立ち飲み屋における非現代的コミュニケーション(3)

前回は、自分の居酒屋観について考察した。しかし私の立ち飲み屋に通うという経験は、居酒屋選びやそこでの過ごし方だけではなく、生活の中の他の部分にも大きく影響を与えていることに気付いた。


細かいことを挙げれば「お酒に少し強くなった」、「刺身が好きになった」などいろいろあるが、大きく変わったのはコミュニケーションの面である。所属ゼミ「キャンプ」という活動において、知らないまちの知らない人と会話をすることがある。10月には佐賀県の基山というまちを訪れた。懇親会という名の飲み会では、適度にお酒を飲みつつ、地元の方たちに活動の説明をしたり、まちについて教えてもらったりした。自分の中で、お酒の場でのふるまい方というものが上手になった気がしたのである。懇親会の翌日には取材に行くのだが、そこでは83歳の男性を担当することになった。「はなみち」で培ってきた年配の方のツボというか、年配の方々の好きな話しやすい雰囲気を作ることで、お互いの心に残る濃密なコミュニケーションができたと自負している。同様に、青森県の深浦町で38歳の男性に取材した時も、その人の人柄に「立ち飲み屋にいそう」という感覚を持ち、非常にラフな会話ができ、方言の壁を越えて、楽しい時間を過ごすことができた。はなみちでいろいろな人と話してきたことで、相手の属性や年齢に合わせたコミュニケーションが身についたのだ。それは当たり前のことなのかもしれないが、元々コミュニケーションが不得手だった自分にとっては大きな変化だ。

青森県深浦町での取材の様子(11/12)

これらの、自分の居酒屋観や趣味やコミュニケーションの変化についてもぜひまとめたいと思う。やはり、その方法としてはドキュメントフィルムの形が適していると考えている。そちらについては未だ詳しく決められていないが、本編の裏話などと一緒に付随的に作れたらいいのではないかと考えている。


にぎわう店内(11/5)

ここからは11月5日の土曜日、はなみちにいってきたときの話だ。この日は競艇か競輪かわからないが(野毛には各公営競技の場外投票券発売所が存在する。)、何かのレースがあったようで夕方についた時にはほぼ満席だった。そんな中、常連たちの注文は後回しにされていたようだった。「ハイボールとウーロンハイ!」「そんなの後で!」といった具合だ。そのような関係が許されるのも、やはり気心の知れた常連と店主の間柄ならではだと思い、興味深かった。いつもは大きな出入り口から入りそのすぐ近くに席をとるのだが、そこが混雑していたため奥まで入って席を確保した。すると、この人たちいつも店にいるなぁと思っていたけれど話したことのなかった2人組の中年男性が横で飲んでいた。ビールと刺身を味わっていると、「君、たまに見るけど話したことなかったよね?」とその2人組が話しかけてきてくれた。こんなにも同じことを思うものなのか、常連はやはりいつも店内をよく見ているのか、という2つの不思議を感じながら、会話は始まった。

「俺たちはいつもBチームで飲んでるからねぇ」と、顔は知りつつも話してこなかった理由を分析していた。はなみちには大きい通路に面した出入り口と、小さい脇道にしか面していない出入り口とがあるが、店の出入りに使われるのはほとんどが大きい出入り口だけだ。その大きな出入り口の近くの、比較的入店退店の回転が速い側がAチームと呼ばれ、店の奥側がBチームと呼ばれているようだ。2人の間だけで呼ばれている名前なのか、常連の間ではスタンダードなのかはわからないが、思い返せばその2つの側には曖昧な境界があったような気もしてきた。次からはBチームに積極的に行こうと決めたのだった。

はなみちの間取りとAチームBチーム略図

この方とも次会ったらゆっくりお話ししましょうと言い、お別れした。「さっきまで横の中華屋で飲んでたんだ」と言っていたから、他の行きつけのお店の話も聞いてみたい。


通っても通ってもまだ知り尽くせていない、この店にどんどんはまっていってしまっている。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2016年11月末の時点での中間報告)。
最終成果は、2017年2月に開かれる「フィールドワーク展XIII:たんぽぽ」に展示されます。
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