「聴く」技術

アジアンカンフージェネレーションのボーカル、後藤正文(ゴッチ)がある日のTwitterで次のような発言をしていた。

読んだり、聴いたりするのにも技術ってあるんだよ。優れた音楽家は、演奏技術もそうだけど、何よりもまずは「聴く」って技術が凄いんだよね。なんでもある時代に大切なのは「読む」とか「聴く」とかそういう技術だと思うなぁ。つまり理解するってことなんだけど、これ、自分の能力を問われるよね。

その通りだな、と思いつつ、改めて「聴く技術」とはなんだろうか、と考えた。音程やリズムの良し悪しを聴く力だろうか。鳴っている楽器の細かな違いを感じとる力もあるかもしれない。そもそもその音楽が「良い」か「悪い」かを自らで判断する文化的素地も「聴く技術」だろう。後藤本人はアーティストであり、エンジニアリングや音作りに関心が強いので、「優れた音楽家は」と言っていることからも、「良い音」を追及していく上での技術のことを言っていたのかもしれない。彼の発言の真意はわからないが、自分なりの聴く技術を考えてみたい。

ぼくが思う一つの聴く技術は、「文脈を読む力」だ。文脈を聴く、と言ってもいいかもしれない。つまり、その音楽が歴史上どのような音楽の文脈の上にあるのかを感じ取る力だ。先代から何を受け継ぎ、何を残そうとしているのか。何に影響を受け、その上でどのようなオリジナリティを生み出そうとしているのか。文脈に注意して音楽を聴くと、今までとは違った聞こえ方がしてくるはずだ。

とはいっても、文脈を読むことはそう簡単なことではない。何よりもまず、昔の音楽を聴く必要がある。ゴッチは奥田民生に強い影響を受けているが、奥田民生を聴いたことがなければ、どこがどう奥田民生らしいかは分からないままだ。その奥田民生はユニコーンでは子供ばんどのようなコンセプトに強く影響を受けていたり、AC/DCのようなハードロックに傾倒している様子が聴いてとれる。もちろん60年代のロックンロールやソウルの文脈もしっかりと受け継いでいる。このように、たどればたどるほど、音楽が歴史上どのように紡がれ、新しい音を作ってきたのかがわかるようになってくる。そうして初めて、このバンドのオリジナリティとは何か、といったことが聞こえてくるのではないだろうか。

ゴッチはまた別のインタビューで、Alabama Shakesというバンドの新しさについてこう言及している。少し長いが、引用させていただく。

後藤「これもショーン・エヴェレットがエンジニアをやってて。プロデューサーもエンジニアも一緒だから、ちょっとニュアンス的には、このアルバムの発展形のような感じもしますね。でも、実際、何なんでしょうね? 新しいんだけどスタンダードでもあるっていう。音楽もそういうものじゃないですか? だから、『こういうのはきっと見直されていくのかな?』っていう直観はありましたね。一聴して新しい、っていうところではなくて」
●すごくオーセンティックな流れの上に成り立った新しさ?
後藤「そうそう。その文脈の中でフィーリングが新しい、みたいな。でも、こういうのが広がるのって、ものすごく豊かだと思って」
●文化的にね。
後藤「そう、文化的に。日本の文脈から見たらあんまり差がわからなくても、向こうの人たちが見たら、『わっ、これは新しいエネルギーだ!』ていう風にヴィヴィッドに反応する感じ。それがすごく羨ましいなと思って。しかも、実際、アメリカのフェスの現場はこのバンドに熱狂してるわけだし」
●過去の蓄積の上に成り立った最新型のサウンドがきちんと多くの人に支持されてる。

Alabama Shakesというバンドは、今年のグラミー賞で4冠をとった新人アーティストだ。ブルースやソウルのコアとなる古典的な部分を大切にしながらも、どこか新しい、21世紀の音を鳴らしているバンドとして、大きな注目を浴びている。ここでゴッチが嘆いているのは、まさに日本人の「文脈を読む力」の低さだ。もちろんAlabama Shakesはアメリカのバンドであり、アメリカ音楽の文脈の上にあるので、日本人には理解が難しい。だが、こと日本の音楽においても、日本人はあまりその文脈を意識せずに聴いているのではないかと思うことが多い。

同年代の音楽好きと話をしていて強く感じるのが、「横」に音楽を聴いているな、という感覚だ。「縦」ではない。好きなアーティストと同年代に生きる、似たような他のアーティストを探すことばかりに必死になって、数年前のアーティストを知らない、といったことがよくあるのだ。マキシマムザホルモンが好きで、他の似たアーティストもいっぱい知っているが、グルーヴメタルの祖であるパンテラは知らない、みたいなことだ。知っていなければならないということではないし、知っていたら偉いといった話ではない。ただ、それらを合わせて聴くとより音楽が楽しめるのに、と思うのだ。

最近はYou TubeやApple Musicのおかげで、「あなたにオススメ」と、好きなアーティストと似たアーティストを大量に表示してくれる機能が充実している。自らの手で新たな音楽を発掘しようとする気持ちがない限り、「縦」に音楽を聴くことが難しい時代になった。しかし一方で、WikipediaやアーティストのインタビューなどがWebですぐに読める時代でもある。ラジオや雑誌もいまだ健在だ。彼らがどのような音楽に影響を受け、どの文脈の上にあるのか、その情報の取得は以前に比べて容易になった。まずは好きなアーティストが着ているバンドTシャツや、好きだと公言しているアーティストから聴きはじめてみよう。きっと、好きなアーティストをもっと好きになることができるはずだ。

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