52: パクチーなんて、嫌い

Fumitoshi Kato
週刊パクチー通信
3 min readJul 6, 2017

いつものように、ちょっとした思いつきだった。ちょうど1年ほどまえ、コリアンダーの種を蒔いた。
日差しを気にしながら、忘れずに水をやり、静かに見守る。きっと、何かを地道に「育てる」という体験をしてほしかったのだと思う。人間関係も、植物の世話をするのに似ているのだ。焦らず、でものんびりしすぎないようにする。適切なペースで、根気よくつき合う。過度に期待をしてはいけないし、でも諦めることも避けたい。プランターの面倒を見ることで、学ぶことはたくさんあるはずだ。なにより、じぶんが育てているつもりでも、じつは(それは思い込みで)、ひと言もしゃべることのない植物に、ぼくたちのほうが育てられているような気分にさえなる。

何の種を蒔いたのかを伝えることなく「…みんなで育ててみてください。」というメッセージを残して「サバティカル(特別研究期間)」に入った。そして、遠く離れてプランターのようすをうかがうことになった。まずはちいさな双葉を見て、何に生長するのかを知るはずだ。それからは、たまに観察日記のようにプランターの写真がSNS上に並ぶ程度のことを期待していた。コリアンダーを育てたことはないが、梅雨から真夏へと向かう時節だったので、なんとなく条件は厳しいように思えた。

6000キロ離れたまちでは、近所のマーケットで、新鮮なコリアンダーを簡単に手に入れることができた(しかも安い)。いずれは、ぼくの仕込んだプランターも、ふさふさとしたコリアンダーで覆われるにちがいない。そんな妄想をした。
ぼんやりと予想はしていたが、ぼくが蒔いた種は育たなかった。だが、すぐに別の種が植えられたり、水耕栽培の試みがはじまったりして、「育てる」ことへの執着心を感じることができた。すぐに「終わり」になることはなかった。

July 30, 2016

『パクチー通信』は、まったく予期せぬ展開だった。しかも「週刊」だという。さらに驚くべきことに『パクチー通信』は、2016年7月14日の創刊以来、毎週木曜日、ずっと休むことなく発行されてきた。何らかの媒体を定期的に発行しようと試みたことのある人ならわかると思うが、たとえちいさくても、週に一度というペースで発行するのは、かなり大変なことだ。まずは、ここまで続いたことを喜び、著者たちに拍手をおくりたい。

そもそも、『パクチー通信』を創刊させた二人は、パクチーが好きではなかった。「パクチーなんて、嫌い」だったのだ。だから、プランターをふさふさのパクチーで覆うことよりも、パクチーについて語ることへと意識が向いたのだろうか。「パクチーなんて、嫌い」だったからこそ、レシピや「食レポ」だらけの内容にならずに済んだのかもしれない。
あっという間の52週間。ぼくの蒔いた種は、何かを「育てる」ことができたのだろうか。そして、ぼくは、コリアンダーに(パクチーに)どのように育てられたのか。『パクチー通信』を発行し続けてきたことは、これから何につながってゆくのか。パクチー料理でも食べながら、ゆっくりとふり返ってみようと思う。

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Fumitoshi Kato
週刊パクチー通信

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