ティール組織を改めて考え直す:Next Stage World 2018からの示唆

山田裕嗣 / Yuji Yamada
組織のカタチ
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8 min readMay 7, 2018

4月の下旬にギリシャで開催されたNext Stage World Gathering 2018に参加してきました。

NSW Gatheringとは、ティール組織などの次の時代(next stage)の組織に向き合う様々な国の人が集まるコミュニティであり、Gatheringという言葉がしっくり来るようなその名の通り「集まり」です。
開催地は例年ギリシャらしく、今年はロードス島とハルキ島というところでした。(なんとなくのイメージで言うとロードス島=沖縄本島、ハルキ島=渡嘉敷島くらい)

参加者は14ヵ国から27人。最多はデンマークの6人、次いでギリシャの4人。あとはオーストリア、イギリス、オランダ、ノルウェー、アメリカ、エジプト、オーストラリアなど各1〜2人。日本人(というか東洋人)は1人。

全体で5日間、事前・事後のセッションを合わせると最大で8日間。途中で来たり帰ったりする人もいるし、全体としてかなり緩めにオーガナイズされています。詳しいセッションの中身とかは別の記事を追い追い書くとして、記憶や肌感覚が鮮明なうちに、印象的だった示唆をいくつかまとめてみます。
総じて、新しいことを「学ぶ」というより、改めて「問いを立て直す」ような体験でした。

改めて、ティール組織(もしくはNext stageの組織)とは何か?

結論から言えば、ティールは「パラダイムが違うものである」ということを再確認した、という表現が一番しっくりくる体験でした。

前提として、英語圏では「スパイラルダイナミクス」という30年くらい前から提唱されている「人の成長段階」に関する理論が割と広く知られています。
英語圏の人は、ティール組織の中では出てこないBlue、Yellow、Turqouise、という色だったり、「First Tier(第1層)」、「Second Tier(第2層)」、みたいなことをよく口にします。むしろ「Tealって違う色になって分かりづらくなった」と思っているフシすらあります(tealが登場したのはケン・ウィルバーのインテグラル理論からですが)

それでも、Frederic Lalouxが書いた「ティール組織」の原著は英語圏でもインパクトがあったらしい。
「じゃあどう捉えられているのか?」と聞いてみると、「スパイラルダイナミクスで書かれている新しいパラダイム(2nd tier)を実践している企業が実在する」のを明示したことに意義がある、とのことでした。参加者2〜3人から聞いた話なので、彼/彼女らの私見かもしれませんが。

ただ、「ティール組織」の本の中でも、人類の意識の変容があって、それに合わせて組織モデルも発展させる必要がある、という言い方がされています。

発達心理学は、人類の意識がまさに移行しようとしている次の段階(ステージ)について多くのことを主張している。この次の段階に入ると、人は自分のエゴ(利己心)を抑制し、より自分らしく、健全な存在になる。過去が将来への案内役になるのであれば、人類が意識の次の段階へと成長すると、組織モデルもそれに応じて発展するはずである。(「ティール組織」P.17より)

スパイラルダイナミクスからの流れで改めて捉えてみると、ティール組織というのは「パラダイムの変化」のことを言っているのであって、決して「正しいティール」があるわけでもなければ、「決まったやり方を導入すれば実現する」ものでもない、というのが良く分かります。
むしろこのような「正しいティール組織」を目指すような誤ったアプローチが起きることへの危惧について、参加者の中でもわりと共有されている印象でした。

内発的な動機を「希少な資源」として捉え直す

じゃあ、「パラダイムが違う」ということを前提として、具体的に、何を、どうやって、変えていくことが必要なのか?
ここには本当に色んな切り口があるし、今回のgatheringでも色んな観点での対話がありました。

個人的に、今回のGatheringでの経験を振り返ってみると、「内発的な動機」を組織の中の希少な資源として捉え直す、という考え方がしっくり来ました。
特にそういうセッションがあったわけでもないですし、まだ直感的な仮説でしかないんですが(なのでぜひこれは色んな人と話してみたい)。

極論すれば、人/モノ/金/情報の一つとして「人材」を捉えたときに、これまでは組織全体の目標達成に必要な「専門スキル」の質・量を揃えることが重要でした。ざっくり表現すれば、一定水準を満たしている人数の「量」から、圧倒的に際立った個性の「質」に重心が移ってきているという言い方もできます。

一方で、「次のパラダイム」から組織を考えようとしたときに、「専門スキル」によって人を捉えようとすると、どうにも上手くいきません。「専門スキル」というスタート地点から始めると、どこまで行っても、人は「代替可能なりソース」として捉えることが可能になります(むしろその方が今の組織戦略としては好ましい)。

同じ「専門性」を持っている人であっても、どういう「意図」や「目的」を持っているかによって、そのスキルの発揮の仕方は大きく異なります。
「次のパラダイム」の組織を考える上では、「専門スキル」を「管理する」のではなく、「内発的な動機」を「最大化する」ということをスタート地点にするとうまくいくのでは?と感じました。

ちなみにPost-SessionでAppreciative Inquiryに基づいたリーダーシップのセッションに参加したのですが、今回のNSW gathering 全体のコンテキストの中ですごくしっくり来ました。

「日本的」なティール組織の可能性

今回、Encode.orgという会社のメンバー2名も参加していて、ホラクラシーをベースにしている彼らの組織づくりの考え方やフレームワークはとても示唆深かったです。
基本的な考え方として、「仕事」「関係性」「会社(報酬・法律etc)」の3つの観点それぞれにおいて、合意事項をAgreementに落とし込みます(社名のencode.orgは、Agreementに落とし込む、という意味で付けられている)。

「次のパラダイム」の組織を作るにあたって、仕組みやルールを精緻に作り込み、その環境の中で人が時間を過ごすことによって、「新しい振る舞い方」を身に着けていく、というのは、一つのアプローチとして理に適っているなと思います。

一方、個人的には「他のアプローチはあるのでは?」という気持ちになりました。
今回は機内での読書に「群れはなぜ同じ方向を目指すのか」「群れのルール」とかの群れの集合知の本を持っていました。このあたりは「次のパラダイム」とかなり密接につながっていると思ってるんですが、イマイチこのあたりの話が深くできた感じはしませんでした。(私の伝える力とか英語力が足りなかっただけ、っていう可能性も当然ある…)

Encodeやホラクラシーのアプローチは、「自律的に動けるエレガントなシステム」を機械的に作り上げていく、というようなものだとも言えますが、この半年くらい自然経営(じねんけいえい)研究会でも言っているような、組織を「生命体」や「生態系」として捉えるということとは、前提とする世界観が少し違いそうだなと思います。

今回のGatheringの中で、「日本でNSW Gatheringを開催するなら、どういうものになりそうか?」というセッションを開いてみたところ、7–8人が参加して色々と良い意見も聞かせてくれました。
決して “Next Stage Western” でも “Next Stage Japan” でもなく、僕らはあくまでも “Next Stage WORLD” に向かいたい、という話が非常に印象に残りました。
「日本」と「西洋文化」と切り分けすぎても意味が無いんですが、日本の中で今後も色んな試行錯誤を繰り返しながら、そこで得られたことは外に発信していきたいなと思います。

Originally published at EnFlow / 組織デザイン.

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山田裕嗣 / Yuji Yamada
組織のカタチ

HR系のコンサル、大手ITのHRを経て、ITベンチャーの経営に参画。 2017年12月にEnFlow株式会社を設立。Teal/ホラクラシー/自然経営など、新しい時代の組織への変容を支援。 https://en-flow.com/