45: パクチーと「故郷」の味

Kana Ohashi
週刊パクチー通信
3 min readMay 18, 2017

研究計画書のしめきりや学会発表の準備などに追われて、ゴールデンウィークも含めて、パソコンと向き合う時間の多い日々を送ってきた。ようやく今週で一段落しそうだ。しばらく遊びに出かけることができない状態だったので、せめて気分だけでも旅をしようと、先日、近所の本格タイ料理レストランで食事をした。たくさんあるメニューの中から、「今日のおすすめ」だった、カオマンガイを注文した。タイ語で、カオは米、ガイは鶏という意味で、組み合わせると「(ゆで)鶏肉ごはん」ということになるらしい。在京タイ王国大使館のウェブサイトを見ると、カオマンガイは、大使公邸で行われるパーティーでも、人気のメニューということだ。

運ばれてきた皿には、たっぷりの鶏肉とにんにくやしょうがで味つけされたごはんとともに、大きく育ったパクチーの葉がのっていた。約1年前にこの『週刊パクチー通信』を始める前までは、絶対によけていたパクチーだったが、今では料理の一部として味わうことができるようになった。このカオマンガイ、見た目はとてもシンプルだが、鶏肉とごはん、どちらとも味、香り、食感、すべての仕上がりが絶妙だった。いつもであれば食べきれないボリュームだったが、夢中になってパクチーも含めて完食してしまった。

あまりに美味しかったので、気分が良くなって写真をインスタグラムにのせたら、これまで私の写真に一度もコメントしたことがなかった同じ研究室のヌーイが「おいしそうです!!!!」と書き込んできた。彼女は、昨年の秋、タイから日本に来た留学生だ。この春から、研究室のメンバーになった。勉強熱心なので、まだ日本に来て1年も経っていないのに、日本語を話すし読み書きもがんばっている。「故郷」の料理である「カオマンガイ」の写真を見て、コメントせずにはいられなくなったのだろう。彼女の反応を見て、外国で暮らしていた時の気持ちを思い出した。日本で暮らしていた時は見向きもしなかった佃煮をむしょうに食べたくなって、日本にいる家族に頼んで送ってもらったことがある。どこか特別なブランドのものではなく、スーパーでふつうに売っている佃煮だ。その味が、日本での日常を思い出させてくれて安心したものだった。

「故郷」は、特定の場所(生まれ育った国や地域)を指すことばとして使われることもある。しかし、ヌーイにとっての「カオマンガイ」、私にとっての「佃煮」のように、具体的なモノ、そこから想起される大切な人びとや出来事の記憶やつながりよって構成される、複雑で曖昧で豊かな概念でもあるとあらためて思う。

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Kana Ohashi
週刊パクチー通信

Ph.D. in Media and Governance. Associate Professor at Department of Communication Studies, Tokyo Keizai University.