知能と死者に面識がある人を会話させることで、「本人らしくない」不自然な部分を取り除いて完成度を高めていく、というアプローチをとっている。

どちらの手法も現実に実現したことはないのでどちらが優れているかを論じることはナンセンスではあるが、人間の記憶情報についてはそもそもまだ不明な点が多く、このようなデータをベースにするという手法がそもそも成り立つのかどうかさえ不明である一方で、虹を待つ彼女でのアプローチは一応は既存技術の積み重ねで実行はできるのでまだ現実味があるのではないか、という気はする。あくまで相対的にではあるが。

全体としての感想

劇場版SAOは、エンターテインメントとしての面白さを優先している部分を残しつつ、全体的に現実世界の技術・研究を下敷きにして設定を作っていることが感じられて、とてもよくできてる作品だと思った。本記事のように実現可能性についてあれこれ考える楽しみが得られるのも、制作陣による緻密な基礎調査があればこそと思う。ARの市場はこれから急速に拡大・変化していくはずなので、SAO編が始まった2022年から劇場版SAOの2026年の間に、どこまで現実の世界がSAOの世界に近づくのか楽しみだ。

--

--