はじまりはキャッチボール(3)

Yoko Takeichi
綿毛の友
Published in
5 min readNov 15, 2016

キャッチボールは毎回状況が違う。日によって2人のテンションも、会話の内容も、投げるペースも違う。

私がもともとこのプロジェクトでやりたかったことは、キャッチボールを通して見える弟の変化を記録することである。つまり、「インタビュー手法としての」キャッチボールである。これは、たまったデータを分析しなくては何も見えてこない。今回はビデオ分析をして少しずつ見えてきたことを紹介する。

まず私は最初の分析対象に4/3のキャッチボールを選んだ。理由は、分数が短いことと、声が聞き取りやすいことである。

配置は図のようにカメラから向かって左が観察者である私、向かって右が対象者である弟。芝生の広場まで行く時間ももったいなかったため、場所は駐車場だ。近くに車が停めてある場所でキャッチボールをするのはとても危ないので、双方暴投しないようコントロールを重視して投げる。スペースの問題もあり、必然的に距離感は近くなる。(結果、のちに文字起こしをする際はこちらの方が都合が良いことが後からわかった。)

上から見た図

この日は、私がサークルの新歓イベントの本番を控えていたため、記録に残っているのは17:47〜17:57、そのうち実際にキャッチボールをしたのは7分ほどと、とても短かった。マンションの裏で、停めてある車に当たらないよう注意しながらキャッチボールをした。

会話の内容は、少し前に弟が行ってきた九州自転車一人旅の話がメインなのだが、この日たまたま両親が家におらず、「肉が食べたい」という弟の発言により、この日初めて2人で外で夕食をとった。直接的ではないが、キャッチボールがきっかけで、新たなコミュニケーションが生まれたことも面白い。

4/3 1747–1757@駐車場

ビデオ分析は、Excelを使い秒単位でコーディングをすることによって行う。

まずカテゴリーを「体の向き・視線・動作(投げる、捕る)・声(発された言葉)」の4項目に決め、それぞれ私と弟の計8項目を縦軸に置いた。秒数を横軸におき、秒単位で繰り返し動画をみる。

体の向きは矢印、視線は言葉で書き込む。動作はひとまず基本的には「投げる・捕る」を中心に言葉で書くことにした。声の欄には発された言葉に加え、ボールがグローブに入った音を●、捕る前にグローブを手で鳴らす音を○で表すことにした。結果としてこのカテゴリーは音全般になった。

コーディングの記録。10分の動画データだと600コマ。さらにそれぞれに8項目。

コーディングをする中で面白かったのは、弟の言葉に対する私の返しである。言葉を発するのにゆっくりと時間をかける弟に対し、私が先回りして結論を当てるシーンが目立った。逆に弟が私の話に対して先回りをすることは一度もなかった。

また、発言に対して若干かぶせて次の発言をすることも気になった。考えてみると私たちは会話をするとき、基本的に言葉を少しずつかぶせる。「聞いていますよ」と言わんばかりに、ほんの少し食い気味に、かぶせて、相槌を打つのだ。それは、相手に気持ちよく話してもらうためのちょっとした潤滑油のようなはたらきをする。コミュニケーションを円滑にすすめるためのひと工夫なのだ。しかし面白かったのは、この「かぶせ」によって相手の言いたいことを遮っている例だ。恥ずかしながら、私が言葉をかぶせたことによって弟が話の続きを遮られ、結果一時的に会話の主導権を乗っ取っていたのだ。

ふだんの家族でのコミュニケーションを振り返ってみると、キャッチボール中に限った話ではなく、日常生活でもそのパターンは多いことを思い出した。弟が何かを伝えようとして言葉に詰まったときに、先回りしてしまうのはよくないよね、と、家族で反省したことがある。両親は、弟は自分の言葉でしゃべる練習をしたほうがいい、などと言っており、弟が説明に困っても「それってこういうこと?」と口を挟みたくなっても言葉の助け舟を出さないよう意識していた。

面白いと思った私は、「かぶせ」タブを作り、色分けをした。

色分けのしかた

4/3に引きつづき、同じく駐車場での4/25と5/20のキャッチボールも、声と動作の2カテゴリーを重視でコーディングをすることにした。

複数回の分析をしてみると、回によって会話のペースや発される言葉の量の差に驚く。4/3は私が弟に聞きたいトピックがあったからか、だんとつで会話メインのキャッチボールだ。「かぶせ」の数も、4/25と5/20は期待していたほど多くはなかった。分かりやすい例は先回りで、4/3は10か所もあったのに対して、4/25は3か所、5/20にいたっては1か所も見つからなかった。

今後、弟に、家族との会話における「かぶせ」や先回りについて、どう思っているのか聞いてみたい。

また、今回のレポートは、キャッチボールでの会話の部分に着目したものなので、ボールのやり取りのテンポも気になっている。地道に動画と向き合おう。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2016年9月末の時点での中間報告)。

最終成果は、2017年2月に開かれる「フィールドワーク展ⅩⅢ:たんぽぽ」に展示されます。

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