コミュニケーションのきっかけを仕掛ける

Sho Okawa
隔日日記
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4 min readOct 2, 2016
店に貼られた「No Pokemon」

ぼくの働いているミュージックバーでは、いくつか「定番」の会話がある。上記の “No Pokemon”は、特に外国人観光客を中心に会話のきっかけとなる話題の種だ。「日本でもポケモンGOは流行っているの?」「上手なピカチューだね」といった会話から、大抵は「もうアメリカでは誰もやっていないよ」といった話や、「これのせいで交通事故が起こっててもうウンザリなんだ」なんて社会的な話に広がっていく。外国人観光客はおもしろがって写真を撮って帰ることが多く、この小さな紙切れが店では最も人気なコンテンツのひとつになっている。この絵を誰が書いて貼ったのかは分からないが、おそらくそういった会話を想定して貼ったものではないのだろう。しかし実際には、何気なく貼った紙切れ一枚でいくつものコミュニケーションが生まれている。このように、他にも店にはいくつかの会話のきっかけが散りばめられている。

小銭を食べる貯金箱

サルの顔をした貯金箱は、小銭を入れると口を動かして食べるオモチャだ。はじめて雑貨屋さんで売られているのを見たときは、誰がこんな貯金箱を使うんだろうかと疑問を抱いたのだが、なるほど、店に置いておくものなのかと合点がいった。これもまた、外国人観光客たちがおもしろがって小銭を突っ込んでいく。海外旅行で金銭感覚が身についていないのか、500円玉を入れる人さえいる。日本人のなかにも、酔って小銭を食べさせる人もちらほら見かける。小銭を入れたあとは、この妙な貯金箱に話題がうつる。もちろん、この貯金箱だけで10分も20分も話すことはないのだが、この貯金箱をきっかけにコミュニケーションが豊かになっていくこともある。コミュニケーションは話題ごとに断絶されたものではなく、すべての会話や所作が連続的に次のコミュニケーションを生んでいく。こんなオモチャも立派にコミュニケーションの発展に貢献するのだ。

菅野美穂のヌード写真集

菅野美穂の写真集は、日本人男性がこぞって食いつくキラーコンテンツだ。閲覧自由になっているので、開いて読んではみな彼女のヌード写真に火をつけられ、青春時代の話を意気揚々とはじめる。そもそも、店長はこれを「会話のきっかけになればと思って」置いてみたそうだ。その目論見が功を奏し、様々な会話がこの一つの写真集から広がってゆく。No Pokemonのように意図せずきっかけとなるものもあれば、この写真集のように意図的にコミュニケーションを生み出すことも可能だ。バーではお客さんとの会話を盛り上げることが店の利益に直結するため、こういった小さな仕掛けを施しておくことで生まれるコミュニケーションも立派な商材となるのだ。

話は変わるが、ぼくが大学生のころ、就職活動で大手企業からいくつも内定を貰っていた先輩が「面接では会話のきっかけを仕込んでいくことが重要だ」と教えてくれた。先輩は常に真っ赤なネクタイを締めて面接に挑み、ネクタイに話題がうつると待ってましたと言わんばかりに、「願掛けで赤いネクタイを締めてきました。パンツも赤いのを履いてきましたよ。」とズボンを下して見せていたそうだ。さすがにそれはやりすぎではと思ったが、こういった些細なきっかけが場を和ませ、コミュニケーション全体の印象に還元されていくのだろう。就職活動の面接は、与えられた質問に答えていくノイズの少ない反復行為のように捉えられがちだが、こちらからきっかけを提供していくことだってできるのだ。もちろん接客や面接に限った話ではなく、普段の会話やプレゼンテーションのような場でも同様だ。着ている服や身に着けている装飾品は分かりやすくきっかけになり得るし、流れている音楽にちょっと反応してみることや、しぐさの一つがきっかけになっていくこともある。仕掛けが思ったように作動しないこともあれば、上手くいってしてやったりとなることもあるだろう。その不透明さも含めてコミュニケーションは楽しいのだが、まずはこのトライアンドエラーを繰り返してみて、自分なりの仕掛けを探ってみるしかないのだろう。

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Sho Okawa
隔日日記

大学院生2年目。新宿ゴールデン街で働いています。