1つ屋根の下で(3)

Mari Tsuchiya
綿毛の友
Published in
6 min readNov 15, 2016

11月になった。コンビニで頻繁に買われるコーヒーのレシートを見ると、アイスからホットに変わりはじめ、冬の近づきを感じる。12月まで実施するお宅訪問も残すところ、あと2回となってしまった。

モノから見るきょうだいの関係性

姉妹とモノにまつわるエピソードを集めるにあたり、私は、今までもらってきた計1000枚のレシートを見返した。そして、その中から気になる商品(アイテム)を見つけ出し、そのアイテムが登場するすべてのレシートをスケッチブックに貼りだすことにした。このスケッチブックを持ってお宅訪問に向かい、実際に話を聞くことで商品に抱く謎を解いていこうという考えだ。

私が気になるアイテムを選ぶ基準は、主に4つある。(ⅰ)姉妹が頻繁に買っているもの (ⅱ)ちょっと高価なもの (ⅲ)自分があまり買わないもの (ⅳ)共同生活をしていたら共有していそうなもの だ。

今回は、私がこの基準に従ってスケッチブックに取り上げたいくつかのアイテムを紹介しようと思う。

実際のスケッチブック

① H姉妹 姉S『伊達眼鏡』…(ⅱ)

まず、妹Hが9月19日に購入した3万円の伊達眼鏡。9月20日のお宅訪問の際、私がこのアイテムに言及すると、その場に同席してきた姉Sは「なんでこんなに高いものを買っているの!」と妹Hを注意した。しかし10月に私がお宅訪問に行くと、姉Sも自分用の3万円の伊達眼鏡をかけていた。注意しておきながら、妹Hから影響を受け、9月21日につい買ってしまったそうだ。

② H姉妹 妹H『ニット帽』…(ⅳ)

妹Hは8月の末から、早くも秋冬の洋服を買い始めた。その中の1つで買われていたものが、茶色のニット帽だ。しかし、10月のお宅訪問の際、妹Hではなく姉Sが、そのニット帽をまるで自分のモノかのように身につけていた。普段からモノ、特に衣類の貸し借りが多く、時には持ち主がかわってしまう場合もあるという2人にとって、このニット帽は典型的な例なのかもしれない。

③ Y姉妹 姉R『辛い食べ物』…(ⅰ)

姉Rのレシートには、食堂でカレーやスンドゥブなど辛いものがよく登場する。きっと、辛いもの好きなんだろうと思い、選別したレシートを見せながら聞いてみると、「別に…。特別好きなわけではなくて、カレーをよく食べるのは安いからです。」と言った。私と一緒に姉R のこの話を聞いていた妹Aは「お姉ちゃんってそういうところケチだよね。何でも安いかどうかが基準になっている気がする。私はモノを買うとき、値段をあまり気にしない。」と口にした。姉妹によっても、購買に対する価値観は結構異なるのかもしれない。

④ Y姉妹 妹A『クッキー』…(ⅰ)

妹Aは頻繁にクッキーやビスケットを購入する。妹Aのクッキー好きは、普段から手作りのクッキーを作ってしまうほどだった。Y家では、2人の共有財布で1週間に1袋のペースで小麦粉が購入されていたことがあったのだが、その理由はここにあったのだ。ちなみに、数多くあるクッキーの中で、妹Aはチョコチッップクッキーがあまり好きではないらしい。これを買っている時は、チョコチップクッキーが大好きな姉Rにお遣いで頼まれた時だと言っていた。

やはり、実際に話を聞いてみると、買われているモノはそれぞれエピソードをもっていた。そのエピソードを聞くだけで、彼女たちの性格や彼女たちが普段どのように関わりをもっているのかを知ることができてしまうのだ。また、自分や自分のきょうだいのレシートを見ながら話してもらっていると、自分たちの生活を少し客観的に見ることが出来るからか、お互いの生活に興味を持っているように見える。結果的に彼女たちにも何かを得てもらえるような、彼女たちに何か還せるような、そんな研究にしたい。

研究の裏話

そして、この研究を続けていく中で、ある副次的なおもしろい出来事がおきた。

なんと、これをきっかけに私の姉の生活に変化が訪れたのだ。

実は私は、夏休み中から研究を進めるにあたり、姉の手を借りていた。今では、1000枚近くあるレシート。この1枚1枚をエクセルに入力するのは、結構時間がかかる。だいたい、普通に打ち込んでいくと30枚(約1ヶ月平均)で45分くらいだ。夏休み、私がヒーヒー言いながら春学期にためてしまった分の作業をしていると、家に来て暇そうにしていた姉が「なにか手伝えることある?」と言ってくれた。そこで、エクセルをいじるのはちょっとこわいと言うので、私が短時間でエクセルに打ち込めるように、ノートにレシートの情報をうつす作業をしてもらうことにした。この手が加わることによって私のエクセルへの入力時間は3分の1に削減されとても助かっている。

2姉妹4人のレシートをチェックする私の姉

銀行員で現在は主婦をしている姉は、その職業柄か、他人のレシートを見る作業を楽しみながら進めている。レシートの情報を書き写しているそのノートには、「相場に比べると、このナメコの値段は高い!」とか「同じ値段だったら、LOFTよりもデパ地下でもっとよい化粧品が買えそうだ」とか、レシート越しに見た彼女たちの生活にアドバイスのようなツッコミを入れているのだ。

私の姉に起きた変化

こうして、3ヶ月以上にわたり4人のレシートに頻繁に目を通すようになった私の姉は、彼女達のレシートにツッコミを入れるだけでなく、自ら影響を受け始めた。たとえば、H姉妹の姉Sが主食のように買っているミックスナッツのレシートをみて、今まで買ったことがなかったミックスナッツを買い始め、色んな種類を食べ比べするまでにハマってしまったりしている。他にも、これまで足を運んだこともなかったGUで洋服を買い始めたり、滅多に行かなかったユザワヤに通うようになったりしているのだ。まさに、私の姉は私以上に、この4人のファンになってしまているようだ。

会ったこともない人たちなのに、レシートを見るだけでこんなに影響を受けてしまうものか思うとおもしろい。もしかすると、似たような生活環境で育つ自分のきょうだいよりも、自分と少しかけ離れた存在の人から受ける影響の方が大きいのかもしれない。

2月に行われるフィールドワーク展には、調査に協力してくれている2姉妹と、私の姉も足を運んでくれる予定だ。6人で顔を合わせて話ができる時を、今からとても楽しみにしている。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2016年11月末の時点での中間報告)。

最終成果は、2017年2月に開かれる「フィールドワーク展XIII:たんぽぽ」に展示されます。

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