365日のコンプレックスライフ(3)

東京はもうすっかり冬になってしまった。

2年前に買ったお気にいりのセーターをひっぱり出して、陰干しをする。くたびれたムートンブーツは思い切って捨てることにした。出かけるときはへんな形のボトルにあたたかい紅茶をいれて持ち歩く。

11ヶ月、毎日「いい暮らし」を考えながら過ごしていたら、だんだんとわかってきたような気がする。丁寧にモノや人と向き合いながら、潔く身の回りを整えて、ムダやムリをなくすことが「いい暮らし」に近づく道なのだ。

前回の記事で、『暮らしのヒント集』になぞらえる形でいい暮らしを探るという話をした。そして、少しずつ実践を重ねていくうちにいくつか気になることがでてきた。


10月のある日曜日、わたしは1日中予定がなく家にいることにした。そうだ、せっかくだからできるだけたくさんの“ヒント”を試してみよう。思い立ったわたしはまず、ベッドの中でその日することを思い浮かべた。朝ごはんを作って、掃除をして…思いついたものをすぐにメモする。これも“ヒント”のうちだ。起きたら深呼吸をすることも大切だ。

顔を洗って、おでこを出す。週に一度くらいの休日は肌を休める。朝ごはんをたくさん食べる。いつもより早く起きて、ゆっくりと食べる。料理をするときははじめに順番を考えて、ムダのない動きをする。

ご飯を食べ終わったら、トイレの掃除をする。続いて玄関もきれいにする。掃除の基本は掃いて、拭くこと。掃除機に頼りすぎてはいけないけれど、いつも使っている掃除機をきれいにすることも必要だ。靴箱からすべての靴を出してみて、底がすり減っていないかチェックする。いらないサンダル、ぼろぼろになった靴は捨てる。わたしはこの日ムートンブーツ、底が剥がれた革靴、汚れてしまったサンダルを捨てた。

玄関がすっきりしたら、部屋の本棚もきれいにする。すべての本を取り出して、折れ曲がっていないかチェックする。雑誌は月ごとに並べ替え、新書や文庫は出版社別に整理する。"文庫本のカバーを捨てる”という項目があったけれど、わたしにはできなかった。本のカバーが好きなのだ。ヒントに歩み寄って帯だけ捨てることにした。

いい天気

それから、畳のホコリを掃き、堅く絞った雑巾で拭く。そのあとにきちんと乾拭きをした。いつも家ではぼんやりとテレビを見ているわたしがハキハキと掃除をしているものだから、母は「ついでにお風呂も掃除して!上質でしょ!」などと注文をしてくる。そういうことじゃないんだよ、と文句をいいながら浴槽をぴかぴかにした。

そのほかにも、クッションを干したり、たくさん水分をとったり、排水口を掃除したり、プランターの向きを変えたりした。朝から夕方までで、およそ30項目のヒントを実践することができた。

しかし、そのなかには「朝食をゆっくり食べる」「朝食をたくさん食べる」のように、ほんの少しの違いのことを分けて書いているようなものもある。また、「荷物を少なくする」といいつつも「水筒を持ち歩く」「ハガキを持ち歩く」「ソーイングセットを持ち歩く」などと書かれている。ヒントをみつめているうちに、どんどんわからなくなっていく。

そこでわたしは、googleドライブのスプレッドシートに469項目を簡略化したものを書き写し、それぞれのヒントの特徴を書き出すことにした。おおまかなジャンルで分け、キーワードを細かく書き出す。ジャンルは「掃除」「料理」「過ごし方」などさまざまだ。行動では「捨てる」「新調する」「持ち歩く」、モノでいえば花や本や靴、手紙などが頻繁に登場する。いかにも「いい暮らし」というかんじだ。なんとなく思っていたことが数字として見えてくるのはおもしろい。googleの機能で棒グラフなどを簡単に作れるため、とてもわかりやすい。また、ヒントを分解してデジタル化しておけば、今まで考えつかなかったようなオリジナルの“暮らしのヒント”を機械的に作ることができる。それがいいヒントか悪いヒントかは、また別の話だ。

さらにわたし自身の経験をデータ化するためにそれらのヒントを実践した・実践してないできる・できないやりたい・やりたくないわかる・わからないという項目でチェックすることにした。

例えば、先ほどの文庫本のカバーの例でいうと、わたしは結局カバーを捨てることができなかったため実践していない。けれどやろうと思えばできる。しかしやりたくない。なんとなくそれがいいのだろうということはわかる。ということで下の図の“カバー”の位置にあてはめることができる。

このように、それぞれのヒントを配置することでわたしと『暮らしのヒント集』の関係が見えてくるはずだ。グレーのゾーンにはまるものがわたしにとっての「いい暮らし」かもしれないし、そうではないのかもしれない。わかっちゃいるしやりたいし、一度ならできるのになぜか続けられないということもあるだろう。実践しながら表と向き合う日々が続きそうだ。

あっというまに365日が過ぎてしまうなぁ。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2016年11月末の時点での中間報告)。
最終成果は、2017年2月に開かれる「フィールドワーク展XIII:たんぽぽ」に展示されます。
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