1つ屋根の下で(4)

Mari Tsuchiya
綿毛の友
Published in
6 min readJan 26, 2017

年が明け、2016年4月から12月までのすべてのお宅訪問が終わった。12月の訪問日、9ヶ月間、通いつづけてきた彼女たちの最寄り駅の去ろうとした時、私は思わず駅の写真を撮っていた。この研究が終わりに向かうからといって、彼女たちとの関係が終わるわけではないのに、どこか寂しさを感じてしまう。9ヶ月間という期間は、長いようで短かった。

12月最後のお宅訪問日の目白駅

最終的に、私の手元に集まったレシートの合計は1803枚。この研究を始める前まで、家計簿すらつけたことがなかった私は、「1人の人間が生活を営むうえで、1ヶ月間にどれだけの消費行動をしているのか。1年間でどれだけのレシートをもらっているのか。」なんて全く知らなかった。この9ヶ月間、2姉妹4人に協力してもらいながら、想像以上にたくさんのレシートを手に入れ、その数に圧倒されつつも1枚1枚と向き合ってきたことで、彼女たちの生活そのものに近づくことができた。レシートというただの紙切れのように見える存在が、ここまで、人の生活に想像を膨らませ、そこで育まれる人間関係を浮き彫りにするのかと思うと改めてレシートが秘める力を実感する。

私が姉妹の2人暮らしを追いながら見てきたことは、これまでに紹介したモノにまつわる話だけではない。毎月、顔を合わせていれば、会話やふるまいから、いつもの生活に近いものを感じることもあった。今回は、モノにまつわるエピソードの他に、9ヶ月間通っていて見えてきた「姉妹の暮らし」の実態について紹介する。

共に暮らしてきた証

多くの姉妹は、幼い頃から共に過ごす。同じ屋根の下で、同じお母さんが作った料理を食べて、同じお父さんの帰りを待つ。こうした、よく聞く普通の生活は他愛もない日常に見えるが、実は、ちょっとした文化となり染み付いていることがある。たとえば、Y姉妹には、クッキーやスコーンを日常的に手作りする習慣がある。妹Aは「クッキー好きすぎて。クッキーなんて10分でできますよ!」と私に教えてくれた。一時期、小麦粉が1週間に1度のペースで購入されていたわけはここにあったのだ。私はなにかイベント事がなければ、クッキーをつくるなんてことをしてこなかったので、当たり前のように「おやつを自分でつくる」というその感覚には少し驚いた。同じ家で育った2人だけで暮らしている分には、あまりにも「あたり前の感覚」になっていて浮き彫りにならないことも、私のような他者が一歩足を踏み入れれば、姉妹ならではの独特の文化として捉えることができるのだ。

互いのゆるい関係性

姉妹という関係性は、両親との関係性よりも、確実にゆるい。それを感じたのは、レシートに記載されている情報から彼女たちの金銭面と行動面に注目していた時だった。

4月、親元を離れたばかりのH姉妹の妹Hは、1ヶ月1万円ほどしかお金を使わなかった。高校を卒業した直後と大学生活に慣れた現在では、金銭感覚が異なるだけなのかもしれないが、上京する際、母から「無駄遣いはしないように」と念を押されていたらしい。それが、数ヶ月、親の目が届かないところで生活を送っていくうちに、消費額はどんどん上がってしまった。バイトを始め、自分の力でお金がはいる感覚を得てしまったことも要因の1つなのかもしれないが、消費金額の合計は4月から10月までの半年間で約10万円以上あがっている。もし、親が近くで見ていれば、頻繁な購入を躊躇するかもしれないが、姉との暮らしでは躊躇するどころか、互いのモノに惹かれあい、購買意欲を高めてしまっているように見える。

もう1つは、「いつ帰ってもいい」という行動面でのゆるさだ。姉妹の2人暮らしに「門限」が存在するケースは滅多にないだろう。いつでも帰ることがゆるされているからか、彼女たちのレシートを見ていると、0時を回ってからコンビニで買い物をしているものも多くある。彼女たちに聞いた話では、H姉妹は夜中にきょうだいケンカをして、妹Hがふらりと電車に乗って江の島に行ってしまったこともあるそうだ。Y姉妹の妹Aも、ちょうど私がお宅訪問したとある日、22時くらいタイミングで友達の家に出かけるということがあった。このように、姉妹の2人暮らしは「家で待っている人がいる」実家での暮らしよりも、「何時でも門を飛び越えられる」1人暮らしの感覚に近いようだ。

すれ違い生活

一般的に、20歳前後の学生の生活といえば、学校(予備校を含む)、自習、サークル、アルバイト、ボランティアなどが想像されるのだろうか。20代前後の生活パターンはみな似ているようだが、人それぞれ、あたり前のごとく生活リズムが異なる。一見、同じように見えたとしても、意識的にうまく時間をすり合わせようとしないと、なかなか合わないものだ。というのも、4人がそれぞれの家で2人暮らしを始めたばかりの4月、これから一緒に暮らすうえで、家事を分担制にしようとしたり、土日は必ず一緒にご飯を食べるようにしようと思っていると教えてくれた。しかし、いざ新生活が始まってみると、そこまでうまく進まない。それぞれ、毎日、出発時間も帰宅時間も異なるため、顔を合わせることすら難しいこともあるという。実際、私がH姉妹のお宅にフィールドワークに行った8月、2人は「つっちーさん(筆者)の7月のフィールドワーク以来、初めて一緒に過ごすね」と言っていた。私がフィールドワークにくることによって半強制的ではあるものの、最低1ヶ月1日のペースで一緒に過ごす時間が設けられていたようだ。

このように、私は、9ヶ月間、彼女たちのお宅に訪問しながらレシートを集めてきたことによって、それぞれの姉妹が交わす2人のやりとりまで、垣間見ることができた。彼女たちと毎月、会ってきた中で、彼女たちの口からぽろっと出る普段の会話や思い出話は、聞いている私まで楽しくなってしまう。

今回、私が研究対象として選んだのは、「きょうだい」の中でも「姉妹」という形だった。そのため、他のきょうだい構成と比較することはできないけれど、少なくとも「姉妹」というきょうだいの暮らしには強く意識せずとも互いを理解しあい、居心地のよい住まいづくりをする姉妹の姿があった。

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