パクチーが暑さに弱いというウワサは本当らしい。9月14日に種を蒔いたパクチーは、涼しくなったことを確かめるようにおそるおそる地上に顔を出し、ホッとしたようにのびのび成長し始めた。今度こそおいしく育ってくれよと願いを込めて、9月27日にも追加で種を蒔き肥料を与えた。このまま収穫まで、パクチーと共に突っ走りたいところである。

さて前回の記事で宣言した通り、パクチー嫌いだけどパクチーのことばかり考えている私たちはついに、パクチニストの聖地「パクチーハウス東京」に行ってきた。東京は世田谷区、経堂駅に降り立つ。学生街であるこのまちは若々しいエネルギーにあふれ、商店街も活気に満ちているようだ。緊張を誤魔化すためにそんなことを考えながら5分ほど歩くと、こんな看板が目に飛び込んできた。

こ、ここだ・・・。すでに圧倒されながらも、勇気を出してエレベーターに乗ってお店の前まで行く。(ちなみにエレベーターの床のマットもパクチー柄、という徹底ぶりだった。)

すると出迎えてくれたのは、あまたの「パクチーグッズ」だった。パクティー(パクチーのお茶)、パクチーコロン、パクチーアロマ、パク塩、パクチーの料理本・・・。なんだ、このディープな世界は!もうダメかもしれない。涙目になりながら、震える手でドアを押す。

「いらっしゃいませー!」店員さんの元気な声が響き渡る。立ち飲みスペースも含めたら40名以上入れるだろうという広さの店内は、月曜日の19時前だというのに大盛況だった。無事予約が取れて良かった、とあらためて思う。客層は20代~50代まで幅広く、女性7割・男性3割といったところだろうか。皆一様にものすごく楽しそうにしているが、テーブルの上は緑、緑、緑、一面の緑。異様な光景である。私とカナさんは異文化との出会いにドギマギしながらも、意を決して次々とパクチー料理を注文しはじめた。

パクチーの種入りビネガードリンク、パクタルソース(パクチーのタルタルソース)の島豆腐、パクチーアジア旅3品盛り(おひたし、バンバンジー、ひき肉和え)パク天(パクチーの巨大天ぷら)、酸っパク麺(すっぱ辛いフォー)・・・。見たことのないパクチーの量に心底恐れおののいた。ビビる私たちに追い打ちをかけるように、「追パク(無料で頼める追加のパクチー)お願いしまーす!!」というお客さんのイキイキした声が後を絶たない。この人たち、どんだけパクチー食べるんだろう・・・。もはや周りを訝しがりながら食べ始めると、意外にも美味しくて驚いた。嫌いなものこそ、一流の場所で食べるべきなのかもしれない。特にパクタルソースとパク天がとても美味しく、気に入った。

でも生パクチーばかりの3品盛りは私たちにはきついね、なんて話しながら箸を進めていると、隣の席から声がかかった。

「すみません、メニューを取っていただけますか?」

そう、席に着いた時から不思議に思っていたのだが、パクチーハウスは基本的に「相席」なのだ。私たちもふつうの4人用のテーブルを、仕切りもなく腕が当たってしまいそうな距離で2人2組で使っていた。店内を見やると、8人用の円卓も3組で使っている。おまけにメニューも1テーブルに1つである。他人との会話が生まれやすいつくりになっているようだ。

後から調べてみると、パクチーハウスは“交流する飲食店”をコンセプトに掲げていた。相席もメニューのことも、交流のしかけと言えるだろう。功を奏していると思った。しかも、「パクチー」という強烈で特殊なコンセプトに惹かれてあつまっている人びとだからか、店内の一体感が半端ではないのだ。立ち入った瞬間から、ここにいる皆が好きなものを私たちは好きではないということに、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。たぶん、知らないアイドルのライブ会場に迷い込んでしまったらこんな気持ちなのだろう。

「パクチー、お好きなんですか?」

しかし交流のしかけのおかげで、隣に座るお姉さま2人組にメニューを渡しながらついつい質問している私がいた。「ええ、とっても!」と彼女たちは答えながら、追パクをどっさり皿に盛る。パクチーが残っている私たちの皿を不思議そうに見つめていたので、実はふたりともパクチーが苦手であること、だけど訳あってパクチーを研究していることなどを伝えた。「そんなことって、あるのね〜!」彼女たちはとても驚いているようだった。そこからパクチーや他の香草のこと、海外料理のことなど、4人でひとしきり盛り上がってしまった。

「良かったらコレ、食べてみなよ!」

彼女たちから、パクチーが練りこまれたパン(!)のおすそわけをもらった。今までの私たちなら首を横に振りまくって断っていただろうが、おすそわけの嬉しさもあり、とても美味しく頂くことができた。そしてすっかり気が大きくなって、パクチーシャーベットとパクチーアイス(パク蜜がけ)まで注文した。

「良かったら、どうぞ。」

今度は私たちがおすそわけをする番だ。「やった!食べてみたかったのよ。」そこからまた、会話がはじまる。ここではパクチーが、人と人とをつないでくれる。20時を過ぎ、店内はますます混み合い満席だ。立ち飲みスペースも賑わいはじめる。食事が終わるころにはもう、最初に感じた居心地の悪さは消えていた。


週刊パクチー通信

パクチーを育てながら、パクチーについてあれこれ調べて、考えて、書いてみる。

はしもとさやか

Written by

週刊パクチー通信

パクチーを育てながら、パクチーについてあれこれ調べて、考えて、書いてみる。

Welcome to a place where words matter. On Medium, smart voices and original ideas take center stage - with no ads in sight. Watch
Follow all the topics you care about, and we’ll deliver the best stories for you to your homepage and inbox. Explore
Get unlimited access to the best stories on Medium — and support writers while you’re at it. Just $5/month. Upgrade