07: 「追いパクチー」で、ふさふさへ
今週の月曜(8月22日)、台風が各地で猛威をふるった。私たちは、屋内と屋外の両方でパクチーを育てている。両方とも、先週発芽したばかりだった。屋外のパクチーはこの暴風雨でなぎ倒されてしまったのではないかと心配したが、同日中に様子を見に行った仲間から、無事を知らせる写真が届き、すっかり安心していた。ところが、今日(8月25日)、研究室に行ってみると、屋外のパクチーはプランターから姿を消していた。またしても、土にかえってしまった…。種を発芽させるのも難しいが、発芽した後も、どうにも前に進まない。タイを筆頭に南国の料理によく使われていることから、パクチーは暑さに強いと思いこんでいたが、園芸ショップの店員さんや、このパクチー通信を読んでくださっている方から、パクチーは実は暑さに弱く、真夏に屋外で育てるのは至難のわざだと聞いた。
肩を落として研究室に向かうと、室内で水耕栽培の手法で育てている「モバイル・パクチー」は、ささやかながら、順調に成長していた!これまでの経過を写真で見てみよう。


去る8月9日に、20個のスポンジの上にセットしたパクチーの種のうち、8月18日に3個のスポンジで発芽を確認できた。その3個のスポンジは、伊藤龍三さんの著書『100円グッズで水耕菜園―土がいらない、野菜47種類の育て方』を参考に、「栽培バッグ」に移し、液体肥料を入れたトレーの中に置いた。今日(8月25日)確認したところ、3個の栽培バッグのうち2個で、順調な成長を確認できた。先週2–3cmほどだった茎は、倍の長さになっていた。ひょろひょろでカイワレダイコンのようだが、ふさふさの「モバイル・パクチー」に向けて、ようやく一歩前進した。この流れに乗って、「追いがつお」ならぬ、「追いパクチー」するべく、栽培バッグの横に、追加の種をセットした。

この水耕栽培の試みを可能にしているのは、液体肥料(液肥)だ。ただ水の中に置いても植物は成長しない。かつて、私は急性腸炎で入院したことがあるが、そのとき飲まず食わずでも回復したのは、点滴によって栄養補給したからだった。液肥には、点滴のごとく、植物の生育に必要な栄養素が配合されている。家庭用の液肥は、現在では広く普及しているが、1970年代までは農林水産省が認可している肥料のジャンルとして存在しておらず、法律を改正する必要があった(ハイポネックスジャパン, 2013)。家庭用液肥市場を牽引してきたハイポネックスジャパンは、日本の環境に適した肥料の研究開発と並行して、法律の改正にも取り組んだという。こうした企業努力を後押ししたのは、1990年に大阪で開催された「花の万博(国際花と緑の博覧会)」によって火がついた、ガーデニングブームだ。私たちが、日頃「あたりまえ」に目にしている商品は、このように、意志を持った人びとによる取り組みや、社会的な出来事の連なりの中で生まれ、残り続けているものだ。
私たちの「パクチープロジェクト」の(文字通り)種を蒔いた後、長旅に出た師匠が、1ヶ月後には帰ってくる。それまでに、必ずやパクチーをふさふさにしたい!これまでの写真を振り返ってみると、ひとつひとつに華やかさはなく、とても小さな変化の連続だ。こんなときは、以前、インタビューしたフィンランドの教育関係のNPOで働くスサンナさんのことばを思い出す。「日々の成果は、本当に小さなものです。毎日、ドラマティックな達成感があるわけではありません。でも、変化は大きすぎても続かないので、小さな変化を着実に積み上げて前進していけば良いと思っています」
【参考文献】
伊藤龍三(2012)100円グッズで水耕菜園―土がいらない、野菜47種類の育て方,主婦の友社.
ハイポネックスジャパン(2013)ヒット商品ハイポネックス原液 http://www.hyponex.co.jp/_img/tips/pdf/hyponex_undiluted_solution.pdf (2016年8月25日アクセス).
公益社団法人 日本家庭園芸普及協会(2016)これまでのあゆみ
http://www.kateiengei.or.jp/about/history.html (2016年8月25日アクセス).