1つ屋根の下で(2)

Mari Tsuchiya
綿毛の友
Published in
6 min readSep 25, 2016

9月になり、街中を歩く人の姿もすっかり秋らしくなってきた。最近は、夜、姉妹のお宅に足を運ぶと、辺りはすぐに暗くなってしまう。4月から毎月H姉妹とY姉妹、2つのお宅訪問をしてレシートをもらい、私の手元にはたくさんのデータが集まってきた。

レシートはおもしろい

この夏休み、(1)で挙げた2つ目の方法「レシート分析」に取りかかるにあたり、両姉妹からもらった4月分から8月分までのレシート1枚1枚をエクセルに打ち込んだ。その量は、計800枚近く。(1)でも述べたように、レシートには膨大な情報が詰まっている。お店の名前、お店の住所、買い物をした時間、買ったもの、買った個数、お金の出し方…。改めてまじまじと見ていると、人の生活への想像を膨らませることができる。買った材料を見れば自炊した日はすぐにわかるし、オロナミンCやアイマスクを頻繁に買っていれば疲れているのかなあと、持ち主に思いを馳せることもある。買っている駅を特定し、カレンダーに落とし込めば、だいたいの行動を把握することだってできる。

こういったたくさんの情報と可能性をもつレシートの山を目の前にして、いったい何に注目すれば「きょうだい」のことがわかるのか、当初のテーマに私は頭を抱え、先輩に相談した。そして、せっかく月に1度、お宅にも訪問し実際に見ることができるのだから、まず、彼女たちが「買っているモノ」に注目してみようという結論に至った。お宅訪問の際に、私が気になった昔のレシートをもとに話をしたり、実際に姉妹と一緒にレシート見て振り返る。実物があればその場で見せてもらおうという段取りだ。

今回は、そこで聞いてきた姉妹とモノにまつわるエピソードをいくつか紹介しようと思う。

H姉妹の共有事情

① 歯磨き粉

H姉妹のレシートを見ていると、共同財布が存在した4月 (H姉妹の共有財布制度は6月に破綻)にもかかわらず、それぞれが自分のお財布から違う歯磨き粉を買っているのを発見した。歯磨き粉なんて、一家に1つあればいいものではないのか、そう疑問に思って聞いてみると、どうやら2人は各自専用の歯磨き粉を持っていることが判明した。姉Sはあまり売られているのを見ない1本320円のソルティ歯磨き粉を使っているのに対し、妹Hは毎回98円のモノを購入している。味の好みが違うとは言えど、歯磨き粉に対する価値観の違いに少し驚いた。

① シャンプーとリンス

では、同じ生活用品なら、シャンプーとリンスはどうなのか。これも別々に利用しているのかと聞いてみると、これは共有していた。毎回使い終わる度に、次何を使いたいか2人で話しあって決めているとのことだ。そう言われてレシートを振り返ると、たしかにシャンプーとリンスは、1ヶ月の中で姉と妹のどちらかにしか入っていないし、お風呂場を覗かせてもらうとやはり1セットしか置かれていなかった。

② クレンジング

そういった話をしていると、H姉妹の方から話題に出してきたのがクレンジングを巡ってのエピソードだった。どうやら、妹Hが自分用として自分のお金で購入したものを、クレンジングを持っていなかった姉Sが頻繁に利用してしまうことがあったらしい。結局、妹Hは、新しいクレンジングをもう1本買い、最初に買ったものは姉にあげる羽目になったとのこと。ここからは姉妹の中にある、無言の圧力と無言のやさしさが感じられた。

Y姉妹の共有財布

① 1Lの100%オレンジジュース

Y姉妹の共有財布から出ているものをみると、ファミリーマートで1Lの100%オレンジジュースがよく購入されている。そこでこのオレンジジュースについて2人に聞いてみると、飲むのは専ら妹Aであることが分かった。2人の共有財布から買われていることに気付いていなかった姉Rは「これ、共有の方から出してたの…」とぼそっとつぶやく一方、妹Aは笑みをこぼして姉を見つめていた。

② 豆腐と納豆

2人暮らしを始めて6ヶ月経った今でも、Y姉妹は、だいたい週に1度のペースで2人の食材や生活用品のまとめ買いをする。そこで、毎回必ず買うのは豆腐と納豆。朝や夜、小腹がすいたときに食べるというこの2品は姉、妹どちらが買いに行く時も欠かさないようだ。ここには、同じ家で育ってきた2人の風習が垣間見えるような気がした。

洋服貸し借り

姉妹の「2人暮らし」で互いのモノを共有するといえば、最も敏感になるのが洋服かもしれない。私と会うときには、「この服、本当は妹のものです」と教えてくれたり、お互いに「今日、それ着ていってたんだ」などと言う光景もよく目にする。

洋服を買っては、お披露目をし合うというH姉妹にはお互いに「これは着てはいけない」というモノはなく、自分の洋服に飽きた時、それぞれの箪笥から自由にとりだして着るらしい。気付けば、持ち主が入れ替わってしまうこともあるというからおもしろい。一方のY姉妹も頻繁に互いの洋服や靴を着る。しかし、一見姿が似ていないように見える2人は、互いの洋服が自分に似合うか似合わないかを意識したり、それぞれが大切にしていそうなものには手を出さないようにしながら、洋服の貸し借りをしているようだ。

このように、家の中にあるモノは何気ないモノでも、すべてがエピソードを持っている。同じ家の中で、姉と妹がどのようにして、共空間をつくり、私空間をつくっているのか、このような目には見えないルールやあいまいな線引きを、レシートをヒントにして私は紐解きつづける。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2016年9月末の時点での中間報告)。

最終成果は、2017年2月に開かれる「フィールドワーク展XIII:たんぽぽ」に展示されます。

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