一番好きな、という質問

Sho Okawa
隔日日記
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4 min readSep 27, 2016

ミュージックバーで音楽をかける仕事をしていると、音楽の話で盛り上がることが必然的に多くなる。話の節々に覗かせる趣味嗜好を読み取って、相手が聞きたいであろう音楽をかける。外国の観光客には、彼らの出身地のバンドをかけてあげると、往々にして喜んでくれることが多い。「マンチェスターから来たんだ。」なんていうお客さんには、オアシスをかけてあげれば次第に店内で合唱がはじまり、コミュニケーションはよりスムーズになっていく。

そうやって話をしていると、よく質問されるのが「一番好きなバンドは何?」というものだ。ぼくはいつも反射的に、「難しい質問ですね」と返す。実際、この質問はいつもぼくを悩ませてきた。一番コンスタントに聴くのは、ビートルズかもしれない。聴くたびに泣きそうになるのは、サム・クックだ。アルバム単体でいうと、オアシスのモーニング・グローリーを一番再生したと思う。でもギターのフレーズを一番弾いたのは、おそらくメタリカだ。話のトピックを細分化させればそれぞれに答えることは難しくないのだけど、それぞれの質問をいくら考えても「一番好き」にはたどりつかない。「好き」という曖昧で掴みどころのない感情は、「他との比較」によって導かれるものではないのではないだろうか。

実は、「一番好きなバンド」という質問にぼくはひとつの答えを用意している。AC/DCというバンドだ。オーストラリア出身の無骨なロックンロールバンドであるAC/DCとの出会いは、中学生のときにさかのぼる。二つ上の兄が部屋で彼らのBack In Blackというアルバム(ちなみに、このアルバムは世界で三番目に売り上げている)を爆音で流していたのを聴いて以来、ぼくはずっと彼らの大ファンだ。高校でギターをはじめたぼくは、AC/DCのギタリスト、アンガス・ヤングに倣ってSGというギターを買った。高校文化祭の(非公式)テーマ曲を作ったときは、AC/DCのギターリフをオマージュしたりもした。そんな数ある思い出の中でも、AC/DCを聴くたびに思い出すのは、彼らのライブに行ったときのことだ。

AC/DC 赤い彼が持っているのがSGギター

2010年、彼らがBlack Iceというアルバムのリリースツアーで大阪にやってきた。是が非にでもチケットが欲しかったぼくはあらゆる手を尽くした。そんなとき、偶然にもmixiのファンコミュニティで、一枚余ったS席最前列を譲ってくれるという方を見つけた。書き込みの10秒後に見つけたぼくは、幸いにもチケットをその方から譲り受け、最前列でAC/DCを見ることができた。そのコンサートは言葉にできないほど素晴らしく、無骨なハードロックバンドであるにも関わらず、ライブの後半では譲ってくれたその方と二人して涙を流してライブを見ていた。ライブを見て涙を流したのは、後にも先にもこれっきりだ。

ぼくが「一番好きなバンド」として彼らの名前をあげるのは、彼らの音楽が好きだということはもちろんだが、それだけではない。AC/DCというバンドを通して直接的・間接的に体験した思い出が数えきれないほどたくさんあるのだ。ロサンゼルスでオープンカーに乗って深夜に爆音で鳴らしたAC/DCは旅にエキサイティングな思い出を添えてくれたし、心が荒んでいた日に聴いたときは彼らの底抜けに明るい音楽が気持ちを前向きにリフレッシュしてくれた。音楽だけでなく、このような「ぼくとAC/DCの関係」があるからこそ、ぼくは一番好きなバンドにAC/DCをあげ続けている。きっとこれは音楽だけに限った話ではないとぼくは思っている。ミスターチルドレンの桜井和寿が、「愛はきっと、気が付けばそこにあるもの」と言っていたのは、そういうことなんじゃないだろうか、と思ったりしている。

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Sho Okawa
隔日日記

大学院生2年目。新宿ゴールデン街で働いています。